第129話 古参勢暗躍

「ともあれ、ありがとうございました。竜様。

 我らリザートマン族一同、貴方に従う事を誓わせていただきます。」


『うん、よろしくね。ただ、基本的に自分たちの住居で暮らしていていいから。

 何かあったら頼りにさせてもらう。あ、確か漁が上手いのなら、魚とかをこちらに捧げてくれると嬉しい。』


 彼ら的には害意は全くないだろうが、あえて生肉を食べたり、砂を食べたりする非文明的な原始竜信仰を行っている彼らが周囲に存在していると、通常の人間たちはびっくりする人々もいると思われるため、そのまま自らの集落で暮らしてもらったほうが一番いい、と判断したのである。

 一応、保存魔術や燻製の方法などをリザートマンたちに教えておく。

 竜であるリュフトヒェンが文明に近づいて、竜になりたいリザートマンたちは文明から遠ざかるとは皮肉ではあるが仕方あるまい。


「分かりました。竜様のお望みのままに。」


 とりあえず、以前リュフトヒェンが取って調理に使っていた岩塩を切り出して、周囲や商人連合に売り出している作業を行っていた。

 塩は生活に必要な必需品、しかも海から離れているこの地においては、岩塩は貴重な物だった。

 商人連合に横から奪われる前にきちんと利権を確保して、収入源としなければならない。


「……さて、皆集まりましたね。」


 それはこの開拓村の初期メンバー。

 つまり、セレスティーナを中心として亜人や人間などの複合メンバーだ。

 彼らは死を覚悟して、前人未到のこの大辺境の地へと辿り着いて、何とか運よくリュフトヒェンの庇護に入って村作成に携わる事ができた。

 リュフトヒェンのゴーレムや竜牙兵など手は借りたが、農業器具もない状態から村を開拓した彼らは極めて強い絆によって結ばれており、村が広くなった現状でも中心メンバーと言える。


「さて、皆集まったようですね。それでは、目に余った者たちについての情報をお願いします。」


 そのセレスティーナの言葉と共に、彼らは様々な意見を発言していった。

 金発掘により、急激によそ者、荒くれ者たちが増えて治安が悪化している状況を最も疎んでいるのは、開拓初期からいる彼らであった。

 きちんと法は作り、それに違反するならず者たちは法によって処断していたが、ずる賢い者たちは法のギリギリを付いて私腹を肥やしている。

 さらには、それらを使用して村を乗っ取ろうと企んでいる輩すら存在する。

 それらを合法的に手を汚さずに葬り去る。それが彼女たちの企みだった。


 彼女たち初期メンバーはこの村とリュフトヒェンに対して強い愛着を持っている。

 この村を開拓したのは我々であり、我々を救ってくれたのはリュフトヒェンである。

 新入りが入ってくるのはまだいい。だがこの村に害する者たちや乗っ取ろうとする輩は決して許さない。それが彼らの総意だった。


「……。ふむ。なるほど。これが主だったメンバーですか。

 分かりました。彼らには少しづつ『失踪』していただきましょうか。

 彼らが街道に出た時になど知らせてください。魔物寄せの魔術を使用して、魔物たちに襲われた『よくある出来事で亡くなった』としておきますか。」


「こちらの道はいつ崩れてもおかしくない場所。

 ここに魔術石と追尾魔術を仕掛けておいて『土砂崩れで埋まって』もらいますか。

 例え生き延びたとしても、人里につく前に『魔物に襲われる』でしょうね。問題はありません。」


 遠隔魔術による呪い、呪術などで彼らを葬る事は大達人であるセレスティーナにとっては容易い事である。

 だが、そうなれば明確な魔術という証拠が残ってしまう。

 そこから断罪されるのは、彼女たちの望むところではない。

 それゆえに、ばれないように陰でこっそりと『事故』にあってもらうのが最善であると判断したのである。

この地の警察というか治安維持機関はセレスティーナの率いる神官騎士団であり、そのトップである彼女が関与していれば、バレる心配はない。



「一応確認しておきますが、セレスティーナ様はそれでいいので?」


「当然です。この村は我々の開拓した場所であり、リュフトヒェン様は我々の救世主です。あの方のため、そしてこの村のためになら、何人でも人の命を奪いましょう。

 この手を血で汚しましょう。異論がある人はいますか?」


その場の皆、異論は全くなかった。皆、気持ちはセレスティーナと全く同意見だったのである。

この村と竜様を守るためなら、邪魔者たちが何人死んでも構わない。

それが彼らの共通の意識だったのだ。


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