第36話 と、いう訳で独立します。(予定)


「と、いう事で独立する事にしましたわ~。」


『直球!?』


 わざわざ馬車を使って大辺境までやってきたルクレツィア辺境伯は、山岳要塞内部の自分の部屋で休んでいた主人公に対してそう宣言した。

 周囲にはセレスティーナとアーテルしかおらず、人払いや消音の結界なども張り巡らしてある。

 村人たちもやっと軌道に乗り出してきた村の中の家に住んだり、自分たちの家を建てようと働いていたりしており、この山岳要塞内部に人はいない。

 つまり、極秘会議には絶好の場所なのである。


「ええ~。何処かの誰かさんが威力偵察に盛大に引っかかったお陰で~。

 大辺境の今の状況が帝国に漏れてしまいましたので~。

 大辺境に攻め込むべきと帝国派が大騒ぎですわ~。ねえ、どこかの誰かさん~?」


 そういいながらルクレツィアは、リュフトヒェンを軽く睨みつけるが、彼はそっぽを向いて目を反らす。

 だって仕方ないじゃん!自分の縄張りにちょっかい出して、ドワーフたちをいじめているのを見過ごしたら、この先誰も信頼してくれないじゃん!俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇッ!!と心の中でリュフトヒェンは呟くが、彼女の方も本気で怒っているわけではない。


「まあ、どうせいずれはバレる事ですし、それはいいのですが~。

 それに亜人派のお陰で、少なくとも今すぐ領地剥奪だの侵略だのは免れましたから~。その代わり、最前線で戦え、などという戯言を吐かれましたが~。」


 まるで罪人のような目で見られながら、それでも帝国のために戦うなど、普通の人間の感情としてやっていられるか、と思うのは当然である。

 今のこの状況なら、軍備を整えたり、兵を増員したりしても「大辺境への侵攻のため」と言えば何ら問題はない。

 本当はもっと状況が整った時に独立宣言をする予定だったのだが、このチャンスを逃す手はない。


「ともあれ、作戦を説明いたします~。

 まず、我々亜人派が独立宣言と同時に宣戦布告。帝国派の領土へ侵攻を行い、戦線を押し上げながら帝国派の目を引き付けます~。

 そしてその間に竜様が帝都を強襲し~、クラウ・ソラスを無力化して帝都を占拠。

 開戦されたとほぼ同時に帝都が占拠されたとなったら~。帝国内部は大混乱に陥ると思いますので~。その隙を見計らって我々が一気に進軍。電撃戦で帝都まで攻め入る形になれれば最善の形ですわ~。」


 確かに戦力で劣る亜人派が帝国に打撃を与えるには電撃戦しかない。

 独立宣言と同時に宣戦布告して攻めこむのは、はっきり言ってかなりアウトではあるが、生き残るために形振り構ってはいられない、という状況である。


「しかし、こちらの決起が向こうに悟られている可能性はあるんじゃないか?」


「まあ、当然ありますわね~。恐らく中立派は感づいていると思います~。あの蝙蝠どもは自分たちが生き残る事にかけてはずば抜けていますから~。帝国派からすればこちらを正々堂々と殲滅できる絶好の機会か…あるいは、弱小勢力の事などいちいち調べていないか、ですかね~。」


 帝国派は人類至上主義だけではなく、帝国至上主義にも陥りつつある。本気で帝国はこの大陸全土を支配下に置くべきだ、と信じこんでいるのだ。

 そして、その自信過剰により足元が疎かになっているのも事実である。


「ともあれ、わたくしの領地と接している亜人派は全てこちらについてくれる事になっています~。このまま帝国についていても、地位が剥奪されるのは目に見えていますから~。」


「問題は中立派ですわね~。この日和見蝙蝠野郎どもをこちらに引き入れなければ、帝国と渡り合う事はできません~。あいつらをこちらに引き入れるためには、初戦で大きな戦果を上げて、こちらについた方が特と思わせなくてはいけません~。」


 ルクレツィアのいう通り、中立派もある程度は支援してくれるが。それでは到底何もかもが足りない。帝国と真正面から戦うためには、大きな戦果を挙げて、中立派をこちらに引き入れる必要がある。


「そのための帝都強襲、帝都占拠か。でも、確かに帝都には住人全ての命を搾り取る結界があるんだろ?それに俺たち二頭だけじゃ占拠は…。」


 帝国派は、いざとなったら帝都全ての住人の命を搾り取り、クラウ・ソラスに流し込む結界を帝都に密やかに張り巡らしている。

 いざ帝都が陥落する際に、死なば諸ともで、その結界を発動させる可能性は十分にある。

 そこでセレスティーナが手を上げて発言する。


「そこで提案があります。私の魔術師の同期に、中立派で帝国の公爵の娘さんがいます。そちらに私の方からコンタクトを取ってみますから、辺境伯様からさりげなくこちらに来て頂くよう言ってもらえませんか?……まあ、変人ですが、私と同じ階位の魔術師なので、結界を無効化するのには頼りにはなるはずです。」


 聞けばその子もセレスティーナと同じく小達人の位階にあるという。

 それだけの腕前の魔術師で、しかも中立派で公爵の娘となれば、結界を無効にできる可能性は十分にある。


『しかし、そなたは魔術院を策謀で追われたんだろう?その子に頼れば冤罪は解けたんじゃないのか?』


 その彼の言葉に、セレスティーナはあからさまに嫌な顔をする。


「えっ?普通に嫌ですが?あの子の事ですから、「よし!ならアタシが一番でアンタは下!下なんだから何でも言う事聞きなさいよ!下僕としてこき使ってあげるわ!」とか言い出すに決まっていますから。」


「……魔術師としてのライバルだったの?」


「まあ一応は。向こうも同じ小達人の位階ですが、何故か「竜人の分際で差別にも負けずここまでこれたのは大した物よね!私のライバルに相応しいわ!」だの何だの絡まれまくりましたが……。」


「しかし~。公爵で中立派となれば、中立派の大物である事には変わりありません~。その子にこちらの思惑や戦術を教えておいた方が、帝都占拠の際にはスムーズにいくと思いますので、話を通しておいた方がよろしいですわね~。」


 では、ルクレツィアの方からその子に話を通して、どこか会談できるような場所を作ってほしい、セレスティーナの言葉に、ルクレツィアも頷く。

 そこまで話が纏まった所で、今度はリュフトヒェンは現在開発中の黒色火薬についての話を始める。


『それと、黒色火薬について何だけど、そちらは火縄銃とかあるの?少しは役に立つと思うんだけど。』


「確かにありますし、ありがたいのですが~。正直その程度の量では焼け石に水でして~。それより温泉があるのでしたら、そこから取れる硫黄をこちらに大量に輸送していただけるほうがありがたいのですが~。後木炭もですね~。」


 確かに、今のリュフトヒェンたちの状況では、木炭と硫黄は大量に取れるが、肝心の硝石はまだ小規模しか生み出すことはできない。

 それなら、ルクレツィアの領地に運んで、どこからか硝石を調達した方が彼女にとって軍備を整えるのにも都合がいいのだろう。

 だが、それに反対の声を上げたのは、人間体に変化しているアーテルだった。


「良くない!ぜーんぜん良くない!!何で妾の温泉に人間どもを大量に入れなきゃならんのだ!腹が立つ!……だがまぁ?妾は心の広い竜であるから?美味しいものを大量に捧げれば許してやらんこともないぞ?(チラチラッ)」


『(ウゼェ……。)』


「(ウゼェ……。)」


 ともあれ、こうして辺境伯と彼らの独立・開戦についての話は纏まっていったのであった。






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