第122話 リザートマンと邪竜エレンスゲ。
火薬のさらなる量産などを行っているリュフトヒェンたちは、近くの村から鐘職人を雇って拠点設置用の大砲の量産も行っていた。
鐘の仕組みと大砲の仕組みは似ており、鐘職人ならば大砲の製造を行うことができるのだ。さらに、ドワーフたちの手によって、マスケット銃の解析・量産なども進んでいる。
それぞれの亜人たちが連携を行い、統率の取れた軍としての第一歩を始めた以上、さらなる武器や弾薬が必要になってくる。
火薬の量産を行い、マスケット銃や大砲の量産を行うことができれば、この地も軍事的に安定するはずである。
そんな風に兵器開発などを行っている際に、村の簡易的な見張り台から警戒の声を鐘の音が響き渡る。
「竜様!何者かがこちらに近づいてきています!」
それと同時に、村の皆は迎撃を行うために武装を整えたり、非戦闘員を安全な場所に避難させたりとまるでハチの巣をつついた様な大騒ぎになる。
セレスティーナとリュフトヒェンの指令の元、戦闘準備を進めながら、リュフトヒェンは飛行して見張り台まで辿り着くと、歩哨が指し占める方向に向けて視線を向ける。
そこに現れたのは、普通の人間ではない。
そして、エルフやドワーフ、竜人などと言った通常の亜人などでもない。
盾や剣、槍を構えた二足歩行の爬虫類を擬人化したような姿。つまり、リザートマンと呼ばれる種族である。
彼らは竜を神として崇めている種族だと聞いていたが、そんな彼らがここに攻め込んでくるとは?と思っていると、一人の武器を持たないリザートマンがこちらへと進んでくる。
もしかして、何らかの交渉を行いたいのではないか?と思ったリュフトヒェンは、武装した村人や神官戦士、セレスティーナと共に、村の外に出て、そのリザートマンの元へと向かう。
亜人の皆はともかく、人族の神官戦士たちはリザートマンの異形の姿と、文明的に劣った蛮族であるという偏見から色眼鏡で見てしまうが、それがリザートマンに対する人族の普通の反応だろう。
「グ、ググ……。リュウサマ、コトバ、ワカルか?」
代表のリザートマンはぎこちない共通語でリュフトヒェンに対して話しかけてくる。他の亜人や人間たちと交流のない彼らは共通語を使う機会がないので、ぎこちないのは仕方ないだろう。
『ちょっと待ってね。そのままだと話しにくいでしょ。多分リザートマンなら竜語魔術と相性がいいはずだから……。ほいっと。』
リュフトヒェンは、リザートマンの代表に対して、自動翻訳魔術をかけて自然に言語を共通語に変換できるようにする。
向こうが何を考えているかどうか、まずは言語が通じなければ話にならないからである。それに対して、リザートマンの代表は深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、竜様。まず、我々はそちらに対して敵対行動を取るつもりはありません。我らリザートマン族は、竜に転生するための修行を行っている種族。そのために竜信仰を行い、竜を神として崇めております。」
セレスティーナやリュフトヒェンが立ち上げた新しい神竜信仰ではなく、原初的な竜として転生するための竜信仰である。
しかし、原初竜信仰は、生肉などを食べるなど文明とは相容れない野生を重んじる信仰のため、人間や通常の亜人とは相性が悪いため同じではあるが、別の信仰であると位置づけられているのである。
(仏教の大乗信仰と小乗信仰の形などが近いだろう。)
それゆえ、竜であるリュフトヒェンに対しても神の一柱として敬意を持って接しているのだ。(一般人からはその異形と原初竜信仰のため、蛮族と見られがちだが、彼らの知能は決して低いものではない)
「はい、それで我々リザートマン族は竜になるための竜信仰を行いながら生活を行っていたのですが……。とある時に一柱の竜が我らの地に舞い降りて、神として崇めたのですが、その竜様が我々を生贄として大量に貪り食らい……。しかも、人間たちが沢山いるこの領地を狙っているとの事で、それを伝えに来たという事と我々を庇護していただく……。このままでは我らリザートマン族が邪悪な竜様に貪り食われかねないゆえ。」
通常の人間ならば蛮族にカテゴリーされる異形のリザートマン族。
ヒトとはあまりに異なるその存在に助けを求められてもすぐに引き受ける人間は少ないだろう。
だが、元々こちらはヒトではない竜そのものである。
ましてや、その悪竜とやらがこちらの村人やアーテル領の村人たちを狙っているとなれば、ただで済ませるつもりはない。どっちみち退治する必要があるのだ。
『了承ッ!!だけど、いきなり君たちがウチの村に来ると皆混乱するから、元々の居住地を発展させていこう。まずは、その邪悪な竜を倒して居住地を取り戻さないといけないけど……。ちなみに、その悪竜とやらはどんな竜なの?」
「はい、その竜は頭が七つ存在し、巨体で竜というより蛇に似た翼の生えた悪竜です。その七つの頭で我らリザートマン族を次々と貪り食らっていきます。」
恐らく、それはエレンスゲと呼ばれる七つ首の竜だろう。
元の世界のバスク地方に伝わる七つの首を持ち、竜というより翼の生えた蛇と言った方が正しい存在である。
性格は悪竜らしく狂暴で凶悪な性格であるが、むこうの世界では額を卵で割ると死ぬという奇妙な性質を持っているが、こちらの世界ではそれで死ぬほど甘くはあるまい。ともあれ、こちらも対エレンスゲ対策を行わなければならない。
エレンスゲは黄身のない卵から生まれたため、同様に黄身のない卵を額で割る事によって倒せる、つまり生まれた物によって封じる=倒すというのが、あの奇妙な伝承の本来の言い伝えらしい。
実際、約10万個に1個黄身のない無精卵と呼ばれる卵は生まれるらしいが、卵の大量生産も行われていないこの世界でそれを望むのは難しいし、通じるかどうかも怪しい。
そのため、まずはリザートマン族を避難させた後でリュフトヒェンたちがエレンスゲに対して強襲を仕掛ける、という案で話が纏まりつつあった。
「エレンスゲェ……!?あの知性もないクソ愚竜が妾の領土を荒らす可能性があるというのか!そのようなことは許される事ではないぞ!よかろう、妾も叩きのめしてやるぞ。最近溜まりに溜まったストレスを奴にぶつけてくれる!!」
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