第190話 冒険者ギルドの誘致(予定)
一応の処置は終わって、セレスティーナはふう、と額の汗を拭う。
彼女からしても全くもって未知の施術だったため、これがどんな結果をもたらすかは彼女自身にも不明である。
下手すれば、まったく効果がないという事も大いにありえる。
「一応処置はしましたが、これで胞子が蔓延している巣の中に入っていくとどうなるか分かりませんからね……。
それに純粋に人数的にもたった三人では巣の攻略なんて不可能でしょう?
菌に侵された軍隊蟻人もまだ残っているかもしれませんし……。
いきなり巣穴に突っ込むのは、私からしても推薦はできません。」
そう言いながらも、彼女はリュフトヒェンに対して、鱗を使って今までの事情を説明する。鱗は事実上の専用通信機であり、魔術妨害なども全く効果がないという大きな利点がある。
リュフトヒェンに全て説明した後で、彼からの言葉を聞いて、セレスティーナは頷く。
「ご主人様的には『なら冒険者ギルドたちに頼ればどう?冒険者なら喜々としてダンジョンアタックに挑むんじゃないの?』とのことです。
まあ、確かに胞子が通用しない彼ら人間ならば貴方たちの巣を取り戻させるのは最適でしょう。しかし、「冒険者を釣るためにも何か餌……アイテムで釣らなくてはいけませんが、何か貴女たちの巣にアイテムとかありました?」
この世界では、傭兵たちの他にも冒険者たち自体は存在する。
リュフトヒェンが自分の国を作るのにこだわったのも、冒険者からの襲撃を受けて倒されるのを嫌がったからである。
戦争などに特化した傭兵たちと違い、冒険者たちはサバイバル技術や単体での戦闘能力に長けている。
だが、さすがの彼らも何もないダンジョンに潜るほど酔狂でもない。
そこに財宝が眠っているからこそ、彼らはダンジョンに潜るのである。
「アイテム?いや……巣を作る時に掘り返した邪魔な希少金属?やら鉱石ぐらいしか……。他にも人里を襲った時に奪い取った財宝なども適当に……どうせ我らにとっては邪魔だったしな。」
親衛隊の軍隊蟻人の言葉に、よし、とセレスティーナは頷く。
量なども聞き出して、それなら冒険者へのドロップ品として十分だろう、と彼女は判断する。
アーテル領かリュフトヒェン領に冒険者キルドの支部を作ってもらい、そこに冒険者たちを呼び寄せて、ダンジョンに潜ってもらう。
それが彼女の基本的な考えである。
「よし、それで行きましょう。それを餌にして冒険者たちにダンジョン攻略と称して巣の内部を探ってもらう。それでいいですか?」
もちろん、蟻人からすれば自分たちの巣が人間たちに土足で入り込まれるのを好むはずもない。ましてや彼女たちにとっては不要なものでも、巣の中の物を強奪されるとあればなおさらである。
だが、今の彼女たちが巣穴の奪還が難しいのも事実。つまり、苦渋の決断だ。
「まあ……正直人間に土足で踏み入れられるのは嫌だが仕方ないか……。
我々にとって無価値な石ころで巣の攻略ができればそれでよしとしよう。」
「しかし……。正直、そこまでその巣にこだわらなくても、新しい巣を再建したほうがいいのでは?胞子に汚染されている巣を取り戻すのは大変でしょうに。」
確かにセレスティーナのいうことは正論である。
菌に侵された巣を取り戻すより、新しい巣を作り直した方が遥かに早く、安全であるはずである。
内部にもし菌に侵された軍隊蟻人がいれば排除し、冬虫夏草が生えていればそれも排除し、できる限り巣の中から胞子を除去するのは大変な手間がかかるのは言うまでもない。
「新しい巣を作れるだけのマンパワーがこちらにはないんだ。
何せ、女王様を除けば実質動けるのは私だけだぞ?
巣の中には、もしかしたら胞子に侵されていない卵があるかもしれない。
できるかぎり胞子を除去すれば住めるようになるかもしれない。
とりあえず、やってみる価値はある。」
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