第193話 航空技術と竜族
「どーいう事じゃー!!」
竜神殿の扉を(文字通りの意味で)蹴破りつつ、アーテルは、憤懣やるせないと言わんばかりに、ずんずんと竜神殿へと入ってくる。
蹴破られた扉の残骸は猛烈な勢いで飛び散りながら、神殿の壁へと突き刺さる。
念のため、しばらく信者や一般人を入れされないようにしておいて正解だった、と駆けつけてきたセレスティーナはため息をついた。
「アーテル様。お静まりください。怒ってばかりでは何も話は進みません。」
そんな呆れ顔のセレスティーナに対して、アーテルは怒り狂いながら彼女に向って叫ぶ。その威圧には竜の咆哮の魔力も籠っており、並の人間なら瞬時に恐慌を起こすほどである。
「うるさい!貴様では話にならん!あの小僧を出せ!話し次第では容赦せんぞ!!」
なんだなんだ、どうしたんだ?と小型化したリュフトヒェンが奥から現れた瞬間、アーテルは黒髪を魔力で巻き上げ、目を赤く欄々と輝かせながら吠える。
「どうしたもこうしたもあるか!!何じゃこの飛行船計画とやらは!空は我ら竜族の領域じゃぞ!それを人間どもの土足で踏み入れられて黙っていられるか!恥を知れ恥を!貴様、竜としての誇りはあるのか!?」
その心を打ち砕く咆哮を、リュフトヒェンはどこ吹く風で受け流しながら、怒るアーテルをなだめに入る。
『まあまあ、落ち着いて。今の状態だと話にならないから。とりあえずお菓子を用意したから落ち着こう。』
そのリュフトヒェンの言葉に、アーテルはさらに激怒しながら言葉を放つ。
「貴様ァ!妾がその程度で怒りを納めるとでも思っているのか!!まあ食べるけど!!さっさと持ってくるがいい!!」
食うのか……と言う周囲の困惑を他所に予め用意しておいた様々な甘味をアーテルの前に並べていく。
香辛料と蜂蜜が入ったパンデピス、小麦粉と卵、ワインで作られた焼き菓子ウーブリ、小麦粉を焼いて作ったガレットやクレープ、果物などを載せて焼いたタルトなどが机の上に所狭しと置いてあった。他にもブドウやリンゴなど果物も大量に存在していた。
野生の竜だった時には、甘味など野生の果物ぐらいしかなかったアーテルにとって、これは刺激的な光景だった。
先ほどと全く異なり、目をキラキラ輝かせていたアーテルはごほん、とひとつ咳払いをすると、それらを摘まんで口に運びながらリュフトヒェンに話しかける。
「ふむ、まあとりあえず話してみるがいい。聞くだけは聞いてやらんでもない。」
チョロ……と周囲の人間や亜人たちは思いつつも皆黙っている。
今ら機嫌を直しただけで、ちょっとした事でまたすぐに怒り出す可能性があるからだ。
機嫌を直した今のうちにアーテルを説得しなければならない。
『まず、今は我々竜族は空を領土としているけど、徐々に退化を初めつつある生物である、といいのを認識しておいてもらいたい。
それに比べ、人類の科学技術、魔道技術は著しく進歩を初めている。このままでは、我々竜の領域である空にも足を踏み入れてくる。いや、もう踏み入れつつある。』
「そんな物、妾は認めん!!人間どもが空に足を踏み入れるなど許さんぞ!全て血祭りに上げてくれる!!」
怒りを落ち着かせるため、むしゃむしゃと机の上のお菓子や甘味を貪り食らっているアーテルだったが、そんな彼女に対して、リュフトヒェンの冷静な声が響き渡る。
『数人、数百人ならできるだろうけど、数千人なら?しかも、ただ飛んでくるだけで新兵器を備えて戦いを挑んでくるならば?』
むう、と流石のアーテルも唸り声を上げる。
確かに人間どもは数が非常に多い。しかも技術の進歩が著しいことは人間社会を営んでいる彼女が一番知っている。
しかも、アーテルは認めたがらないが、リュフトヒェンのいう通り、竜族は穏やかながら衰退が始まっている種族である。
これからどんどん進歩していく若い種族である人類・亜人たちと、今は強大な力を誇っているが衰退を迎えつつある竜族。
どちらに時間が味方しているかは明白である。
『それに、まだ飛空船など空を飛行する技術はやっと開発されたばかりだ。
今なら我々でも最新の技術を導入して、他の国の航空技術に勝てることができる。
上手くすれば、航空技術の第一人者の国になれるかもしれない。
そうなれば、人間たちにも大きな顔はさせない。『空は我々竜族のもの』というイデオロギーを貫き通す事ができる。
空で強い力を誇る航空大国であり続ければ、空を人間たちが好きにできなくなる。
これこそが、竜族にとって必要な事なんだ。』
つまり、プライドに拘るのではなく、人間の最新の技術を我々こそが空の覇者であるべきだ、とリュフトヒェンは説いているのである。
名より実を取るべき、その熱心なリュフトヒェンの説得に、アーテルもむう、と考え込む。
「なるほど……。つまり、今のうちから人間どもから技術を奪い取って、それを竜族のために役立てるという訳か。今のうちから技術を手に入れて、技術の第一人者となっていれば、他の人間どもが同様の機械を作成しても優位に立てる。竜族での空の優位性は保たれるという訳か。
業腹ではあるが、空で我ら竜族の優位が続くというのならば、人間どもの技術を取り入れるのも仕方ないか……。」
渋々ながら航空技術の開発に賛同してくれそうなアーテルを見て、リュフトヒェンは思わずほっと溜息をついた。
これで、我が国でも航空技術の開発に取り組めるというものである。
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