第131話 求む!傭兵!

 さて、できたばかりのアーテル領の開拓村。

 そこでは、人型になっているアーテルが好き勝手している荒くれ者に対して、思わず悲鳴を上げていた。


「あああ!あああ!何でお前ら好き勝手してるんじゃ!妾の言う事を聞け!」


 何せ、アーテルには自前の兵士たちや村人たちが存在しない。

 それはつまり、治安維持機関が存在しないという事だ。

 そんな状況で荒くれ者たちがなだれ込んでくれば、当然治安は悪化の一途を辿るしかないのが普通である。

 ただでさえ短気なアーテルが、礼儀を知らない人間に自分の領土を好き勝手されて切れないはずはない。竜の姿に変化して、威嚇して警告すればよかったのだろうが、怒髪天の彼女は、思わず叫びを上げる。

 竜の咆哮は人間たちの魂を恐慌状態にもたらす効果がある。

 アーテルの咆哮によって、恐慌状態に陥った荒くれ者どもに対して、さらにアーテルは叫ぶ。


「もういい!妾のいう事を聞かぬ野蛮な種族など要らぬわ!ワイバーンどもよ!こやつらを……!」


 ワイバーンを呼び寄せて、ならず者たちを一掃しようと切れたアーテルが呼び寄せようとした瞬間、アリアが駆け込んで来て彼女を必死になって止める。


「ストーップ!!ストップですアーテル様!!今セレスティーナ様配下の神官戦士たちが到着しました!これから治安回復に努めるとの事です!!」


 アリアの言う通り、到着した神官戦士たちは、暴れ回る荒くれものどもを片っ端から叩きのめして捕えて無力化していく。

 いかに数に差があると言えど、セレスティーナから魔術の指導を受けて、鍛え上げた身体機能をさらに魔術でブーストできる彼らが、ただの荒くれ者どもに負けるはずはない。しかも竜の咆哮によって恐慌・麻痺状態になっている彼らを捕らえることは実に容易かった。


「おおー、流石じゃの!礼を言うぞ!しかし、こうなると妾にも人間の手下どもが必要じゃな。リュフトヒェンの奴が何であそこまで人間どもを取り込んで手下にしているか今頃になって分かるとはな……。アリア。何かいい手段はないか?」


「うーん……。やっぱりこの状況でやるべきことと言えば……。やはり傭兵でしょうか。実戦帰りの彼らの力を得ることができれば、治安維持にもこの領の防衛にも大きく役に立つでしょう。しかし、彼らはならず者たちよりさらにならず者です。

 こちらの言うことを聞かずに暴れまわるかもしれません。それでも呼びますか?」


 この時代の傭兵たちは、大抵青い血崩れの三男四男たちである。

 騎士教育を受けても騎士になれない彼らは、そのまま時に山賊まがいの傭兵まがいになり、元村人の兵士たちを率いて旅人や村を襲う事もある。

 よくある「傭兵は契約を守る」というスイス傭兵をモチーフにした傭兵たちなどほとんど存在しないのだ。


「なるほど。だがそれだけではやる気が出ないだろうから、目の前に餌を吊り下げてやるとするか。つまり!傭兵どもを正式な仕官をして妾の部下にさせるのじゃ!

 妾にも人間の手下が必要じゃとはっきりしたからのぅ。優秀であればなおヨシ!じゃ。」


 それを聞いて、アリアは思わず驚く。

 一時的に雇うのならともかく、傭兵たちを正式に騎士にして雇うとなれば、それ相応の報酬を支払わなければならない。

 どうもこの社会的幼女は、人間の社会的な事を知らないっぽいので、アリアは慌ててアーテルに確認を取る。


「ちょ……!アーテル様!傭兵として一時的に雇うのではなくて正式に雇うとなればお金めっちゃかかりますよ!?いいんですか!?」


「構わん!食事というのは静かで豊かな満たされた時間でなければならん!

 それを守るための必要経費と考えれば、まあヨシ!としよう。

 無論、ただで騎士にするほど甘い話はないぞ?

 そうじゃな……。竜体の妾と模擬戦?を行ってもらおう!

 それで妾に対して気合を見せた傭兵を騎士として任命する!これでどうじゃ!」


 いや、竜に挑むなんて気概のある者がその日暮らしの傭兵稼業をしてるわけないでしょ。そんな竜に対して真正面から挑めるだけの度胸があれば、もう立派な騎士になってるわ。とアリアは思いながら何とかアーテルの説得にかかるのであった。


 

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