第82話 神竜に階位アップしました。

 旧帝都では、空に浮かび上がった幻覚魔術で作られた巨大な映像でエキドナが封印されるのを見て、街の人々が一気に歓声を上げ、リュフトヒェンやアーテルたちを称える声で溢れかえる。

 旧帝都の上空に映し出された映像は、前線の魔術師たちが見た映像をそのまま帝都の魔術師に送り、それをリアルタイムで上空に幻影魔術で映し出した、いわば幻影魔術を利用した巨大ディスプレイのような物である。


 これらは、全てセレスティーナの思惑で行った事であり、シャルロッテたちの許可も取って行っている事である。

 これは、セキドナとの戦いや撃退を国民に見せる事によって、リュフトヒェン、並びにこの国に対する忠誠心を抱かせようという思惑である。

 そして、それは実に上手くいっていた。

 旧帝国の象徴であるクラウ・ソラスと協力して、強大な敵竜を撃退したという実に分かりやすいストーリーは、今まで帝国を忘れられない人々も引き込むほどの強烈な魅力だった。

 街中でリュフトヒェンを称える声が響き渡る中、それはリュフトヒェン自身にも、とある影響を与えていた。


 大辺境上空、ようやく平穏を取り戻したリュフトヒェンたちは、そのまま巡航速度で自らの拠点である山岳要塞と、アーテルの縄張りである温泉へと向かっていた。

 エキドナ戦で多大な魔力を消耗した彼らは、旧帝都まで戻れるほどの魔力が存在しない。まずは自分たちの拠点で体力を回復した後で旧帝都に戻る予定なのだ。

 だが、空中を通常に飛行しているリュフトヒェンの肉体に、光が宿り、多大な魔力を消耗して疲れ切った彼の肉体に力が戻っていく。

 おまけに様々な魔術使用の負担も大分軽減されているような感じがある。


《ん?体に魔力が戻ってくる……というか魔力が増大しているのか?何で?レベルアップという訳でもないだろうに?》


 ファイティングウィングと呼ばれる、200mほど後ろに放たれ、後方70度ぐらいに位置する陣形を取りながら後方を飛行しているアーテルは、そのリュフトヒェンの姿を後方から眺めて、ふむ、と声を上げる。


《ふむ……。これアレじゃな。人間どもの信仰心によってただの竜から神竜へと存在階位がランクアップしたんじゃな。最も、神竜と言っても下っ端も下っ端、最下層ではあるが。まあ精々人間どもの信仰心を集める事じゃな。そうすればさらに存在階位がランクアップして強くなれるじゃろう。》


 それはありがたいんだけど、出来ればエキドナと戦っているときにこの力が欲しかったなぁ、と飛行しながらもリュフトヒェンは思う。

 とはいえ、これはエキドナを倒して人々の信仰心が集まった結果、ランクアップしたのだから、ボスを倒したご褒美だと思おう、と彼は自分自身を納得される。


《ともあれ……エキドナは異次元の果てに吹き飛ばされて封印された。妾たちの勝利じゃ!と喜びたい所じゃが……あの異空間封印術式、絶対空帝の仕業じゃろうが!!

 あのクソ女、妾たちが悪戦苦闘しておる所をニヤニヤしながら見ていたに違いない!おまけに美味しい所だけ持っていきおって!!あの女いつもそうじゃな!!》


 憤懣やるせない、という感じでアーテルは、飛行しながら魔術回線で叫びをあげる。

 まあ、確かにアーテルの気持ちは分かる。

 もっと早く出てきてくれて、エキドナを叩きのめしてくれて他次元に追放してくれればこっちもこんなに苦労しなかったのに、とリュフトヒェンも思ってしまう。

 だが、本来親竜は子竜に対しては、追放した後は放置するだけで何の手助けもしない風習らしい。ティフォーネがこれだけ手助けしてくれるのも、何だかんだで息子が大事なのだろう。

 もっと偉くなったら、こんなクソみたいな風習絶対に廃止してやる、と思いながらも、リュフトヒェンはアーテルを宥めに入る。


「まあまあ……あのままだと封印できなかったから、結果としては最良かと。

 今回、アーテルさんむっちゃ頑張ってくれたから、お礼に我の財宝を一部分けちゃいます。喜んでね。」


「やったぜ。……とはいうものの、それって結局あのロクデナシの財宝が回りまわって妾の所に来ただけじゃよなぁ……。嬉しくはあるんだが、なーんか素直に喜べんのぅ……。」


「まぁまぁ。それじゃ何か旧帝都で食事を奢りますから。一日分食い放題とかにして代金は全部こちらに回してくれれば。」


「ひゃっほーい!!食事じゃ食事!食べ放題じゃ!!よーし一日食い倒れ生活じゃー!!」


 文字通り飛び上がらんばかりに喜ぶアーテルは、体を左右にバンクさせて喜びを示す。食事でこれほど喜ぶとは一見安い女に見えるかもしれないが、実際はそうではない。

 強大な力を振るう分、竜の食事量は非常に多く、それだけの食事を賄うための燃料や運搬、食糧の生産量が必要となる。

 つまり、兵站に大きな負担がかかるのである。

 戦時ではない、通常時でも、彼女が一日中好きなだけ食べまくったらどれだけの金がかかるな解らない。

 しかし、これも彼女が頑張って戦ってくれたご褒美として自腹で賄うしかないだろう、とリュフトヒェンはこっそりとため息をついた。




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