第39話 汚染浄化と竜骨杖
そして一方その頃、エキドナの落とし子を倒したリュフトヒェンとセレスティーナは、元ドワーフの居住地へとやってきていた。
「……うわぁ。」
その破壊された住居地を一目見て、セレスティーナは声を上げた。
周囲の地面や居住地内一体が、落とし子の毒気によって汚染されているのは一目見て理解できたからだ。
何とか避難できたドワーフたちは、リュフトヒェンの村と合流してこちらの力になってくれる事(その代わり保護をして受け入れてほしい)という事を確約された。
本来なら、この事件なしにすんなりとこちらに協力してもらえれば話は早かったのだが、まあ、怪我の功名という奴である。
だが、彼らが故郷であるここ地下採掘場兼居住地に戻りたがっている事は事実である。また、居住地に埋もれているドワーフ製の様々な道具や武器などは、こちらの大きな力になってくれるはずである。
『魔術でここをどうにか浄化……っていうのは流石に難しいよね?』
だが、落とし子によって破壊された上に毒気で汚染されたこの場所に潜るのは、いくら頑丈で知られるドワーフたちでも難しい。
しかも、瓦礫や何やらを除去しながらとなるとなおさらである。
まずは何にせよ、ここの毒気を浄化できれば発掘作業も非常に楽になる。
ダメ元でセレスティーナに聞いてみたリュフトヒェンだったが、至極簡単な答えが彼女から返ってくる。
「できますよ。」
『できるの!?』
びっくりしているリュフトヒェンに対して、セレスティーナは何ということのないように頷きながら答える。
「ええ、土浄化と水浄化の魔術を拡大して地域一帯でかけていけば何とかなるはずです。もっとも、それでも浄化できる範囲は限られていますから、浄化して地下に潜って浄化して地下に潜って、の繰り返しになりますが。」
『……魔術ってスゲー。』
何でも本物のドラゴンの毒ならこれほど簡単にはいかないが、落とし子程度のドラゴンもどきの毒ならばこれで大丈夫との事である。
まずはセレスティーナが大規模な土浄化と水浄化の魔術をかけて、その後で土を採取して毒気を調べてみるが、やはり毒気は存在しないようである。
そこで、ふと気になった事に対して彼はセレスティーナに対して問いかけてみる。
『……もしかして何だけど、鉱毒とかも何とかできるの?』
「ええ。同じように地域一帯を土浄化と水浄化の魔術をかければ。
ただ、鉱毒の場合だと浄化しても、また別の所から毒が流れ込んできていたちごっこになる可能性があります。根本の部分を何とかするか、そもそも鉱毒を出さないようにするのが一番ですね。」
『魔術ってスゲー。』
本日二回目の関心をするリュフトヒェン。
だが、実際、鉱毒の恐ろしさは歴史の授業などで聞いた事のある彼にとっては、ため池も作らずに、それが一瞬にして浄化されてしまう魔術の凄さを実感してしまう。
「まあとりあえず、先ほど言ったように、浄化して潜って浄化して潜って……。を繰り返すしかないですね。ドワーフの人たちにも浄化系の魔術を覚えてもらいましょう。」
魔術の使えそうなドワーフたちに、自分の使用している土浄化と水浄化の魔術の魔術式をそのままコピーして渡したので、これである程度は浄化の魔術を使用する事ができるだろう。
それを理解したドワーフたちは、鳥かごのカナリアを手に元自分たちの居住地へと瓦礫を取り除きながら入っていく。
セレスティーナも入っていく事を提案したのだが、リュフトヒェンが危険すぎるから今回は入らないでほしい、という要請のため、それに従ってドワーフたちの作業を見守るだけにしている。と、そこでふと、セレスティーナは思いついたかのようにリュフトヒェンに対して声をかける。
「ところでご主人様。お話があるのですが、山岳要塞にある竜の骨の一部、私が頂いてもよろしいですか?」
確かに、リュフトヒェンが竜牙兵を作るために牙を抜き取った竜の骨が山岳要塞には存在していた。あの時の彼には首にある牙しか注意が寄っていなかったが、よくよく見てみると、腕なのなんだの様々な竜の骨がそこには飾られていた。
ママンの趣味をどうこう言う気はしないけど、あんまりいい趣味じゃないよなぁ、と息子の彼ですらそう思ってしまったが、それが大いに役に立っているのだから何も言う権利はない。
『別にいいけど、どうするの?』
「はい。ドワーフたちに削ってもらって魔術杖にしようかと。竜の骨からできた杖ならば、これ以上ないほどの魔力増幅装置になりますので。」
例えば比較的直線に近い骨、上腕骨や橈骨などの骨を削って整えるだけで、人間が手にする杖程度の長さに加工する事は比較的簡単である。
しかも、竜の骨はそれだけで膨大な魔力を秘めており、魔術を使用する際の魔力増幅装置、ブースターへと変化する。
それがあれば、さらに広範囲な浄化魔術などを使用することも可能である。
『ええよ。ああ、うん。それじゃ我からドワーフたちに頼んで作ってもらおう。
君には色々世話になっているし、我からの贈り物って事で。』
それを聞いた瞬間、セレスティーナの瞳がキラキラと輝きだしながらリュフトヒェンを見上げる。
「ご主人様からの贈り物!?本当ですか!?」
その純粋な瞳の輝きと勢いに押されながらも、リュフトヒェンはさらに言葉を返す。
確か女性は宝石などの貴金属も好きと聞く。ついでに送って忠誠度も好感度も稼いでおこう。忠誠度も好感度も高ければ高いほどいいのは言うまでもない。
『う、うん。君には苦労かけてるし、これくらいはしないとね。
それと何か宝石か貴金属も送るよ。今まで頑張ってくれたお礼として。』
やった♪やった♪ご主人様からのご褒美♪と踊り出しそうなセレスティーナを落ち着かせてまずは一度拡大範囲させた土浄化と水浄化の魔術をかけて、地表一面を浄化する。そして、問題は毒気がどの辺までしみ込んでいるか、ということである。
ドワーフの居住地は、貴重な鉱物資源、大量の鉄資源、鉄鉱石などの加工装置、高品質なドワーフの作成した武器防具、と喉から手が出るほど欲しいものばかりである。
そこに潜って使えそうな物、まだ破壊されていない物などを掘り出して自分たちの物にする。それが今回の役目である。
ともあれ、瓦礫を撤去しながらの作業は手間暇がかかるのは事実。
一旦彼らは回収できた物と一緒にリュフトヒェンの村へと帰っていった。
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