第77話 外骨格地竜
ズシンズシン、と異形の存在が大地を踏み鳴らしつつ、竜皇国の国境を踏み越えながら突き進んでいた。
一言でいうと、外骨格の装備された翼のない地竜だろうか。
十数体のその竜は、そのまま真っ直ぐにこちらの領土に向けて突撃してくる。
それは、神聖帝国が作り出した新型兵器であることは間違いない。知能の欠片もなくこちらへと突撃してくるその地竜。
無論、それをただ見ている竜皇国の兵士たちではなかった。
「撃てー!」
竜皇国の弓矢隊が放つ無数の矢は、放物線を描いて大気を切り裂きながら、その怪物へと襲いかかる。
だが、上空から襲いかかるその矢は、全てその竜が纏っている外骨格によって弾き返されていた。それを見て、次はシャルロッテが率いる魔術師部隊による魔術砲撃が地竜に向かって叩き込まれる。だが、その魔術砲撃すら地竜の外骨格は弾き返し足止めすら行えない。
それを見ながらシャルロッテは思わず叫びを上げる。
「全く何で人類至上主義のあいつらがあんな怪物を使いこなしてるのよ!普通逆でしょ逆!!」
竜が治める竜皇国ではなく、人類至上主義を掲げる神聖帝国が竜を使役するというのは、確かに道理としては逆である。(彼らからしてみたら、竜の力を支配して使役しているのだ、という理屈になるだろうが)
恐らく、竜皇国の魔術砲撃や矢や銃に対する対抗手段として神聖帝国が魔術で生み出した亜竜の類だろうが、その実験は成功していると言えた。彼らからしてみたら、竜皇国の魔術砲撃はそれほど恐ろしいものだったらしい。
それを見ながら、辺境伯であるルクレツィアは、シャルロッテに対して何かを耳打ちする。
「……いやまあできるけど。とりあえずやるしかないわね……。了解。アンタの指示に従うわ。魔術師部隊!アタシの指示する場所に砲撃を撃ち込みなさい!」
上空に飛んでいる鳥の使い魔の視覚を共有しながら、シャルロッテは砲撃を撃ち込む場所を魔術師部隊に指示していく。
それと同時に、魔術師たちの魔術砲台から数十もの魔術弾が放物線を描きながら大気を飛翔する。
その着弾地点は、砂埃をまき散らしながら疾駆する地竜ではなく、その手前の地面である。魔力弾が着弾すると同時に、地面が砕け、彼らの前に次々と土をまき散らしながら地面に穴を開けていく。
『~~~!!』
その開けられた穴に、ただ突撃するだけの地竜は、前のめりになりながら嵌まり込み、身動きが取れなくなっていく。
さらに、その身動きをとれなくなった地竜に、次々と後方の地竜たちが衝突していき、集団玉突き事故の様相を呈していく。
これは、地竜たちがほとんど知能がなく、ただ突撃する事しかできない、しかも、その上に激しい段差に対しては弱いという証明でもある。
「母なる大地よ!土から出でる槍となって敵を穿て!!”大地の槍”」
そこに、シャルロッテはさらなる呪文をかける。それは地面を変化させて、硬質の槍へと変化させて敵を下から串刺しにする魔術である。
地竜も下部分、つまり腹の部分は外骨格に包まれておらず、柔らかい腹を剥き出しのままである。
その部分を硬質の槍で貫かれてしまっては一たまりもない。
しかも、それは他の地竜も同じである。足止めを食らっている地竜たちも、次々と柔らかい腹部を地面から突き出した槍によって突き刺され、体液を吹き出しながら息絶えていく。
ようやく、のろのろと進行方向を変えようとする地竜たちの前にも、魔術師たちが前方に作り上げた土壁に衝突し、再び身動きが取れなくなる。
そして、その身動きの取れなくなった所に横から兵士たちが回りこみ、弓矢や銃での攻撃を仕掛けていく。地竜の外骨格は、矢や砲撃を防ぐために、頭部分と体の上部は覆われてはいるが、体の横部分は覆われていない。
そこに攻撃を食らっては、いかに竜といえども、一溜りもないのである。
こうして、神聖帝国が作り上げた新兵器である外骨格地竜は打倒されていった。
地竜を殲滅した彼女たちは、残党を警戒しながらも雑談をする程度の余裕ができていた。鎧を身に着けたルクレツィアはふう、と手で額の汗を拭う。
「ふう~。何とか終わったみたいですね~。……今回は新兵器の試験運用でしたが~私の危惧しているのは、神聖帝国軍が亜人たちを人間の盾として前面に出してきた場合でして~。」
そのルクレツィアの言葉に、シャルロッテは思わず反応して言葉を返す。
正規軍が人間の盾を全面に出すなど、ゴブリン軍以下だ。流石にかつての自分たちの軍がそんなことになるという事は信じたくはないが、有り得ないわけではない。
「はぁ!?ゴブリンじゃあるまいし、通常の軍隊がそんな事する訳ないでしょ!?……しないわよね……?ごめん。自信ない。そうね……。対抗策としては眠りの雲を広範囲にかけて一時的に無力化してその間に人質を回収するために戦線を押し上げるとかかしら。」
流石にそんなことはないと信じたいけど……。期待を下回るのがあの国だものね、とシャルロッテは思わず深いため息をついた。
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