第41話 ビーム兵器(違)って男の子の味だよな。

シャルロッテと会話が終わって戻ってきたセレスティーナに対して、小さくなったままのリュフトヒェンは声をかける。


『お疲れ様~。それじゃついでだし、都市を観光でもしていかない?

 これだけの大都市、せっかく来たんだから観光しないと損でしょ。』


 そのリュフトヒェンの言葉に、セレスティーナは驚いた顔を見せる。


「えっ?流石にそのままで観光は……。人化とか使われるんですか?」


『いや、あの術式めんどいし息苦しいし……。それならまだこちらの小型化の術式の方がマシなんでこちらでいきます。』


 そう言いながら、リュフトヒェンはただでさえセレスティーナが抱きかかえられるほど小型化していた自分の体を、魔術でさらに小型化する。

 セレスティーナの肩に乗れるほど小型化したリュフトヒェンは、そのまま彼女の頭の上をパタパタと飛び回る。


『これでよし。これなら君の使い魔あたりに見えるでしょ。「ぶるぶる。僕悪いドラゴンじゃないよ。魔術師の使い魔のトカゲだよ」という理論でいきます。』


「ご主人様…。それでいいのですか…?」


 竜の誇り?なにそれ?と言わんばかりのリュフトヒェンの言葉に、流石にセレスティーナも呆れた顔になる。ここに竜族の誇りを重んじるアーテルがいたらお説教だろうが、いないのだから問題はない。誇りは重要だけど、時と場合による。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に、という奴である。

 そのまま、セレスティーナの肩に止まったリュフトヒェンは、二人一緒に大都市へとそのまま出かける。

 この街の皆も、リュフトヒェンを見た時には少しは驚くが、いかにも魔術師然としたセレスティーナを見たら、何だ使い魔か……という顔になり無関心になる。

 これなら、街の人たちに気取られず、気楽に買い物ができそうである。


「きちんとアーテル様へのお土産も買って行って下さいね。あの人、かなりゴネていましたから……。」


『いい大人……。もといいい竜が全力でゴネるってどうなの…?まあ、とりあえず片っ端から美味しそうな物を買って上げるか……。』


 主人公とセレスティーナがいなくなった分、村の守りはアーテルに任せる事になったのだが、まあ、ごねたごねた。妾も街に連れていけ、とだだっ子の方がまだマシぐらいにごねまくったのである。

 どうにかこうにか説得は出来たが、その代わりお土産に美味しい物を沢山買ってこい、と確約されてしまったのである。


 しかし、比較的日持ちがして、しかも美味しい物など何がいいだろうか?と思いつつ目に入ったのは、路上で販売されている焼き菓子などである。

 ワッフルや様々な焼き菓子は、すでに中世でも存在していた。

 この時代砂糖や甘味は貴重ではあったが、この大都市ならば比較的手に入りやすいので、価格もそれなりだ。

 これなら、アーテルも満足するだろう、と片っ端から購入した焼き菓子に、保存の魔術をかけて空間の歪みの中に入れておく。


「よし、これでアーテル様も満足されるでしょう。それではこれから~♪ご主人様と一緒にお買い物ですね~♪ご主人様好みの服も下着も香水も全て購入しますからお好きな物をおっしゃって下さいね~♪」


 この女、浮かれておる。それはもう小振りな翼をパタパタさせて、文字通り少しだけ宙に浮かぶほど浮かされおる。

 当然、小さな翼だけの揚力で浮けるほどの力は出せない。

 わざわざ浮遊の魔術を使用して少しだけ浮いている事から、彼女のはしゃぎっぷりがよく分かるという物である。

 それほどのはしゃぎっぷりで、ニコニコの満面の笑みを浮かべていた彼女は、ふと何かを感じ取ったかのようにすっ、と一瞬にして無表情になる。


(ご主人様。ルクレツィア様が密かにつけてくれていた私たちの護衛の生命反応が途切れました。さらに、私たちの後ろを追跡してくる者たちがいます。

 このまま人気のない路地裏にまで誘い込みます。)


 淡々とした無表情のままその念話を行うセレスティーナは、先ほどの無邪気さとは対極だった。

 恐らく、彼女は本気で怒っている。マジ切れしているのだ。

 せっかくのリュフトヒェンと二人きりのデートだというのに、不審者どもに邪魔をされた彼女の怒りは天元突破したといっても過言ではないだろう。


(こわ……。この子怒らせないようにしとこ……。)


 彼女の怒りを間近でピリピリと感じながら、リュフトヒェンは大人しく彼女のいう事に従う事にした。

 そして、治安の悪いゴミゴミとした路地裏にまでやってきた彼女だが、その無表情の怒りから来る威圧感に、チンピラたちですら声をかけられず散り散りになって逃げだす。そして、人払いや遮音魔術などの結界を張ると同時に、もはや隠れる必要もない、と言わんばかりに、リュフトヒェンたちを狙う刺客、アサシンたちが姿を現す。

 

 アサシンたちは目立たないように、見た目こそ一般人であるが、その手にした様々な武器は到底一般人とは言えないものだった。

 そんな彼らに対して、セレスティーナは手にした竜骨杖を両手で構えて、魔力を注ぎ込む。


「ご主人様が街中で戦うと被害が大きくなりそうですので……。だから私が前に出て戦うためにこうします。」


 次の瞬間、竜骨杖のその先端と横から、バシュゥウウ!!という音と共に魔力が勢いよく放出され、その魔力は槍の穂先と斧の形へと姿を変える。


(ビ、ビームアックス!いや、ビームハルバートだ!か、カッケエェエエ!!)


 まるでビーム兵器のような魔力で作り出された穂先と斧に、リュフトヒェンの中の少年の心が反応してしまう。


(ビーム兵器って……男の子の味だよな……!)


 そんな無駄に感動している中で、ビームハルバートと化した竜骨杖を手にしたセレスティーナは、そのまま男たちの中に切り込んでいく。

 魔術師である彼女ではあるが、自らの護身のために魔術だけではなく様々な武器の扱い方も覚えているのが最近の魔術師たちのセオリーである。

(実際、魔術塔などでは魔術の勉強だけではなく、そちらも叩き込まれる)


『おっと。こちらも援護しないと。』


 そう言いながらも、リュフトヒェンも刺客たちに対して最小限度まで威力を低下させた雷撃を放つ。最低限度なのでスタンガンやテーザー銃程度の威力しかないが、牽制程度ならば問題はないはずである。

 バリバリ、と大気を引き裂きながら襲い掛かる雷撃。こうして、彼らの戦いは幕を開けた。

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