第191話 対空兵器の開発
―――場所は大辺境から変わり、竜都へ移る。
事実上竜都の最高権力者であるシャルロッテは、竜都やその周辺の管理に忙しく走り回っていた。
大辺境から流れ込んでくる地脈の統制や、大釜から出てくる麦などによって、市民の生活や作物の成長なども今までより遥かに豊かになっている。
そのため、リュフトヒェンやシャルロッテに文句を言う民衆たちもかなり少なくなっている。
セレスティーナの指示で、食料不足の所には、竜神殿に仕える者たちが大釜から出た小麦や大麦などを配給したり、ホームレスの人たちに対しても、大釜から出る麦などを使用しての炊き出しを行っている。
いちいち「竜皇様に感謝するように」というのはうざったいが、頼りになると民衆の間では評判である。
これは、民衆の支持こそが、神竜になったリュフトヒェンの力になるという実用的な理由でもある。
それはともかく、竜都に存在している旧帝国の王宮。
その内部で書類仕事を行っているシャルロッテの元に、一人のセミロングの亜人の女性が入ってくる。
「こんにちわですわ~。お元気そうで何より~。」
それは、辺境伯領主であるルクレツィアである。
旧帝国では、亜人派や中立派として、お互いあれやこれやと鎬を削ったり火花を散らした彼女たちだったが、竜皇国になってからは、お互い同僚としてそれなりに連絡を取り合う仲程度にはなっている。
そんな彼女を迎え入れながら、シャルロッテは軽く肩を竦める。
「わざわざ竜都までやってくるとは、そちらも大変よね……。
で、水晶玉を通さずにわざわざここまでやってくるってのは何か事情があるんでしょう?何?」
竜の鱗を使用した通信と異なり、魔術を使用した水晶玉での通信は、魔術による妨害工作や盗聴などされる危険性が高い。
そのため、肝心な話ではお互いに直接会って話すことが通例となっている。
「はい~。私の領地と隣接してる魔導帝国が最近ウゼェのでして~。
空中戦艦をこれ見よがしに国境近くに飛ばしたり、竜機で平気で国境侵犯をして強硬偵察を試みておりまして~。
地上での戦いなら迎撃する自信はありますが、さすがに空中となると迎撃が難しく、何か迎撃手段があればと~。」
ふむ、とシャルロッテはそれを聞いて、椅子の背もたれに背中を預けながら腕を組む。
この世界において、上空からの攻撃は通例であり、大都市ではそれを防ぐ防御結界やら地下の防空壕などは準備されているのが普通である。
しかし、上空から高速に飛翔する竜族のような存在に対しての迎撃方法は流石に少ない。そんな中、ふと、シャルロッテは気になった事を彼女に聞いてみる。
「そういえば、最近はワイバーンに乗った竜騎士での航空兵力とか作ってるんでしょ?そっちの方はどうなの?」
「速度が違いすぎて竜騎士では追いつかないらしく~。
ワイバーンの生命力を使って魔力噴射すれば追いつけるらしいのですが、それをすると乗っている騎士が風圧に耐えられず吹き飛ばされるようでして~。困ったものです。」
竜機は元々、竜族に対抗するために魔術師たちが竜の亡骸を利用して作り上げた対竜用魔導兵器である。
超音速で飛行する竜族に対抗するために、それに準じた速度を出せるように設計されている。
そんな竜機に対して、ワイバーンに乗る竜騎士部隊は、いわば戦闘ヘリと戦闘機ぐらいの違いがある。
戦闘ヘリで戦闘機を迎撃するのは、やはり流石に無理があるというものである。
ワイバーンも、生命力を使用して超音速に近い速度は出せるが、まず間違いなく乗っている竜騎士は耐え切れずに吹き飛ばされて地面に落下する事になってしまう。
「そうね……まず真っ先に対処手段はバリスタかしら。
ウチはティフォーネが襲い掛かってくる恐怖で何百体もバリスタを作り上げていたから、その技術はまだ残っているはず。こっちでバリスタをいくつか試作してみてそちらで運用してみるのはどう?騎馬砲兵みたいに、騎馬の台車にバリスタを装備させば機動力も問題ないでしょ。」
東ローマ帝国などでは、騎馬の台車に360度回転する台とバリスタを装備させたバリスタ・クアドリロティスという武装が開発されていた。
これならば機動性も問題ないし、高高度の敵に対してもある程度効果はあるはずである。
「後は、新開発の魔術砲台とかどうかしら。船に乗せていた砲台の砲身をさらに延長化させて上空の敵を狙い撃つ高射砲?というのが竜皇から提案されてきたから、それの試作・実戦運用にちょうどいいでしょ。」
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