第83話 世の中、金じゃ!
「まあ、ともあれ妾の温泉にでも向かうか。このまま街に戻るには魔力が足りんじゃろう?とりあえず妾の温泉地で休んで魔力を回復するぞ。」
魔力消耗を抑えるために、仮想エンジンや魔力障壁も解除して、久しぶりに自らの翼で飛行……というか滑空するリュフトヒェンたち。
エキドナとの激戦で疲労困憊である彼らだが、透き通った青空を何の不安もなく悠々と舞うのは、彼らの心を癒していた。
遥か天空から地上を見下ろしながらゆっくりと飛行するのは、彼らにとっても久しぶりである。
大空を飛翔する事によって心が癒させるのは、やっぱり自分も竜なんだなぁ、としみじみリュフトヒェンは感じてしまう。
そして、そのまま二体の竜は、比較的近くにあるアーテルの縄張りの温泉地へと飛行する。
本来ならば失った魔力を回復させるためには、やはり大量の食糧が一番なのだが、ここの温泉は微弱な魔力を帯びており、竜の傷回復には持ってこいなのである。
特に激しい空中戦で、強いGに耐え続けた肉体は、例え竜であろうと疲労と痛みが蓄積している。
まずは、温泉で体に蓄積した疲労などをゆっくりと取る必要があるのだ。
言うなれば、戦闘機における機体のメンテナンスと同じである。
『ふひぃ~。生き返るのぅ……。』
竜が入れるほど巨大な天然の温泉に、アーテルはゆっくりと体を浸す。
魔力消費やその必要もない事もあって、彼女は人間形態ではなく、黒竜形態のままでのんびりと天然の湯舟でくつろいでいるが、ふと、はっと同じく温泉に身を浸しているリュフトヒェンを振り向く。
『ふむ……。ここら辺で人間にしか欲情しない貴様にも妾の竜としての魅力を見せつけてやる必要があるのぅ……!どうじゃ!興奮するじゃろう!』
そう言いながら、アーテルはぐねぐねと体を動かすが、彼女からしてみればセクシーポースを取っているつもりでも、リュフトヒェンからしてみたら、ただ竜が体をぐねぐねとくねらせているだけにしか見えない。
中途半端に人間の感性が残っているというのも困ったものである。
その顔を見て、自分の肢体に興奮しないリュフトヒェンに対して、アーテルは露骨に舌打ちする。
そうは言われても無理なものは無理なのだから仕方あるまい。
『まあ仕方ない。それより、話を変えるが、そういえば、この温泉から様々な物が取れると言ったのぅ?それって、やっぱり金になるのか?妾にもきちんと金が入るのか?』
いきなり俗物的な金の話をしてくるアーテルに対して、思わずリュフトヒェンは驚いた顔をする。
確かに、温泉からは硫黄や明礬などが採取できる。
さらに観光地として人間や亜人たちを招く事ができれば大きな金になるだろう。
だが、今まで俗世にはあまり関心のなかった彼女が、いきなり金の話をしだしたのにリュフトヒェンは驚きを隠そうとはしなかった。
『えっ。何でいきなり即物的になってるんですか……?何かあったの?』
『ふっふっふ。そう、妾は気づいてしまったのじゃ……。世の中、人間の世界は金が全てだと!金さえあれば毎日美味しい物が山ほど食べれる!まさに天国!!
じゃが、妾の財宝を減らすのは惜しい……。ならば!天然でいくらでも湧き出る物を売り物にすればいい!これで妾は何もせずとも美味しい食事をとれるという物よ!
どうじゃ妾のこの天才的頭脳!!』
勝ったなわははは、と高笑いするアーテル。
うん、これ株式投資とかFXに手を出して全財産すってんてんにするパターンや。
怪しげな商売やら詐欺やら騙されないように、しっかりとしたお目付け役をつけなければならない、とリュフトヒェンは決意した。
『それじゃ、そちらの縄張りに人が入ったり開拓事業を行ってもいいという事ですね?』
『うむ!許す!妾の縄張りに人間が入る事も開発する事も許そう!!ここの温泉地も同様じゃ!ただむやみやたらな自然破壊をされてもらっては困るぞ!
しかし、妾たちといい魔術師といい超自然の力を用いる存在が多くいるのだから、そのカヤク?とやら作る必要があるのか?妾たちが出張ればそれですむことじゃろう?』
もちろん、それではすまないから火薬を作る必要があるのである。
戦いは数というのは、世界の真理である。
火薬、銃、大砲を作る事によって、何の能力もない人間たちが容易く超自然の存在を害する力を持つことができる。それは脅威的な事である。
一人一人では弱い人間でも、そんな存在が大量に連携を取って襲い掛かってくれば、いずれ竜すらも容易く葬るだろう。
それを遅らせるために、先もって自分たちがそれを手にする必要があるのだ。
『ふーん。妾よー知らんがまあいいわ。とりあえずバンバン売って、バンバン稼ぐぞ!おー!』
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