第163話 税収などの話
何とかリュフトヒェン領に戻ってきたセレスティーナは、そのまま再度荷物を積み込んで再び下流に戻る船員たちと離れ、一度公衆浴場に入ってから竜神殿にいるリュフトヒェンの元へと戻っていく。
彼女も女性、好きな人物……もとい竜の前に出るのに、旅疲れでよれよれの姿は見せたくないという女性心理である。
「ただいま戻りました。」
そんな風に戻ってきたセレスティーナを、書類の山に囲まれたリュフトヒェンが疲れ切った表情で出迎える。
彼の周囲には山のような様々な書類がうず高く積まれている。
この領地のみならず、竜皇国全ての事を決定しなければならないので、当然の事ながら書類仕事が増えるのは当然であるといえるだろう。
『お疲れ様~。色々大変だったようだけど、何事もなくて何より。
はあ、こっちは色々と大変で……。特にハイエルフ公国のハイエルフたちが、復興のための支援すらも嫌がるってどういう事なの……。』
「……支援が嫌だというのなら送らなくてはいいのでは?」
『一応友好国という名目だし、これからの大辺境開拓の力にもなってくれるし、そういう訳にはいかないでしょ。まあ、実際に物資を送ると「嫌だとは一言も言っていませんが?」という感じで受け取ってくれるけど。ツンデレかな?』
はぁ、と思わずリュフトヒェンとセレスティーナはため息をつく。
ともあれ、ハイエルフの里を復興させるのは彼らにとっても我々にとっても共通の課題である。
しかも、自分の街をさらに広げつつ統治していかなくてはいけないとなれば、文字通り仕事が山積みとなる。
今はアーテル領からハイエルフ公国に対する道を開拓するために四苦八苦している所である。
ハイエルフたちは、自分たちの国に対して人が道を作るなどと!と嫌がっていたが、異界の結界がニーズホッグ分体によって破壊され、里もほぼ完全に破壊されてしまった以上、大規模な物資搬入の手段は必要であると彼らも知っている。
「そういえば世界樹の根の傷みはどうなっているんですか?」
「今は人間が作った薬やら、ハイエルフの薬やらを食われた根っこに刷り込んだり、傷んだ部分を削り落としたりしているらしい。
世界樹が倒れたら地脈がめちゃくちゃになるだろうから、きちんと治療してほしいんだが、まあ、大丈夫だろうとの事だ。」
根っこに齧りつかれて、滋養を啜られたと言っても短期間の事だから、きちんと治療すれば問題はないだろう。
(これが長期間に渡れば問題だったが)
世界樹の苗木も、竜神殿の皆がきちんと面倒を見てすくすく育っている。
この苗木が育てば、地脈の制御は全て世界樹の苗木が肩代わりしてくれるだろう。
いうなれば、地脈制御の生体コンピューターと言っても過言ではない。
現状でも、すでに多少地脈制御は任せているので、育てば大きな力になるだろう。
「そういえば、税収の件ですが、そちらもきちんとそろそろ行わないといけませんね。いつまでもリュフトヒェン様の財宝におんぶにだっこでは不健全ですから。」
元の旧帝国の国庫に存在していた金は、神聖帝国が根こそぎ持っていってしまったため、現在はリュフトヒェンの財宝が国庫として使用されている。
だが、逆にいうとこれは極めて不健全な状況である。
言うなれば、この竜皇国はリュフトヒェンの私的な国という事だ。
今はいいが、この先、入ってきた税収も全てリュフトヒェンの財布に入ってしまう事になり、この国自体が自分の財布と思い込んでしまう。
そうなった結果はいうまでもないだろう。
「とりあえず税収を上げる方法、つまり国全体を豊かにしないとなぁ……。
以前言ってたポーションの売れ行きはどう?」
「はい、好調ですね。地脈の力が豊かなこの地なら霊草はあっという間に育ちますし、それらを加工して魔術師の用意した素材を入れてポーションにするだけなら、普通の人間でもできますから雇用も生まれますし。
ご主人様がおっしゃったズボンを作る会社も売れ行きは好調なようです。
ここからも税収は見込めるでしょう。」
頑丈なズボンは確かに鉱山夫たちに飛ぶように売れ、多大な利益を上げつつあるが、これをそのままリュフトヒェンの懐に入れてしまえば、国庫も何もかも彼の私物として自由に使えてしまう恐れがある。
そのため、衣装を作る会社を立ち上げて、そこに利益を入れて、そこから税を徴収するという形を取っているのである。
(名目上の社長はリュフトヒェンになっているが、実質は他の人たちが動いている)
こうして豊かな国にするための地道な努力が行われているのだ。
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