第80話 混沌竜エキドナ、両断。

 エキドナが放ったブレスを見て、アーテルは思わず慌てた声を上げる。


《クソッ!まさかあれほどの威力とはな!!あんな物クラウ・ソラスに当たったらいくら神剣でも一溜りもないぞ!!》


 エキドナのドラゴンブレスは明らかにクラウ・ソラスすら上回っていた。

 今回は上手く相殺・減衰できたものの、第二射でまともにクラウ・ソラスに砲撃されてしまっては、クラウ・ソラスのバリアでも容易く突破される事は目に見えている。

 ならばどうするか、と考えているうちに、眼下のエキドナは、第二射を放つために口内に魔力を充電しているのが目に入る。

 さらにそれだけではなく、エキドナの表面から次々と落とし子たちが生み出される。

 それに対しては、アーテルの召喚したワイバーンの群れで対抗しているが、いつまで持つかは不明だ。


 あの火力の前では、リュフトヒェンたちでもどうする事もできない。

 だが、リュフトヒェンはそれでも再度急下降を行い、ひらり、と舞うように機動を変更するとエキドナの手前に立ち塞がるようにヘッドオン状態、つまり真正面から相対する。


《お、おい!どうするつもりじゃ!あの威力の前ではお主なぞ盾にもならんぞ!!》


《あのチャージされている魔力に対して、こちらのブレスを叩きつけて暴発させる!

 防ぐことはできないが、暴発を誘導させることならできるはずだ!!》


《おい!そんな無茶を……。ああもう!!》


 クラウ・ソラスのレーザーを叩きつける事によって暴発させる事もできるかもしれないが、ただでさえ遠距離狙撃を行っているのに、そこまで精密な狙撃を行うのはかなり難しいだろう。ならば自分たちがやるしかない。

 アーテルも正気か?という顔をしながらも、渋々と同じようにエキドナと相対する。


 さらに膨張して70mもの球状の腐肉の塊が、水平に上下に割れ、その割れた中央部から巨大な口を見せている姿はまさに悪夢そのものだった。

 正面から見たら、空間全てを覆いつくさんばかりの無数の鋭い牙と強烈な酸の匂いがするその巨大な口は、まさに悪夢そのものだった。


 こちらを食らいつくさんばかりの巨大な口の中心部には、ブレスを解き放つための協力な収束された魔力球が存在する。

 バチバチと収束されて帯電している魔力球の威力は、クラウ・ソラスにも匹敵するほどだ。あれが放たれたら、こちらは炭も残さず消滅してしまうだろう。


《食らえッ!!》


 リュフトヒェンとアーテルは、真正面から向かい合っているエキドナの口内、ブレスを行うためにチャージしている魔力球に対して、こちらもブレスを叩き込む。

 もちろん、通常ならいくら口内といえどその程度のブレスではエキドナはどうこうならない。

 だが、その狙いがブレスのためにチャージされている魔力球ならばどうか?

 二体の竜はブレスを放った瞬間、巻き込まれないように再び全速力で急上昇していく。

 そして、ブレスが魔力球に命中した瞬間、凄まじい光がエキドナの口内を包み込み、巨大な口の内部で凄まじい爆発が炸裂する。

 リュフトヒェンの狙い通り、ブレスを放つための魔力に他の攻撃的な魔力が加わった事により、連鎖的に魔力が暴走して、ブレスが暴発したのである。

 暴発したブレスはエキドナの口内で荒れ狂い、口内全てを破壊の渦で覆いつくす。

 声にならない悲鳴を上げながら、口から体液である腐血をまき散らしながらのたうち回るエキドナ。


《出力最大!クラウ・ソラス放て!!》


 そして、そこを間髪入れずにクラウ・ソラスの横凪のレーザーが薙ぎ払う。

 横凪の光の奔流は、ダメージを負ったまま口を開けているエキドナに命中し、そのままゆっくりと口角から腐肉を焼き尽くしながら、水平上にエキドナを引き裂いていく。口角から喉を引き裂き、口腔を焼き尽くし、エキドナを水平に真っ二つに両断する。


『~~~~~~!!!』


 エキドナの上顎部分は、そのまま重力に引かれ、地面へと落下していく。

 そのエキドナの上顎、上半球の残骸から落とし子がうぞうぞと生まれるが、それらはセレスティーナたちの魔術砲撃やワイバーンたちによって迎撃されていた。

 今残って空に浮かんでいるのはエキドナの下顎、下半球のみが体液をまき散らしながら浮かんでいるのだ。

 それを使い魔からの視覚共有によって見たクラウ・ソラスの技術者班は声を上げる。


《ここだ!一気に決着をつけるぞ!!連発しろ!!》


《し、しかし、先ほどの一撃でかなりの負担がクラウ・ソラスにかかっています!

 冷却機能が追いつきません!!クラウ・ソラスの各機関にダメージが……。それに何より神力石が持つかどうか!!》


 エキドナの肉体を両断したレーザーは、クラウ・ソラスに対しても多大な負担を与えていた。あれほどの肉体を両断するためには、長時間レーザーを放出しつづけなければならない。

 冷却機能以上の過負荷は、クラウ・ソラス、特に神力石に多大な負担をかけ続けていた。だが、ここまで追い詰めた以上、再びエキドナの再生を許せばもうこちらの勝ち目はない。


《構わん!やるしかない!ここでエキドナを逃したらもう勝機はなくなるぞ!》


《り、了解!!第二射、急げ!!》


 大気を焼き尽くしながらエキドナに放たれた光の奔流は、半球状になったエキドナに突き刺さり、その半球状になった左半分をレーザーで切り落としていく。

 上から下への切り落とし。そのレーザーにより、エキドナの肉体はまるで熱したナイフでバターを切るようにさらにじっくりと焼き切りおとされる。

 冷却機能は正常に稼働しているが、それでも過負荷により完全に冷却しきっていない状況で再度レーザーを放つ状況に、さらにクラウ・ソラスの各部分は多大な負荷がかかる。

 そして、それは主に劣化した神力石に集中していた。

 熱暴走と過負荷により、ついに神力石にぴしり、と罅が入り、その罅は神力石に広がっていった。技術者たちのモニターに次々と大量の警告が飛び込んでくる。


《冷却機能追いつきません!!全体の30%が熱暴走によるコンディションレッド!!神力石にも罅が!!》


《構わん!放て!!》


 各機関にダメージを与えつつも、クラウ・ソラスは第三射を続けて放つ。

 それに対して、神力石の罅はさらに広がり、神力石一面に次々とビシビシと音を立てながら罅まみれになっていく。加えて、各部機関も熱暴走によるダメージが広がり、モニターは様々な警告まみれになって、管制室に様々な警報音が鳴り響く。

 それでも、何とかエキドナの半球状になった左半分を、袈裟切りのようにレーザーで斜めに断ち切る。

 そして、それがついに劣化した神力石の限界だった。

 一面罅が入った神力石は、ついに粉々に砕け散ってしまったのだ。


 ―――これは、クラウ・ソラスが再び使い物にならなくなる事を意味していた。

だが、それは決して無駄ではなかったのだ。








 


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