第136話 エレンスゲの肉をぱくぱくですわ。

 そして、そのハイエルフ王国とニーズホッグ分体の件は、エレンスゲの残骸を処分しているセレスティーナにもその情報は伝わっていた。

 まずは、エレンスゲの残骸を魔術素材にしようとしていた時に、新しい敵が出現したという事に、セレスティーナも流石に驚きの表情を浮かべる。


「えぇ……。エレンスゲに続いて今度はニーズホッグ分体ですか……?

 この土地魔境すぎません?まあ、でなければわざわざエンシェントドラゴンロードが居ついたりしませんか……。」


 そう言いながらも、セレスティーナは、ポーション作成班の女性たちと協力しながら、エレンスゲの血液を全て抜き取り、さらに肉をはぎ取って骨を様々な加工品にしようとしていた。

 抜け殻の方はすでに、ドワーフたちに手渡してドラゴンスケイルを作るように注文している。


 エレンスゲの肉を借りた剣で剥ぎ取りながら、作業を行っているセレスティーナに、小型化しているリュフトヒェンは話しかける。


『まあ、ともあれ世界樹の根に食いついているニーズホッグを引きずり出せる方法は何かない?地下に巣食われているとこちらも手の出しようがないし。』


「うーん、仕方ないですね……。これ、使ってみましょうか?」


 そう言いながら、セレスティーナは、手にしたエレンスゲの剥ぎ取った肉を指し示す。


「エレンスゲの肉料理とかも考えてみたのですが……。ご主人様から血液の利用も禁じられた以上、こちらも禁止されられそうなので皆に振る舞うのはやめておきました。

 これだけの肉ならば皆がしばらく食いつなげる量はあるのですが。」


 それってエレンスゲの肉をみんなに食わせようとしていたってこと?おいおい止めてくれよ……。とリュフトヒェンは思わず引いてしまう。

 エキドナの因子が含まれた血液をポーションとして利用するのも禁止したのに、その因子が入った肉など食べさせられては何が起こるか分からない。

 当然リュフトヒェンから止められる事もセレスティーナは予期していたのだろう。


「まずはエレンスゲの肉を切り出して、樽に詰めて、錬金術から作り出した猛毒を大量に仕込んでニーズホッグの穴に落とします。

 この肉は滋養も大量に含んでいるので、傷ついているニーズホッグは必ず食いついてくるはずです。

 そして、その毒入りの肉を食いつくした後で、今度は魔術で発酵から腐敗させた肉を穴に落として、その悪臭でニーズホッグ分体を穴から引きずり出す。

 後は、ご主人様たちにお任せするしかありませんが……。」


「確かに貴重な魔力素材ではありますが……肉は非常に腐りやすいですからね。腐らせて無駄にするよりは、有効な手段として活用した方がいいでしょう。竜の血肉を浴びて不死身の英雄になった者たちもいるので残念ですが。まあ、必要な分は確保して、神官戦士たちに振る舞いましたし。私も食べましたし。」


そのさらっと言われたセレスティーナの言葉に、思わずリュフトヒェンは飛び上がる。血をポーションにするのは禁止したし、肉を皆に振る舞わない、という良識があるからてっきり安心していたのだが、まさかその肉をセレスティーナ自身が口にしたとは流石に予想外だったのである。


『ち、ちょっと待って!?食べたの!?エキドナ因子入りのエレンスゲの肉!?ポーションにするなって言ったのに!?』


「ええ。もちろんポーションにしていませんし、皆に振舞った訳ではありません。肉を口にしたのは、私初め、力を望む神官戦士たちのみしか口にしていません。いいですか?ご主人様。私たちか弱い人間がご主人様たちを守るためには力が必要なのです。そのためには多少の危険程度は積極的に行うべきでは?」


 確かに竜の血肉によって不死身の英雄になった人間は存在する。

 血抜きはさせれていたとしても、竜の肉を食らえば魔術的にも肉体的にも強くなる事は間違いない。上手くすれば英雄クラスにまで強くなれる人間もいるだろう。


 問題はその肉にあの混沌竜エキドナの因子が存在しているという事である。

 どうやら、因子は肉よりも血液の方に強く流れているとはいえ、それでもエキドナの因子を体内に取り込むには危険が伴う。

 うまく自分の力にできればいいが、自分のキャパシティー以上の因子を取り込んだら、たちまち暴走して自己崩壊を起こしかねない。

(口にした量は少ないのと、肉自体に因子は多くないのでその危険性は少ないだろうが)


『ダメダメ!いい?君は十分強いし、何かあったら大変だからこういう事は勝手にしないでくれよな!我はね、君の事を大事に思ってるし、君の事が心配なんだよ。理解してくれ。』


その自分を心配してくれるリュフトヒェンの言葉に、セレスティーナは両手を胸の前で組み合わせて、感激に潤んだ瞳でリュフトヒェンを見つめる。


「ご、ご主人様……♥️解りました。勝手な事をして申し訳ありませんでした。」



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