第123話 対エレンスゲ戦
リザートマンの居住区。水辺に作られたそこは簡易的に木々などで作られた家やさらに、水の上に作られた高床式の居住区も存在していた。
水を好むリザートマンたちは、より水に近しい場所に住むためにこうした高床式の家を作っていたのだ。蛮族と蔑まれる彼らであったは、これを見ても彼らが十分に知的な存在であることが立証される。
そして、その居住地に異質な巨大な蛇のような存在が横たわっていた。
頭が七つある巨大な翼を生やした異形の蛇。エレンスゲである。
そのエレンスゲは目を瞑って休んでいたが、ふと何かに気づいたように七つの頭をもたげて周囲を見渡す。
エレンスゲは、ふと目を覚まして違和感を覚えた。
いつもおやつ代わりにしているリザートマンどもが近くに存在しない。
起きたらまずリザートマンを食べてやろうと思っていた彼は、不機嫌そうに唸り声を上げる。
エレンスゲにはさほどの知性はなかったが、自ら生贄になってくれているリザートマンたちを極めて便利だと考えていた。
何かこちらを崇めたり何やらは行っているが、そんな事は彼にとってはどうでもいい事でしかなかった。
しかも、さらに彼をイラつかせる出来事が存在した。
大気を引き裂く音と共に、二体の竜が彼の上空を飛行していたのである。
竜族にとって、自らの上空を何かが高速で飛行するという事は、最大の挑発行為である。比較的温厚なアーテルですら、リュフトヒェンが上空を高速で飛行した時には切れていたのがその象徴だ。
怒りという本能に突き動かされて、エレンスゲは翼を動かして自らの体を飛行させ、上空の無礼者たちを迎撃するために空へと飛翔を始めた。
そのエレンスゲを見ながら、上空を旋回していたアーテルは嘲笑を浮かべる。
《よし!計画通り釣られてきたな!はははさすがに愚竜。
能無しは釣りやすくて助かるわい!!》
餌であるリザートマンを失ったエレンスゲは、今度はリュフトヒェン領やアーテル領、それだけでなく輸送中の輸送部隊を襲う可能性が十分にあった。
そのため、竜の本能的な誇り、上空を飛ばれると不愉快になるという特性を生かして、エレンスゲを引き寄せているのだ。
ある程度飛翔した所で、魔力を噴射させる事によって瞬時に速度を増したエレンスゲはぐんぐんと急上昇していく。
七つの首という空力特性とかけ離れたエレンスゲは、機動性や小回り、加速性こそ劣るものの、無意識的な魔力噴射と前方に魔力障壁を展開する事によって、何とか亜音速までは加速する事ができる。
7つの頭を持つという、航空力学に真正面から喧嘩を売ってる存在が亜音速にまで到達するのに、流石にリュフトヒェンは呆れた声を上げる。
《全く航空力学もクソもないな……!》
7つの首を持つなんて存在が亜音速に到達すれば、当然の事ながら空気の圧力によって首が全て千切れて吹き飛ばされるのが自然である。
だが、無意識的にはエレンスゲは、リュフトヒェンたちと同様に円錐形の魔力障壁を展開して、空気抵抗を無効化しているのだ。
多数の首から威嚇の叫び声をあげながら、魔力噴射により白い雲を後方にまき散らしながら急上昇していくエレンスゲは、まさしく邪竜そのものだった。
それに対して、上空5000メルーを魔術仮想エンジンと、円錐状の魔術障壁を展開して水平飛行していたリュフトヒェンとアーテルたちも迎撃に入る。
《行くぞ!エンゲージ!》
《一応言っておくが、真正面から戦いを挑むときには気をつけろよ!
奴の恐るべき所はその多頭からなる火炎放射じゃ!
七つの首が纏まって放射された火炎は威力も攻撃範囲も段違いじゃからな!》
その通信と共に、急上昇してくるエレンスゲを迎撃するために、リュフトヒェンとアーテルは水平飛行から反転して急下降へと進路を変更し、まるで鷹が獲物を狙うように高速で一直線に下降していく。
まるで騎馬に乗った騎士同士の槍試合のように突っ込んでいく一騎と二騎の竜。
と、いきなりがくん、とエレンスゲの速度が落ちると、七つの首のうち一つが牙に覆われた口を開き、リュフトヒェンとアーテルに向けて炎を噴射する。
それに対して、リュフトヒェンも自分の周囲に魔力球を展開し、雷撃で迎撃する。
最下層とはいえ、神竜へとランクアップしたリュフトヒェンの雷撃は以前より格段に威力が増しており、エレンスゲの炎を打ち砕くと、そのままエレンスゲへと向かっていく。
だが、エレンスゲはそのまま斜め45度程度の機動から首をさらに上にあげて、事実上の垂直上昇へと機動を変えて、雷撃と一緒にアーテルやリュフトヒェン自身を回避する。
アーテルやリュフトヒェンも、魔力球や雷撃球で上昇していくエレンスゲに対して攻撃を仕掛けるが、エレンスゲはバレルロールを行いながら、それらの攻撃を回避していく。
そして、そのまま魔力噴射による轟音を空き散らしながら、くるり、と重々しく反転させると、今度は上昇から下降へと機動を変え、そのまま七つの首がそれぞれ口を開いて、まるで天空からの業火のように、下に存在するアーテルとリュフトヒェンに対して、七つの業火を解き放つ。
《ブレイク!ブレイク!!》
広範囲に空から降り注ぐその業火を、リュフトヒェンとアーテルはそれぞれ降下しながら体を傾けて左右に分散して、回避を行う。
戦いはまだまだ始まったばかりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます