第43話 魔術砲撃と曲射

 そのしばらく後、魔術師の生き残りが衛兵に連れて行かれた後、簡単に事情を聞かれたセレスティーナは、そのまま解放された後、辺境伯ルクレツィアの屋敷でシャルロッテと向き合っていた。


「で、私とご主人様のショッピングを邪魔してくれた分はどう責任を取ってくれるんですか?」


 いきなりの唐突なセレスティーナのそのセリフに対して、シャルロッテも思わず困惑の声を上げる。

 本来なら、さっさと帝都に戻る予定だったシャルロッテも、魔術師がやらかした事なら同じ魔術師が調べるのが適任だと、半ば無理矢理引き止められて、現場検証をやらされていたのである。


「えぇ……。(困惑)いや知らないし……。別にアタシが魔術塔を支配してるわけじゃないから責任と言われても……。」


 シャルロッテのいう通りである。彼女は魔術塔の有望な新人の一人ではあるが、別段彼女が魔術塔を支配している訳ではない。

 そんな彼女に、魔術塔がやらかした事を全て押し付けるのは、八つ当たりにもほどがある。まあ、セレスティーナも半ば冗談であり八つ当たりであるのは理解している。それはそれとして、彼女は真面目な話に入っていく。


「いや、でも真面目な話、魔術塔が帝国派に手を貸すのは仕方ないとしても、あんな風に非人道的な手段に手を貸しているなら、帝都攻撃の際に帝国派の巻き添えを食らう事は十分ありえます。今の内からパージしておいた方がいいのでは?」


 今までの状況を見れば、落とし子の件やあの杖の件を見れば、帝国過激派の中に魔術師、それも恐らく高位の魔術師が関与しているであろう事は想像がつく。

 魔術師全てがあんな非道な行動を行っていると思われたら、レジスタンスに魔術塔ごと魔術師たちが焼き払われる可能性がある。それは避けなくてはならない。


「とは言うものの、魔術師はエリートがなる物だから自然帝国派が多いし…完全にパージしておくのは無理よ。まあ、とりあえずやらかしてる奴らのピックアップと証拠集めだけはしておくけど。」


 証拠を集めておいて、いざとなったら「こいつらがやったことで我々には関係ありません!(実際そうだが)」と彼らを切り捨てれば魔術塔自体へのダメージはない。


(そして空いたそのポストにアタシが入る。完璧ね!)


 魔術師の階位は純粋に実力で指定されており、政治的な配慮はされていないが、高い階位にいたものはそのポストを手放さそうとせず、自然固定化されてしまう。

 つまり、魔術師としての実力はあっても、上の地位につけないという自体も十分にありうる。

 だが、その魔術師が失脚すれば、そのポストに入り込むことができる。

 魔術師といえど、政治と権力からは逃れられないのである。


 そして、そこで今まで黙っていた辺境伯ルクレツィアが口を開く。


「そこで提案がありますが~。帝国派の魔術師たちが行った非人道的な人体実験の証拠は全て、私の元に送って下さいませんか~?

 決起の際にこの所業を広く告発して、「非人道的な帝国の手から亜人たちを保護する」となれば十分決起の理由になりますから~。」


「それって、つまり今現在苦しんでいる亜人を見捨てるって事よね?それでいいの?」


恐らく、今現在も人体実験で苦しんでいる亜人たちはいる。今現在それを公表して糾弾すれば、助かる命もあるかもしれないが、タイミングを見計らうというのは、今苦しんでいる人を見捨てるという事でもある。

だが、戦いに勝つためには仕方ないというのがルクレツィアの判断である。


「戦いに勝つためですから~。こちらも全てを賭けた勝負なのです~」


ルクレツィアとしても、全てを賭けた戦いであり負ければ全てを失ってしまう立場である。

それならば、多少の非情な手段を取っても戦いに勝つ確率を上げるのは、彼女の立場からすれば当然である。



「後、ついでですから言うと~。中立派の魔術師たちをこちらに派遣できませんか~?魔術砲撃を行う魔術師たちの手が足りませんので~。」


「まあ、話はしてみるけど、あんまり期待しないでよね。前線に出たがる魔術師なんて少ないんだから。」


 魔術師とはそもそも根本的に研究者である。

 研究者が戦場に出て戦うというのは、メンタルなど様々な問題が噴出する事になるが、戦場で有効な以上求められるのは当然であるといえる。


「あ、魔術砲撃といえば一つ提案があるのですが、いいですか?」


「魔術砲撃に曲射を取り入れる……ですか~?」


「はい、曲射の概念自体はもう大砲があるので存在はしています。

 それを魔術砲兵、魔術師たちにも取り入れる。それだけの事です。」


 実際、以前の警戒網を作り出す時に、主人公に対してアーテルが曲射の魔術砲撃を叩き込んでいる。

 その術式をコピペして、上手く使いこなす事ができれば非常に有効になるはずである。


「ですが、質量のない魔力弾をそういう風に操作するのは面倒なのでは~?」


 基本的に魔術砲撃は、直線状に砲撃を放つのがセオリーである。

 質量のない魔術では、それが一番効率的で手っ取り早い。

 だが、それに対する対策も当然ながら講じられている。

 魔術障壁を作り上げるなり、塹壕を掘ってそこに籠ってやり過ごすなどである。


 だが、魔術砲撃による曲射を行えば、そうした防御を飛び越えて上から砲撃の雨を降らせることができる。

 さらに、上手く魔術式を付与して着弾点を操作すれば、精密射撃すら可能になる……はずである。

 上手くすれば敵軍に対して大打撃を与えることができるはずだ。


「ですが、これを行う事できれば数が少ない亜人派でも多大な戦果を上げられます。

 まずは、術式を大量にコピペして魔術師たちに配布。そして実戦で仕様できるよう訓練を積んでもらいます。ちょっといい所に、私と同じぐらいの魔術師がいるので、彼女に大量の術式の複製をお願いします。」


「えっ?それってもしかしてアタシ?…待って。今のアタシ、めっちゃ亜人派に取り込まれていない?アタシ中立派なんだけど。」


「もはや逃げられませんねぇ~。(ねっとり)」



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