第40話 ライバル、シャルロッテ参上。

 そんなこんなをしている中、辺境伯ルクレツィアに渡した鱗から、リュフトヒェンに対して通信が入ってくる。

 それは、以前話をした中立派で公爵の娘であり、セレスティーナと魔術師としての同期である女性とのコンタクトが取れたという事である。

 会談の機会を設けるから、会うのなら返信をよろしく、という内容だった。


『ふむ……。辺境伯から以前話した公爵の娘とのコンタクトが取れたって。

 辺境伯のお膝元の大都市で会談を開いてくれるみたいだし、ちょっと行ってみない?

 気分転換にもよさそうだし。』


「了解しました。何とか中立派の支援を取り付けてきます。まあ、正直あんまり得意ではないのですが……。ご主人様はどうされますか?」


『一応小さくなって付いていく予定だけど。何か妙な奴が街中にいて結界が反応したらしいけど…。まあ、予め言っておけば問題にはならないでしょ。』


 そして、彼らは辺境伯領主ルクレツィアのいる大都市まで移動する事になった。

 いくら亜人や竜人が多くいるとはいえ、戦争間近のこの状態で竜が空から近づくのは攻撃を仕掛けてくる、と思われても仕方ない。

 そのため、隣の村まで飛行して、そこからはルクレツィアが用意した馬車に小型化して乗る事にした。


『ん”お”お”お”……。めっちゃ揺れるなこれ……。』


 そして、その馬車の中で、リュフトヒェンは激しい揺れに悩まされていた。

 流石に乗り物酔いなどはしていないが、舗装もされていない道路でバネも車輪にゴムもない馬車では揺れるのは当然だと言える。

(これでも様々な工夫はされているが、それでも慣れていない彼には非常に揺れているように感じられるのだ)


「ご主人様、どうぞこちらへ。少しは楽になるはずです。」


 馬車の揺れに慣れているセレスティーナは、自分の膝の上をポンポン、と叩く。

 確かにそっちの方が良さそうだ、と思った小さくなったリュフトヒェンは、素直にセレスティーナの膝の上に乗る。

 と、彼女はそのままリュフトヒェンをまるでぬいぐるみのように抱きしめる。

 以前の温泉のように、おっぱいでホールドされてしまったリュフトヒェンは、そのまま大人しく彼女のされるままになってしまった。


「~~♪」


 まあ、正直抱きかかえられているのは気持ちいいし、彼女も上機嫌そうだから、このままでいいか……。と彼はそのままその状況に流される事にした。


 そして、そのまま馬車に揺られて、辺境伯ルクレツィアのお膝元の大都市までやってきた彼女たちは、そのままルクレツィアたちが密談などで使う防音魔術などが施された特別な会議室へと通される。

 リュフトヒェンは気を利かせて一応会議室と離れた別の所で待機するようにしたが、セレスティーナ本人としてはぜひ居てほしかったというのが本音である。


 そして、そこにセレスティーナたち以外の女性が颯爽と入ってくる。

 燃えるような赤毛をポニーテールにした強気な少女。

 手には魔術師としての証である魔術師の杖を手に、公爵の娘らしく、高級で品のいい流行に乗っ取った可憐な服を身に着けているその女性こそ、セレスティーナと魔術師としての同期である、シャルロッテ・フェリースである。

 帝国の中でも高位の貴族である公爵の娘であり、同時に中立派の重鎮でもあり、魔術師として優れた才能を誇る女性である。

 彼女は、セレスティーナの顔を見た瞬間、ふん!と盛大に鼻を鳴らした。


「ふん!随分と久しぶりね!生きていて何よりだわ!全く、冤罪着せられて魔術殺しで傷を負わされて帝都から去ったなんて、めっちゃ心配したんだからね!

 いい!私がアンタを負かすまで死ぬなんて許さないんだから!!」


「はいはい。貴女も相変わらずですね。お久しぶりです。」


 比較的付き合いの長いセレスティーナは、こう言う時の彼女は適当に受け流した方がいい、と言う事を知っているが、だがシャルロッテは、ますます彼女に突っかかってくる。

 シャルロッテからしてみたら、自分と同じぐらいの魔力量だった彼女が大幅に魔力量が向上しているのが納得いかないのである。


「というか!アンタその魔力は何なの!?前会った時よりめっちゃブーストされてるんだけど!!完全に小達人どころか大達人の領域じゃないのよ!

