第76話 復活!クラウ・ソラス!
『よーし、ゆっくり。ゆっくりそのまま。』
神力石を旧帝都まで空間の歪みに入れて持ち帰ってきたリュフトヒェンは、そのままアーテルと一緒にクラウ・ソラスに神力石を嵌め込む作業を行っていた。
何せ上空500メルーもの作業だ。空を飛行できる竜でなければこの作業は行えないが、まあ、神力石に浮遊の魔術をかけて上空まで運んでそのまま嵌め込むだけだが、やはり緊張することには変わらない。
アーテルは、何で妾がこんな事しなきゃならんのじゃ、とぶちぶち文句を言いつつも、翼でホバリングしながら浮遊の魔力で浮かんでいる神力石をそのまま押し込んで、クラウ・ソラスの柄頭へと嵌め込む。
『よっしゃ、嵌め込み完了。接続よろしく。』
そのリュフトヒェンの魔力通信に従い、クラウ・ソラスの根元に存在する魔術施設に詰めている技術者たちが、一斉に手元の計器やら画面を見ながらチェックしていく。
「接続開始!基盤システム再起動開始!クラウ・ソラス起動!!」
ヴヴヴと言う鈍い音と共に、クラウ・ソラスが地脈に流れる魔力を吸い上げ、刀身を通してその吸い上げた魔力を上部へと輸送し、神力へと変換していく。
クラウ・ソラスが起動している中、技術者たちは計器を見ながらキーボードを叩き、それぞれの各種機能をチェックする。
「ダメージチェック!本体ダメージ20%以下!神剣機能問題なし!」
「地脈変換回路、メイン回路、サブ回路全て問題なし!さらに地脈からの魔力の吸い上げを加速します!」
「神力石への接続を開始!……接続完了!互換性には問題ありません!ただ神力石の劣化が激しいので撃てて数十発だと思われます!」
「地脈吸収能力、神力変換、並びに神力照射、全て可能!システムチェック、オールコンディショングリーン!いけます!!」
その技術者たちからの報告を受けて、リュフトヒェンは空に浮かびながら思わずガッツポーズを行った。
『よっしゃ!クラウ・ソラス復活や!!』
クラウ・ソラスが復活した事によって、エキドナと対抗するための大きな力になるだろう。しかし、復活したとは言え、未だ大きな問題を抱えていた。
それは、山岳要塞から回収されて嵌め込まれた神力石である。
「ただやはり、神力石の劣化が激しいため、撃てて数十発。下手をするとそれより前に壊れる可能性もあります。エキドナとの戦いに多用する事を考えると……恐らくもって次の一戦かと。」
回収された神力石は互換性には問題はなかったが、大きく劣化しており、エキドナ戦で多用する事を考えれば、恐らく一戦しか持たない。
つまり、その一戦で決着をつけなければならないのだ。
そして、当然クラウ・ソラスが復活したとなれば、それを狙う存在も黙っているはずもなかった。そう、旧帝国、つまり今の神聖帝国である。
虎視眈々と旧帝都とクラウ・ソラスを狙っている彼らが、この絶好の機会を逃すはずもなかった。
着地して、王宮に向かっていくリュフトヒェンに対して、緊急事態を知らせる魔導通信を受けとったセレスティーナが、リュフトヒェンに対して声をかけてくる。
「―――ご主人様!神聖帝国の軍が動き始めたとの連絡がありました!
少数のため、恐らく威力偵察か新兵器の試験運用かと思われますが……。対エキドナ戦で一杯一杯のこちらを狙った物だと思われます!」
そのセレスティーナからの通信に、思わずリュフトヒェンは叫び声をあげる。
『あーもうどいつもこいつも!こっちは忙しくて一杯一杯だっちゅうねん!
確かに戦略的には正しいけどさぁ!!』
あまりにもタイミングが悪すぎるのだが、それを言っても仕方あるまい。(もちろん、これも悪魔エイシェト・ゼヌニムの指示なのだが、彼らはそこまで知るよしもない)
敵が目の前で一杯一杯の時に無防備な背中から刺してくる。
確かに向こうからすれば戦略的には正しいが、やられているこちらからすればたまった物ではなかった。今の竜皇国は前門の虎、後門の狼、と言った状況である。
だが、こちらもそれに対して無防備だったわけではない。万全とは言えずとも、それなりの備えを行っているのである。
緊急事態を知らされて、王宮に駆けつけてきたシャルロッテは、リュフトヒェンに対して言葉を放つ。
「神聖帝国の方はアタシと辺境伯で何とかするわ!アンタはエキドナの方に集中しなさい!伊達に今まで辺境伯にここに居てもらった訳じゃないのよ!
クラウ・ソラスの指揮権は全てそちらに一任するわ!アタシたちは旧帝都とクラウ・ソラスを守る事に全力を尽くす!
分かったらさっさとエキドナを何とかして来なさい!!」
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