第64話 偶像(アイドル)と神力石
悪魔の宿った像を撃破し、悪魔教団を捕らえたセレスティーナやシャルロッテたちは、そのまま捕らえた者たちを衛兵たちの本部に引き渡すと、そのまま王宮へと帰ってくる。
『悪魔撃退お疲れ様~。怪我はない?大丈夫?』
そして、そんな彼女たちをリュフトヒェンは心配して出迎えた。
まさか悪魔信望者を捕らえるだけの仕事になるはずが、あんな激戦になるとは予想外だったからである。
怪我をしていない彼女たちを見て、思わず彼はほっとする。
『まあ、それはそれとして、やっぱり悪魔信仰とか麻薬とか害悪だなぁ…。とりあえずウチの国では明確に禁止。死刑もありうる厳しい罰則つきでいくけど、悪魔信仰を根絶やしにするのは難しいよな…。何かアイデアない?』
そのリュフトヒェンの言葉に、シャルロッテは腕を組んで考え込みながら、言葉を放つ。
「厳しく取り締まるのは、まあいいとしてやっぱり何らかの心の拠り所が必要なんじゃない?特に今までの反動で亜人や竜人が偉くて、ただの人間は劣った種族という考えが広まってきてるわ。人間たちに対しても何らかの心の支えみたいなものが必要なんじゃないかしら?」
確かにシャルロッテのいう通りだ。それでは亜人と人間の立場が逆転しただけで何も意味がない。人間たちでも亜人たちに一目置かれるような物があって、心の支えになるような物があれば、この状況を改善できるはずである。
『神竜信仰とかではやっぱりダメ?』
「うーん……。神竜信仰は今まで虐げられてきた亜人、特に竜人たちは強く信仰していますが、ただの人間たちはあまり……。」
現在、神竜信仰は国教として布教してはいるが、やはりその信者は亜人、特に竜人が極めて多い。逆に普通の人間たちにはすでに通常の神々の信仰があるので、わざわざ神竜信仰に改教する理由がない。
つまり、これとは別に人々の心の拠り所になる物を考えなくてはならない。
彼は散々うーんうーんと考えたあげく、左斜め上の答えを出した。
「よし、解った。なら、我は人間たちの心の拠り所として
リアルア〇ドル〇スターとかめっちゃやってみたかったんだよなー!!この機会を逃してなるものか!とウッキウキのリュフトヒェンに対して、他の皆は偶像?像でも作るのか?としきりに疑問符を浮かべていた。
そんな疑問を浮かべる彼女たちに対して、説明を行うが、やはりいまいちピンときていない状態でシャルロッテは言葉を返す。
「はぁ……。まあ、とりあえず容姿のいい人間の女性を集めろ、とそういうことね。
しかも何らかの事情を抱えて困っている女性ならなおさらいい、と。
……食べるの?それとも後宮に入れるの?」
『違うわ!だから、
基本的に肉体で劣る人間でも、歌唱力ならば問題はない!
うまくいけば、ポーション以上に経済活動を活発化できる!亜人も人間に対して一目置くことができる!やってみる価値はある!』
「はぁ……。まあいいけど、あの子のメンタルケアしっかりしておきなさいよ。
使い物にならなくなったら、アンタもアタシも皆困るんだから。」
くい、と顎で指し示すと、そこには部屋の片隅で体育座りをしながらずーん、と落ち込んでぶつぶつ言っているセレスティーナの姿があった。
何か悪いこと言ったっけ?と疑問に思うリュフトヒェンを他所に彼女は壁に向かってぶつぶつとさらに独り言を繰り返す。
「うぅ……。私捨てられるんだ……。若い可愛くて美人な子が来たらご主人様から捨てられるんだ……。こんなに頑張って尽くしたのに……。」
部屋の片隅で体育座りしてさめざめと涙を流すセレスティーナの辛気臭さに耐えかねて、シャルロッテは思わずリュフトヒェンに怒鳴りつける。
「あーもう辛気臭い!!アンタあの子どうにかしなさいよ!!あの子があんなだと皆の仕事に支障が出るのよ!部下のメンタルケアも上司の仕事!さっさとする!!」
「何!?どうすればいいか分からない!?だったら二人きりでどこか出かけるなり何でもしてきなさいよ!確かアンタの拠点に財宝があるんでしょ!?そこに戻ってここに帰るぐらいは何とかしてあげるわよ!!」
と、そんな感じで二人はシャルロッテに半ばぽーいと追い出される感じで王宮から放り出された。
せっかくなので、今まであれやこれやと忙しくてできなかった二人きりで旧帝都でのウィンドウショッピングや食べ歩き、様々な買い物などを行うことによって、暗い顔をしていたセレスティーナの顔もすっかり明るい表情に戻っていた。