 はぁ!?竜血に加えて竜骨杖を貰ったァ!?そんなの二重にもらえばそりゃブーストされて当然よ!ズルよズル!インチキよ!!」


 わーぎゃーと騒ぎ出す彼女に対して、はいはい、とセレスティーナはおなざりに受け流す。こういう風に大騒ぎするから、あまり彼女には会いたくなかったのである。

 何故か彼女は昔からセレスティーナに対して突っかかってくることで有名だったので、対応も自然とおざなりになるのは仕方ない事だろう。

 差別を受ける竜人と、帝国の公爵の娘とでは立場も何もかも違いすぎるが、向こうが一方的に突っかかってくる事により、そんな関係になっていたのである。


「で、わざわざ辺境伯を通して私を呼び寄せたのは何の用?まさかただ会いたかったという訳じゃないんでしょ?」


「はい。端的に言いますと、我々はこれから先、帝都に侵攻します。

 その時に起こる混乱を貴女たち中立派に抑えてもらいたいのです。」


 単刀直入に要件を告げるセレスティーナに対して、シャルロッテは驚いた顔を見せて、思わずテーブルをバン!と両手で叩きながら身を乗り出す。


「ハァ!?何よそれ!帝都に侵攻する!?というか帝国に反抗するとか初耳なんですけど!?」


「そりゃ今初めて言いましたから初耳なのは当然かと。ああ、これはご主人様も辺境伯様も納得した上で伝えていますから情報漏洩とかではないですよ?」


「そういう問題じゃなーい!っていうか!それって竜が帝都に侵攻して占拠するって事よね!?竜によって帝都が占拠なんてされたら絶対亜人派や亜人たちが暴走するに決まってるじゃない!

 私たち中立派や帝国派の貴族たちなんてリンチにされて首をその辺に晒し者にされるじゃないですかやだー!!」


 それを聞いて、思わず彼女は頭を抱える。竜によって帝都が占拠されたら、間違いなく今までの差別の反動、つまり虐げられていた亜人たちが帝国派や中立派に対してリンチやジェノサイドを行うのは目に見えている。

 今まで散々差別された亜人たちに対して、これをやめろ、などという事を言っても絶対に聞かないことは間違いない。

 そして、それは当然、社会的な大混乱を招く。むしろ中立派である彼女の首も取られかねない勢いである。「貴公の首は吊るされるのがお似合いだ!」状態になって冷静でいられる人間はそうそういない。


「まあ、そうなりますね。絶対にそこら中で亜人たちが今までの鬱憤を晴らすために帝国派や中立派の人間たちをリンチするか処刑が始まりますね。」


 それを聞いて、シャルロッテは思わず頭に手を当ててじたばたしながら暴れまわってしまう。


「聞きたくなかった!こんな情報聞きたくなかった!っていうかこれ軍事機密じゃない!そんなの中立派の私に教えていいわけ!?」


「辺境伯様やご主人様からの許可は取ってありますから。多分処刑やリンチを出来るだけ抑えてほしいという二人の意向なのでしょう。

 この話を受け入れてくれれば、レジスタンスたちに貴女たちの屋敷などは襲わせないようにする事は約束します。

 ……それでどうしますか?帝国の貴族として、帝国に最後まで尽くしますか?

 それともこちらの要望を聞きますか?」


 すっ、とセレスティーナの目が細まる。ここで帝国に従う、と言えば例え同期と言えど何の躊躇いもなくセレスティーナは彼女の命を奪うだろう。

 セレスティーナにとって最も重要なのは、自らの主人であり、それ以外はどうでもいい、という考え方である。

 ある意味狂信者であるセレスティーナは、例え魔術師の同期であろうが不都合な存在ならばその命を奪い取るし、一切後悔はしないだろう。


 帝都侵攻の際には、帝都にいる亜人たちや亜人派によるレジスタンスたちが暴動を仕掛け、帝都内部を混乱させる手配になっている。

 今の内から話を通しておけば、彼女たち中立派の貴族たちの屋敷を襲わないようにはできるはずだ。


 それを見て、シャルロッテも降参、と言わんばかりに両手を上に上げて、セレスティーナの言葉に従う。


「……解ったわよ。アンタたちの話に乗るわ。帝国の貴族としては最後の最後まで帝国に尽くすべきなんだろうけど……。今の帝国を見てるとね。」


 そう言いながら、彼女は思わず深いため息をつく。

 生き残るのに長けた中立派と言えど、今の帝国派の一部の暴走や亜人の命など何とも思っていないのには思う所があるらしい。

 帝国の貴族としては、最後の最後まで帝国のために戦い抜くという方が正しいのだろうが、今の独善と亜人を弾圧して苦しめる帝国が正しいとは、どうしても彼女には思えなかったのだ。


「よし、いい機会なので、アタシも腹を決めるわ。亜人の保護も本腰入れるし、レジスタンスにも協力するわ。ましてやそんな帝都全ての生命体の魔力を搾り取る結界なんて論外!!密かに手回しして妨害しておくわ。……ただし、その分、きちんと私たちや私たちの保護下にある中立派には危害与えないでよね。」


まあ、そこでもきちんと自分の保身を行っている所は、さすが中立派といえるが。

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