第192話 飛行船の開発(予定)

「後はまぁ無難な所で高高度に届く大砲の開発よね。艦隊用の大砲を流用したらどう?とは思うけど……砲弾は純粋に重量があるからね。質量のない魔力弾の方がより高い場所を攻撃できるんじゃない?と思うけど……まあ、まだ実験すらしていないから何とも。」


 新規に開発しなくても、艦船に搭載されている半カルバリン砲やセーカー砲を対空砲に流用すれば、高高度まで届く高射砲にはなりえる。

 だが、言うまでもなく、艦用の半カルバリン砲などは当然の事ながら非常に重い。

 騎馬砲兵は辺境伯も所有しているが、基本的に騎馬砲兵は軽量砲がメインである。

 これら重い砲台を持ち歩きながら戦場にまで向かうのは、持ち前の機動性が損なわれてしまう可能性が高い。


「しかし~そうなると、バリスタ、大砲、魔術砲台の複合迎撃部隊になるわけですか~。……もう要塞を作った方がいいのでは?」


 確かに、ルクレツィアのいう通り、要塞を建築すればさらに飛距離の長いカルバリン砲なども使用でき、迎撃能力が上がるのは確かである。

 だが、それにも予算という問題もあるが、さらに大きな問題もあった。


「相手が空を飛べるんだから、いくら対空兵装の整えられた要塞作ってもそこを回避されたら終わりじゃない。よっぽど地形的に優れた場所とかなら別だけど。」


 そう、飛行できる存在にとって、いかにハリネズミのように固めた要塞といえど、その上空を飛ぶのをやめて他の空域を飛べばいいだけなので、要塞は例えば左右が高い山が聳え立ち、そこしか飛行できる場所という極めて限られた場所でないと意味がないのである。

 そうなってしまっては、せっかくの要塞も無駄になってしまう。

 シャルロッテは肩をすくめながらさらに言葉を続ける。


「まあ、後はこちらでも竜機や空中戦艦とはいかなくても、空を飛行できる飛行船ぐらいは研究しておいた方がいいでしょうね。密やかに気球……飛行船の研究はしてるけど、アーテルあたりに知られるとマジ切れするでしょうけど。」


 そう、シャルロッテたちは旧帝国の頃から飛行船、空中戦艦の研究なども行っていた。それは上空から急速度で襲い掛かってくる竜たちに対抗するために研究されていたものである。

 当然、飛行船では遥かに速度に勝る竜族には勝てないが、飛行船に大砲を搭載する事で、空中砲台へと変化させることによって、向かってくる竜たちに砲撃を仕掛ける予定だったのである。


 リュフトヒェンが新しい国を作ってはそれどころではない、とその企画は立ち消えになっていたのだが、魔導帝国の侵攻をきっかけに、飛行船計画を再提出してもいいのではないか?というのがシャルロッテの考えである。


「とは言いましても~やっぱりそちらの言う通り、あのプライドだけは無駄に高いダークドラゴンが反対するのではないでしょうか~?

 竜族は「天空は我々の領地だ。」という考えが基本的なので、人が空に踏み入るのは極端に嫌うのでは~?」


 ルクレツィアの言う通り、竜族は「大空は我々の物であり、我々の領地である」という考えをもっているのが基本である。

 そして、その大空に踏み込んでくる人間たちを非常に嫌い、今まで幾多の空を駆ける魔術や魔道装置を開発して空を駆けてきた人類を排除してきた。

 そして、それはかなり人間・亜人寄りの価値観を持っているリュフトヒェンでも同じだった。もっとも、彼は他国の侵攻に対抗するために、飛行船などを開発するのを賛成しており、そちらは問題はない。(内心はどうあれ)


 問題は純粋な竜の価値観を持っているアーテルの方である。

 彼女の考えからすれば、飛行機械などもっての他!人類が空に足を踏み入れるなど許されない!と絶対に反発するに決まっている。

 今のところは、彼女たちの力で航空優勢を保っていられる竜皇国ではあるが、これから他国の飛行技術の進歩によってはそれも揺るがされる可能性がある。

 そうなる前に、こちらも飛行船などの技術開発が必要なのだ。


「まあ、そこらへんは、我らの王である竜皇様に何とか説得してもらいましょ。

 同じ竜なんだから、それくらいしてもらわないと困るわよ。向こうに放り投げるのが一番ってね。」

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