書類仕事の山などで今まで行えていなかった、都会でのご主人様とのデート♡を楽しめているのだ。これで機嫌が直らないわけがない。
散々買い物を楽しんだ後で、それらをセレスティーナの魔術により歪んだ時空へと放り込み、そのまま旧帝都の外に出て、リュフトヒェンは元の姿に戻って、セレスティーナを首に乗せたまま大空を飛行する。
地上にへばりついて作業をしているより、晴れ渡った大空を飛ぶというのは、やはり竜にとっては最高のリラックス方法だった。
やはり、外に出かけるのは彼にとってもいい気分転換になった。
そして、比較的安定した低速飛行でそのまま大辺境の開拓村まで戻ってきた彼ら。この村の周辺にはセレスティーナが張り巡らした魔物除けなど様々な結界によって守護されている。
さらに、それだけでではなく、リュフトヒェンが地脈を操作して作り上げられた魔術結界も重ね掛けしてあるため、並みどころか強めの魔物ですら近寄る事もできない。しばらく離れていたが、何事もなかったようで思わずほっとしてしまう。
村の人たちに挨拶をした後で、彼は自らの拠点である山岳要塞へと帰還する。
さらにその近くに存在するリュフトヒェンの本拠地である山岳要塞には、さらに何十もの多重の防護結界が張り巡らされており、実質的な神殿、魔術防御要塞と言っても過言ではない。
いざという時にはこちらに避難してもいい、とは言ってはいるが、村人たちは恐れを抱いて滅多に入り込みはしない。
実際、この山岳要塞内部には、入り口付近の大広間はともかく、そのほかの内部には様々な魔術的罠が仕掛けられており、血縁であるリュフトヒェンかティフォーネ以外は遠慮なく排除する罠が仕掛けられているため、それは賢明と言っていいだろう。
『よし、では宝物庫から財宝を取り出して向こうに搬送しよう。
こればっかりは我直々にやらないとどうなるか分からんからなぁ……。』
ぽいぽい、と宝物庫の財宝を空間の歪みに放り込みながら答えるリュフトヒェンに対して、セレスティーナはふと疑問の言葉を放つ。
「そう言えばご主人様。他にも色々部屋などがあるようなのですが、全部ご存じなのですか?」
『そうだねぇ。さすがに広すぎて我も全部は把握しきれていないし……。いい機会だし、ちょっと調べてみようか。』
宝物庫から大量の財宝を回収したリュフトヒェンは、そのままその奥へと向かう。
この山岳要塞の魔術的な罠は、ティフォーネやリュフトヒェンたちに引っかからないように彼らの血、そこから発する魔術的波長を感知し解除される仕組みになっている。リュフトヒェンの竜血を受け継いだセレスティーナも多分すり抜けることはできるだろうが、流石に人体実験を行うわけにはいかないので、リュフトヒェンがぴったりと寄り添っていれば安全だろう。
まずは試しにと、宝物庫のさらに奥へと入ってみた彼らは驚愕した。
そこのはさらに広大な地下を掘りぬいた空間が広がっており、そこには極めて巨大な球状の物体、つまり、20m級の宝石が鎮座していた。
そのあまりの巨大な宝石を実際目の前にして、ぽかーんと絶句してしまう彼らは、ようやく言葉を放つ。
『こ、これってもしかして巨大な神力石か!?クラウ・ソラスの柄頭にあったのと同じ奴か!!』
そう、それは、リュフトヒェンが破壊した巨大な神力石と同じ物だった。
何故こんな物がここに存在するのか、神と敵対していたと言ってもいいティフォーネが信仰の対象として後生大事にこんな物を保管していたとは考えにくい。
と、なれば答えは一つ。
「は、はい。恐らくは、他の神剣を破壊した際に戦利品としてそのまま回収したのでしょう。」
『……。もしかして、これを再度はめ込めばクラウ・ソラスってまたレーザーを射出する事できるの?あんなに苦労して無効化したのに?』
「多分……。劣化しているのでどこまで撃てるかは不明ですが、少なくとも数十発は撃つ事ができるでしょう。これがバレたら神聖帝国からすれば喉から手が出るほど欲しい代物ですね。旧帝都を再占拠して、これをはめ込めば実質の帝国復活ですから。」
こんな物が神聖帝国にバレたら何としても手に入れようとやっきになってこちらに襲い掛かってくるに違いない。
『……。見なかった事にしようか。』
「……。そうですね。そうしましょうか……。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます