第197話 美味しい物のためならえんやこら。

『うおおお!美味しい物のためならえーんやこら!!』


 竜に戻ったアーテルは、自分の街近くの森の木々を根っこごと引き抜いて、そこらへんに放り捨てていく。

 やはり、美味しい物を食べるのには畑を作る必要がある。

 竜族の力ならば、人間では重労働の木々の引き抜きも、雑草を引き抜く程度の手間暇である。ならばそれを活用しない手はない。

 普段ならば面倒くさがってそんな事をしない彼女ではあるが、

 そして、そのためには自分自らが動く必要があるというのが、彼女の結論である、

 近くに火山があり、炎の精霊力が比較的強いこの近辺では、亜熱帯気候とは言わずとも、地中海気候程度の暖かさはある。


 シュメルツェン火山近くでは硫酸など危険な物質で汚染されており、炎の精霊力が強い分高熱ではあるが、ここアーテル領ではそんな心配もなく作物を作ることはできる。火山近くだけやたら高温なのは、炎の精霊力が高まりすぎているのではないか、とアーテルは推測しているが、彼女も竜族であるため、炎の精霊力を操作して火山の噴火などを抑えている。(こんな近くの火山が噴火したら、アーテルにも被害が来てしまうからだ)


 とはいえ、その余波でアーテル領は温暖湿潤気候に属するかなり温かい気候になっている。雨の量の十分であるため、開拓さえ行えば非常に肥沃な大地になることは間違いないだろう。


『妾、作物の事はよく分からんが、妾の住む土地ならば肥沃な大地になるに違いない!

 つまり畑さえ作れば美味しい物がバンバン食べれるという訳じゃ!勝ったなわはは!!……鉱害とか妾絶対に許さんからな。定期的に妾も鉱山に浄化魔術をかけにいこう。』


 自分の住んでる所だから肥沃な大地に違いない、というのはアーテルのただの思い込みではあるが、実際にここが肥沃な大地である事は間違いない。

 世界樹からの豊富な地脈のエネルギー、しかもシュメルツェン火山の余波の影響による温暖湿潤気候と豊富な雨と逆に肥沃な大地にならないのが不思議なぐらいである。


『っていうか!妾の畑を汚すやつは許さん!鉱害だろうがゴブリンだろうが許さん!

 後は農業の経験のある流民どもを農奴してコキ使ってくれるわ。

 ふふふ、クソ雑魚農奴どもは皆体が弱い(ドラゴン基準)だから三食昼寝つきで妾の畑を維持するのだから、きちんと健康管理もしてくれる!

 妾の食事の材料を作ってくれるのだから、雑魚農奴(別に奴隷ではない)どもには優しくしてやらんとなぁ……。くくく。ははははは!!』


 天を仰いで哄笑しているダークドラゴン形態のアーテルをやれやれ、と離れた場所でアリアは見守りながらため息をつく。


「まあ……まだ木々を引き抜いただけの荒れ地なんですけれどね……。

 これを畑にするのはやっぱり手間がかかるなぁ。」


 ともあれ、自分の作り出した畑に愛着を持ってくれるのなら、それを世話してくれる農民たちにも苛烈な事はしないだろうし、畑を守るために周囲の邪魔な因子たちを自主的に排除してくれるだろう。

 とりあえずヨシ!あとは農業の経験のある流民をピックアップして畑作りに専念してもらおう、と判断するアリアだった。

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