第124話 エキドナ・エレンスゲ
エレンスゲは蛇体に七つの頭を所有している異形の竜である。
七つの頭から炎を噴出して攻撃を仕掛けてくるこの竜は、竜語魔術を使用するリュフトヒェンたちよりも火力が高かった。
神竜として昇格したリュフトヒェンの竜語魔術のよる攻撃は依然より威力は増していたが、それでも七つの首を纏めた業炎に対抗するとなると難しい。
そして、何より、一つに纏めるだけでなく、七つの首を真横に広げて炎を噴出するのは一種の面制圧攻撃と言っていい。
扇状に広がった炎は、そのまま空を薙ぎ払うように真横に広がっていく。
空から落ちてくる複数の業炎。
アトランダムで次々と無造作に放たれる火炎を、回避するのは彼らでも難しい。
何せ攻撃の予測が全くできないのだ。
さらに上空から降り注いでくる火炎を、左右に不規則に繰り返すブレイク、シザーズと呼ばれる機動で回避していく二騎の竜。
《クソッ!純粋に攻撃の手数が多すぎる!まともな竜語魔術も使えないくせに!!》
《だが、数は妾たちの方が上じゃ!行くぞ!!》
二騎の竜は、お互いに左右から水平飛行中から45度バンクし、そのまま斜めに上方宙返りし速度を高度に変えるシャンテルと呼ばれる機動を行う。
急降下して突っ込んでくるエレンスゲに対して、一度攻撃を回避して左右からの挟み撃ち攻撃を行おうというのだ。
炎を回避し、落下してくるエレンスゲに対して、左右から攻撃を仕掛けようとするリュフトヒェンとアーテルだが、エレンスゲは多数の首の利点を生かして、左右の挟み撃ち攻撃に対して同時に炎を吐いて迎撃を行う。
《このインチキ野郎め!》
その炎を回避したり雷撃で相殺したりしながらも、リュフトヒェンはエレンスゲに対して自らの周囲に浮かぶ魔力球から放たれる雷撃を次々と叩き込んでいく。
アーテルも同様に魔力球から魔力レーザーを射出し、エレンスゲの肉体や首の一本を叩き切る。
どうだ!と、左右からの挟み撃ち攻撃を食らわして飛び去りながら確認をする彼らだが、そこで驚くべき物を目にする。
何と、エレンスゲの肉体がみるみるうちに再生を行っているのである。
アーテルの与えた魔力レーザーの傷は瞬時に修復していき、切り落とされた首も傷口が脈打ちながら、また新しい首が牙をむき出しながら生えてくるのを見て、リュフトヒェンは驚愕の声を上げる。
《馬鹿な!エレンスゲにあれほどの再生能力が……そうか!エキドナの肉片を食らって自分の力にしているのか!それなら、あれほどの再生能力にも納得がいく!!》
実際、エレンスゲの再生した首はエキドナの落とし子そっくりの見た目だった。
そこからも、エレンスゲがエキドナの力を奪って自らの物としているのが分かるだろう。エキドナの本体は別次元に追放されたが、その前に散々再生した肉片があちこちに飛び散ってしまっている。
恐らく、その肉片を食らって自分の力としたのだろう。
《いや、それだけではないぞ、あやつ、エキドナの落とし子も貪り食らって自分の力にしているのじゃ。あの戦いから逃げ出した落とし子どもはそれなりにおったはずじゃ。そやつらのうち何体かを貪り食らったのじゃろう。》
なるほど。それならあの再生能力にも納得がいく。
ともあれ、そうとなればますます放置はできない。何としてもここで倒さなくてはならない。
シザーズ機動を取りながら上昇していくリュフトヒェンとアーテルだが、降下していくエレンスゲは自らの首を二本ほど後方というか上方、つまりリュフトヒェンとアーテルに向けて、炎を吐いて攻撃を仕掛けていく。
それはつまり、戦闘機、というか竜の弱点である後方もある程度はカバーできるという事だ。
空中で反転して、エレンスゲを追いかけて降下していくリュフトヒェンたちにとって、それは厄介な攻撃だった。
このインチキ野郎め、と呟きながら、リュフトヒェンはその上空に向けて放たれた炎を回避していく。
だが、いかに魔力の籠った竜の炎と言えど、重力には逆らえず、その炎は速度も遅いため回避は容易な上に、落ちていく炎がエレンスゲ自身の肉体を焼くほどだった。
だが、リュフトヒェンはそこである事に気づく。アーテルの魔力レーザーによって吹き飛ばされた肉体は容易く再生しているが、リュフトヒェンの雷撃の傷は再生がかなり遅いのだ。
雷撃に傷の再生を遅くする力があったか?とリュフトヒェンは考えるが、そこでふとある事に気づく。
エレンスゲ自身の炎で焼かれた火傷は、エキドナの肉片の再生力を得たエレンスゲでも再生が行えていないのだ。
そうであれは、リュフトヒェンの攻撃が通用した理由も納得がいく。あれは雷撃による高熱、つまり火傷によって再生が妨げていたのである。
そこでリュフトヒェンはとある神話を思い出す。
つまり同じ多首竜、ヒュドラの逸話である。ヒュドラは攻撃しても再生したが、その再生を防ぐために傷口を松明で焼いて再生を防いだ、という逸話がある。
もしかしたら、それが通じるのではないか、と思ったのである。
《アーテル!炎だ!炎の攻撃はできるか!?》
《炎!?いやできるけど……。炎を使うあやつが炎に弱いとかありうるんか?
いやまあやってみるか!》
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