第75話 火力が足りない!

『……どないしよ。あれ。』 


 そう呟きながら、旧帝都の外へと着陸態勢へと入るリュフトヒェン。

 エキドナから一旦撤退したリュフトヒェンたちは、そのまま一度旧帝都まで帰還する。

 今の彼らでは、あの混沌竜エキドナを倒す手段が見当たらなかったからだ。

 それに多大に消耗した魔力=生命力を補充する必要もある。戦闘機ではない彼らは燃料や弾薬を補充すればすぐに回復するという訳ではない。

 消耗した魔力を回復するためには、大量の食糧と休息が必要なのである。


 遠視魔術や、アーテルの配下のワイバーンの視覚を共有してエキドナは監視しているが、未だエキドナはふよふよと浮いたまま再生を行っている。

 ドラゴンブレスで吹き飛んだ肉体がみるみるうちに再生を行っているのを見ていると、あんな物、竜ですら手に負えないのではないか、という不安がよぎる。


 ともあれ、王宮に一度戻ってきた彼らは、魔力を回復させるためにセレスティーナたちが用意した山のような食料をひたすらに貪り食らう。

 本来ならここで一眠りしたい所だが、そうも言っていられない。

 今はエキドナは大辺境上空をふよふよ漂っているだけだが、辺境伯の大都市にでも向かって、大都市ごと人々を貪り食らえば多大な被害が出てしまう。

 運よく、リュフトヒェンたちによる都市を覆う大規模結界の構築は済んでいるが、それもどこまでもつか分からない。

 さらに、他の小さい都市や村々などは言わずもがなである。


「―――ともあれ、火力が足りない。」


 アーテルは作戦会議のために王宮に集まった皆に告げた。

 そう、一番の問題はそれである。

 ドラゴンブレス二発を食らっても完全には消滅しなかったエキドナに対しては、より強い火力が必要になる。

 だが、そんな火力がどこにあるのか。それは彼らの悩みの種だった。


「まずは奴の再生しつつある混沌に侵された腐肉をそぎ落として、竜核を顕わにしないと何も始まらん。だが、妾や貴様の火力では、腐肉を削ぎ落し切るのには足りんぞ。何らかの策を講じなければ……。」


 腐肉を可能な限り削ぎ落し、ほとんど肉体を削ぎ落されれば、肉体と交じり合っているエキドナの竜核が出現する。その竜核をさらに叩き潰した後で極めて強力な封印術式を行えば再封印は行える……はずである。

 ティフォーネほどの超火力を誇る存在ならば、エキドナを根こそぎ吹き飛ばして消滅させて、さらに再封印を施せばいいだけの話だが、それほどに強力な火力がない彼らは頭を悩ませていた。

 うーん、と考え込んでいた小型化したリュフトヒェンは、ふと旧帝都の外にある、とある物体を指さす。


『……それじゃ、アレ、役に立つんじゃないの?』


 その先には、全長500メルーにも渡る大地に突き刺さった大剣。

 かつて彼らが苦労して無力化させた、竜から人々を守るために至高神が与えたとされる神剣。その名を―――。


「クラウ・ソラスか!!確かに本来、あの神剣はああいった手合いにこそ最大限の威力を発揮する神域兵装。使えればこれ以上頼りになるものはない。

 だが、神力石を砕かれている以上、今はレーザーは放つことができんぞ?どうするつもりじゃ?」


 思わずアーテルはクラウ・ソラスを見つめながら叫びを上げる。

 リュフトヒェンやアーテルはその機動性からクラウ・ソラスの光を回避する事ができたが、回避力も機動性も劣る巨体であり、いくら再生力があるといえど、柔らかい腐肉で覆われているエキドナにとって、クラウ・ソラスは極めて有効的だった。

 クラウ・ソラスのレーザーの大威力ならば、あの腐肉を切り裂く事もできるし、あの巨体(しかもさらに大きくなる)では回避も難しいだろう。


 問題は、リュフトヒェンによって柄頭の神力石を砕かれてしまっている以上、再度のレーザー放出は難しいという事だ。

 だが、逆に言えば、神力石さえあれば再び射出する事は十分に可能である。

 それに対して、リュフトヒェンは思わずにんまり、とほくそ笑んだ。


『実は……。あるんですよ。ウチに。神力石のスペア。』


 それに対して、思わずアーテルは驚いた声を上げる。


「ハァ!?そういえば以前他の神剣を破壊したとか言ってたけど、アレ、フカシじゃなかったんかい!!というか何で言わんかったんじゃ!!」


『だってそんな事知れたら、帝国復活派がウチの山岳要塞絶対に狙っていたし……。本当は知られぬまま、このままずっと行ければよかったんだけどねぇ。』


 ともあれ、クラウ・ソラスが再起動できるのなら、それは対エキドナ戦の大きな力となる。問題は、今エキドナが上空に存在している山岳要塞内部に神力石は存在しているという事だ。

 開拓村の人々も、村自体に何重もの結界が張ってあるし、いざとなったら厳重な結界が張られている山岳要塞に逃げ込んでもいい、と彼らには通達してある。


『ともあれ、彼らの無事など確認するため、神力石を回収するためにもう一度大辺境に行くしかないな……。エキドナが落とし子とかをバラまき始めたらさらに厄介になる。とりあえず我一人でこっそりと向かってみるわ。』


 リュフトヒェンは一人でこっそりと大辺境近くへと飛行し、今度は魔術で小型化して開拓村へと近づいていく。

 エキドナが浮かんでいるのは目に入るが、再生と巨大化で手一杯で落とし子をバラまく事は今は行っていないが、いつ落とし子を無数にばらまくかは誰にも分からない。

 そのまま小型化したまま、木々に隠れながら山岳要塞へと入り込む。

 そして、その山岳要塞内部に隠れている村人たちを見て、彼はほっと一息をつく。

 鱗を通して連絡した通り、彼らは山岳要塞内部にきちんと逃げ込んでいたらしい。

 近くの村の人たちも皆そこに避難している。


『よし!皆無事か!避難しているな!何より!我はこの後、あのエキドナの再度迎撃に移る!安全が確保されるまでここに避難しているように!!』


 一安心したリュフトヒェンは彼らにそう告げる。実際、この山岳要塞がこの大辺境では一番安全と言ってもいい。(さらに罠などが仕掛けられている奥に踏み入れなければ。)

 彼らには、落ち着くまでここで避難してもらう予定である。そして、事情を説明して落ち着くまでここに避難している事、というと、リュフトヒェンはそのまま奥に向かい、巨大な神力石をそのまま自分の空間の歪みへとしまい込み、そのまま山岳要塞の外に出て結界を張りなおすと、そのまま再び旧帝都へと向かった。




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