第38話 ママンの優雅(?)な日常 後編
―――そして、瞬間転移で辺境伯の大都市から姿を消したティフォーネは、辺境伯の領地と帝国本土への境界線へと足を運んでいた。
「……さて、何か帝国本土?の近くにまで来てみたわけですが。」
そう言いながら、彼女はすっと目を細める。
ティフォーネによって首都を吹き飛ばされたのがトラウマなのか、本土には何重もの魔力探知結界が張り巡らされている。
ここにティフォーネが足を踏み入れたら、間違いなく大量の兵士が総動員されるだろう。
正直、誤魔化すのも手間がかかるし、何よりも本土から伝わってくる陰気な雰囲気が彼女にとっては気に入らなかったらしい。
「うーん、何か随分と陰気そうですね……。別段、面白い事もなさそうですし、別の所に……ん?」
と、そんな彼女の目に、本土からこちらに逃げてくる竜人の女性たちと、それを追いかけてくる人間の兵士たちが目に入る。
こんなのは別に珍しくもない。差別が厳しい帝国本土から、ほとんど差別のない辺境伯領地へと流れてくる亜人や竜人たちは大量にいる。
今回は、その一例に偶然ティフォーネが立ち会っただけである。
だが、その兵士たちは、ティフォーネに対しても目をつけると乱暴な言葉を共に彼女のもとへと駆け寄ろうとする。
「おい!そこの竜人の女!貴様も逃亡の手助けをしているのか!大人しくしろ!!」
「大人しくしろ!竜人ごときが我々に逆らうな!きちんとどちらが上がその体に教え込んでやる!!」
その兵士たちの乱暴な言葉に、ティフォーネはむっと機嫌を損ねる。
たかが人間の分際でこいつらは何を言っているのか。ふざけるのもいい加減にしろ。ティフォーネはまるで邪魔なハエを払うように、手をひらり、と動かす。
その手の動きによって、猛烈なソニックウェーブと無数の真空刃が構築され、一気に兵士たちへと襲い掛かる。
「!?」
真空刃により肉体を瞬時にズタズタに切り刻まれて、ソニックウェーブによってさらに瞬時に肉片へと変化する兵士たち。兵士たちのいた一帯は、彼女の力によって深く地面が削られ、細かい肉片と化した兵士たちの残骸を探す事すら難しい。
普通の動体視力を持った人間ならば、兵士たちが瞬時に血の霧と肉片に変化したようにしか見えなかっただろう。
エンシェントドラゴンロードである、神にも等しい彼女の力をもってすれば、この程度は容易い事である。
「全く面白くないですね。さて、それでは別の場所に……。」
と、そこでティフォーネは近くで震えている女性たちに目をやる。
面倒くさげに、ティフォーネは空間の歪みから、宝石と非常食用の焼いて保存してあった肉を取り出すと、それを彼女たちの前に放り出して言葉を放つ。
「いいですか?何故貴女たちがこんな目にあっているのか。
それは、貴女たちが弱いからです。蹂躙されたくなければ強くなりなさい。
軍だの国家だの、全てを粉砕できるほど強くなりなさい。そうすれば、誰も貴女たちを蹂躙する事はできません。それが、竜の論理です。」
息子ならともかく、竜の血を引いているだけの、遠い親戚ですらない彼女たちを救う義理などティフォーネにはない。
強者こそが正義。弱者は何をされても文句は言えない。
その単純明快さこそが、竜族としての基本原理である。
「後は私には関係ありません。悔しければせいぜい生き残り、強くなりなさい。
それでは。」
その言葉と共に、彼女は瞬間転移を行い、その場から姿を消す前に、小さくぽつりと呟く。
「……さて、何やら帝国が大辺境に攻め込もうとしているようですが、私の息子ならば帝国ぐらい撃退してもらわねば困ります。せいぜい頑張ってください。」
その言葉と共に、彼女は瞬間転移でその場から消えていった。
・追記:
主人公「何でママンは亜人たちを救わないのん?」
ママン「?何でそんな事しなければいけないんですか?」か「分かりました。帝国全土を全て吹き飛ばせはいいんですね?」
うーんこの。
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