第137話 お風呂にいこう
ともあれ、セレスティーナの話を聞いたリュフトヒェンはため息をついて、セレスティーナの体の状態を聞く事にした。
彼女のことだから問題はないとは思うが、現状を確認しておく必要はある。
「とりあえず……エレンスゲの肉とか食べて大丈夫なの?体に変化とかない?」
「はい、私は魔力量が増えた以外は。エキドナの因子は、肉より血に強く流れて循環されている事は確認しましたので、肉を調理するのなら問題は少ないだろうと。神官戦士たちも飛躍的な魔力や身体能力の向上が見られましたが、悪影響はないです。」
つまり、これを食べさせただけで、通常の兵士たちの身体能力が上がるという事だ。
それだけで身体能力の高い兵士が出来るなら……いや、いかんいかん。
リュフトヒェンはぶるぶると頭を振ってその考えを打ち消す。
危険性を伴う人体改造などを平気で行ったら、それこそ神聖帝国と何も変わらないではないか。
リュフトヒェンは、セレスティーナにエレンスゲの肉をニーズホッグ分体の囮にするように指示を出す。
「ご主人様、竜なのに妙に人道を守る所がありますね……。まあ、だからこそ、人族たちも比較的素直にご主人様に従っているんでしょうが。」
竜としての本能に侵食されつつある彼にとって、人道を破らない、というのはある意味の一線である。
悪意を持ってそれを破れば、一気に完全に竜になってしまうような悪寒があるからだ。(別段そんなことはないだろうが)
「まあ、それはともかく、ニーズホッグ分体の対策は了解しました。
様々な猛毒入りの肉と、腐敗した肉、両方とも用意しておきます。」
「所で、君にも色々苦労をかけているよね?何かご褒美を上げるけど何かほしいものある?お金とか必要なら国庫から出すとうるさいから我の自腹で出すけど。」
最も、現状竜皇国の国費とリュフトヒェンの財産はほぼイコールである。
神聖帝国が財宝などをごっそりと全て持ち逃げしまったため、リュフトヒェンの財産で国の予算を賄っている不健全な状況なのだ。
自分の財布と国費は分けて考えた方がいいとはよく言われているが、国積も出せない以上仕方ないのである(彼自身も早く脱出したいと考えているが)
ともあれ、それを聞いてセレスティーナは瞳を輝かせる。
「ほ、本当ですか!?それじゃ、ご主人様!お風呂行きましょう!お風呂!
もちろん、人型でお願いします!!」
『それは嫌。お風呂にいくのはいいけど、人型になるのは嫌。』
迷う事無く、リュフトヒェンはセレスティーナの意見を却下する。
以前、人型ショタになってしまって散々苦労したトラウマがリュフトヒェンに染みついているのである。
セレスティーナはどうもいわゆるショタコンだったらしく、その時は散々な目にあったものだ。
あの時の肉食獣のような彼女の爛々とした瞳は、竜である彼でも恐怖を覚えているものだった。もう二度と味わいたくない、と人型には今まで変身したことがなかったのである。
「そ、そんな!私を助けると思って!それさえあれば私はあと百年は戦えるんです!どうかご慈悲を!!」
すがるように頼み込んでくるセレスティーナに対して、仕方ないなぁ……。とリュフトヒェンはため息をついて答える。
『しょうがないなぁ……。君には世話になってるし、精神的な慰労なら一回ぐらいならまぁ……。それより、お風呂、というか大浴場とかこの村にできてるの?』
「ありがとうございます!ご主人様!!大浴場は、アーテル様の温泉地から転移石を使用して直接運んでいます。それを魔術や窯などで再度温めるなど行っています。
村の真ん中でも温泉が入れると非常に好評なんですよ。
無論、アーテル様にはそれなり以上の使用料を支払っていますが。」
ついでに、小型化したリュフトヒェンは今まで忙しくて見る機会があまりなかった自分の村を見て回る。
街道が広げられ、多くの物資などが流れ込んで活気に賑わっているこの村は、規模的にもさらに大きく広がって開拓が行われ、その周囲を防御柵やストーンゴーレムが作り上げた防御壁などで覆われている。
それは、もはや村ではなく、小規模な町と言っても過言ではなかった。
さらに、その畑もさらに巨大化されており、ようやく小麦や大麦などが育つようになってきたところだ。これだけでも大変な苦労があったことは、同じく開拓初期から一緒にいたリュフトヒェンはしんみりと眺める。
さらにそこから離れたところでは、高い金を出して購入した米が植えられた乾田が存在している。
それを見て回りながら、最後に村の中にあるドワーフが作った浴場へと、二人は入っていった。
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