第132話 「解らせ」られるのはお前たちじゃ!
傭兵求む!騎士昇格あり!という噂は一早く傭兵たちの元に伝わっていった。
竜が存在して村を統治しているというのも理解しがたいが、ましてや傭兵を募集するなど、さらに理解し難い事だった。
リアリストでまともな思考を持つ傭兵団はこんな話に乗っからない者たちも多かったが、先のない彼らは藁にも縋る思いでアーテル領にやってくる者たちも多かった。
そして、その中には、ならず者と大差ないような下劣な傭兵たちも山のように存在した。それは、今、アーテルの住まう巨大な洞窟の前で、人型のアーテルと対面している傭兵団もそうである。
腕を組んで仁王立ちしながら、漆黒のドレスのスカートとロングヘアの黒髪をたなびかせながら傭兵団と対峙するアーテル。
そんな彼女に対して、傭兵団の隊長は、がはは、と下品な笑いを浮かべる。
「おい!こんな女が竜だとは笑わせるじゃないか!これは俺たちが「解らせ」をさせてやらないといけないようだな!!」
それに続いて、はっはっは!と下卑た笑いを上げる傭兵たち。アーテルが竜だと頭から信じていないような素振りである。
それに対して、にやり、と仁王立ちで腕組みをしているアーテルの肉体が瞬時に変化し、全長20mほどの漆黒の鱗と黒光りする角を持つダークドラゴンへと変化する。
そして、ダークドラゴンに変化したアーテルは、人間の意志を打ち砕き、混乱を与える竜の咆哮を傭兵団へと叩きつける。
その竜の咆哮を受けて「こんなのどうにかできるか!!」といともあっさりとその傭兵団はその場から慌てて逃げ去っていった。
その無様に逃げ去っていく傭兵団の背中を見ながら、アーテルははっはっは!と高笑いを上げる。
『わーっはっは!なーにが解らせじゃ!解らせられるのは貴様らじゃ!竜と人間の実力の差を特と思い知ったか!』
この人この試験の意味合いを勘違いしていないか?傭兵が全部逃げ帰ってしまっては人手を集める手段が少なくなるんだが?
恐る恐る、アリアはアーテルに対して自分の意見を伝える。
「あの、アーテル様…。少しは手加減を…。このままでは立候補した傭兵団が全ていなくなってしまいます。」
『妾手加減めっちゃしてるが!?ただ姿を見せて咆哮してるだけじゃぞ!?
その程度で逃げ帰るヘタレどもなど不要!
妾が求めているのは、強さ……は大目に見ても気合の入っている人間でなければ妾の手下には務まらんわ!』
そうは言っても、竜と真正面から向かい合って士気を打ち砕く咆哮を受けて気合を見せる事にできる傭兵などそうそういるものではない。
溜息をつきながら、アリアは次の傭兵団をアーテルの元に招き入れる。
次の傭兵団は、2mを超える巨体を持つ、片目に眼帯を付けた壮年の黒騎士が率いる傭兵団だった。
竜の姿をしているアーテルを見て、怯える事なく真正面に立つ黒騎士を見て、アーテルはほう、と楽しげに口を歪める。
「竜殿にお聞きしたい!貴殿に気に入られたら騎士にしてもらえるというのは本当か!嘘ではないのだな!?」
その黒騎士の言葉を聞いて、アーテルは愉快そうにぐるるる、と喉を鳴らしながらその声に対して返答する。
『おお!おお!本当だとも!妾に立ち向かうほどの気概があれば妾に仕える騎士にしてやろう!貴様の配下も兵士として正式に雇い入れると約束しよう!
ただし!妾に対して気概を見せれば、の話だがな!!」
そう言うと、アーテルは口を開いて竜の咆哮を傭兵団に叩きつける。
通常ならばその魂と士気を打ち砕く咆哮を聞けば、通常の傭兵や兵士たちなら逃げだすはずである。だが、黒騎士は兵士たちを叱咤激励して踏みとどまる。
「逃げるな!ここで逃げれば俺たちは一生クズのままだぞ!竜の元だろうが正式な騎士には変わりない!俺たちクズが成り上がれる唯一の機会なんだ!踏みとどまれ!」
その黒騎士の言葉にほう、とアーテルは関心する。
恐らく、彼は巨人あたりの薄い血を引いているのだろう。そのため咆哮の効果が比較的薄いのは理解できる。
だが、それでも彼の言葉を信じて兵士たちが逃げ出さないというのは大したカリスマである。
続けて咆哮の第二弾を行うアーテル。
だが、それにも兵士たちは動揺をしているが、一人も逃げ出さずに踏みとどまっている姿に、アーテルはにやりと笑って人間形態へと姿を戻す。
「うむ!よろしい!人間にしてはそれなりの気概じゃな!
妾に仕える騎士として正式に任命する!妾の手足としてコキ使ってやるからせいぜい励むがいい!」
はっはっは!と高笑いをするアーテルに対して、アリアと黒騎士はお互い苦労するな……。という無言のアイコンタクトを行っていた。
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