第34話 エアバトル・スポーン2
操作していた落とし子がアーテルによって打倒されていく中、もう一体の額の魔術師は興味深そうにその戦いを眺めていた。
『ふむ……。なるほど。流石にあれだけのダメージを追えば再生不可能か。
だが、それでも十分に戦えることは証明できた。この実戦証明データはそれだけで我々帝国にとって大いに役立つ。』
額と首の横から生首を生やした落とし子は、そう呟きながらもリュフトヒェンに対して、指に生えた爪をミサイル代わりに射出する。
いくら射出しても次から次へと生えてくるその爪のミサイルを、リュフトヒェンはブレイクしながら回避を行う。
この状態なら実質二対一の状況だ。こちらが遥かに有利である事は間違いない。
だが……。
《妾一体倒したんだから貴様もその一体を倒すべきじゃろう。竜は力を示してこそ従う存在。二体で一体をボコボコにして力を示せるか?打ち倒して貴様の実力を見せてみろ》
力にせよ知性にせよ、優れていない部分を見せねば他の竜の下に従う竜などいない。
竜を従えるのなら、常に自らの力を指し示す必要があるのである。
だが、この考えでは、お互いの背後をカバーしあうロッテ戦術などと言った二機一組で力を合わせるなどと言った発想は浮かばない。
この部分を改善しないといけない、と思いつつ、リュフトヒェンは落とし子と向き合う。
(あれが人間の生首であるのなら……。)
まず、リュフトヒェンは落とし子の額に存在する魔術師の首に対して雷撃を叩きつける。どこからどう見てもあの首が司令塔だ。あの首さえ排除すれば容易く倒せるはずである。だが、雷撃が放たれた瞬間、その首は落とし子の額への中へと完全に埋没し、その攻撃を防御する。
「ははは!無駄無駄!その程度の事私が予知しないとでも思ったか!?」
今度は首の下部分にぼこり、と魔術師の生首は出現する。これでは何らかの不意を打たないと首に攻撃することはできまい。
リュフトヒェンはそのまま、首を上空へと向けると、まるで矢のように上空へと垂直飛行する。
『待て!貴様逃げるつもりか!!』
生首を生やした落とし子も、彼を追うために翼を羽ばたかせて垂直上昇する。
全身から魔力噴射を行う事により、亜音速で彼を追いかける落とし子。
蒼穹に飛行機雲を描きながら、一直線に空にかけ上っていく二体の竜。
彼は念のため、魔術防壁内部の気温を保つ温暖術式と、気圧を一定に保つ術式をかけながら、天空へと駆け上がる。
上空高度8000メルーもの超高度。そこまで駆け上がった二体の竜だが、一方の落とし子に異変が起き始めた。
「が……。あ……。」
「あ……。く……。」
苦し気な声を共に、バン!と言う音を立てて竜人の生首が弾けたのだ。それと共に、完全に落とし子の制御が利かなくなっていく。
『な、何だと!?一体何が!?』
見ると竜人たちの生首は完全に凍りついて、その機能を停止していた。
そして、超高度の気圧と亜音速の激しい機動に耐えきれず、ついに破裂する生首もある。高高度の空は凄まじい寒さに覆われている。
そんな所に何の魔術防御もない人間の首が放り出されたら、凍りつくのは当たり前である。さらに、何の魔術防御もない生首が亜音速の風圧やGに長時間耐えられるはずもない。
制御を失った落とし子は、そのまま落下を開始するが、魔術師は制御装置を失っても無理矢理落とし子の魔術制御を試み、何とか成功する。
それに対してリュフトヒェンも降下を開始し、垂直の降下中にバレルロールとシザーズを繰り返して攻防の位置を入れかえるバーティカル・ローリング・シザースの形になりながら降下していく。
もはや、指だけではなく、全身から爪を生やして射出する落とし子に、それを周囲の電球の雷撃や電磁バリアによって防御するリュフトヒェン。
だが、このまま地上までのチキンレースの千日手を続けるつもりはない。一旦リュフトヒェンは、急下降からの反転で急上昇へと転じる。無論、そうなれば相手に絶対の弱点である後方につく隙を与えることになるが、ただで付かせるつもりはない。
彼が急上昇しながら術式を展開させると、何十もの高熱の火球が後方に出現し、それらがバシュバシュと音を立てながら後方…つまり真下へと落下していく。
これは、彼が作り出した近接防御用のフレア術式である。
追尾術式は相手の魔力を追尾するのに含めて、相手の熱源を追尾する系統の術式もある。
このフレア術式があれば、そう言った熱源探知術式を撹乱する事ができるのだ。
さらにもう一つ利点もある。
火球が下の落とし子に降りかかった瞬間、火球は次々と爆発して落とし子の肉体を焼き尽くす。
そして、それは額の魔術師の生首も例外ではなかった。
『ぎゃああああ!!』
火球をモロに食らい、焼き尽くされる彼の顔面。制御装置を失った今の彼は落とし子の身体制御もやっとであり、自分自身の顔に魔術防御を行うことができなかったのである。その激痛にただでさえ難しい落とし子の制御が上手く行かず、たちまちの内に失速し、下へと落下していく。
その隙を見計らって、さらに反転して急下降を行ったリュフトヒェンは、竜語魔術によって作り出された傍に漂う十数個の雷球から、雷撃を次々と射出させ落とし子の肉体を焼き払っていく。
『がああああああ!!』
いかに強い再生能力があろうと、その苦痛まではどうしようもない。
次々と襲い掛かる雷撃に全身を焼き尽くされながらも、落とし子の額の魔術師は苦痛を上げる。
そして、リュフトヒェンは自らの口を開けると、魔力を充電させて、自らの雷撃の吐息、ドラゴンブレスを発射する体勢に入る。
―――発射。
いかにまだ若いドラゴンのブレスとは言え、その威力は落とし子の肉体を完全粉砕するのは十分である。150万kWにも匹敵する高威力の雷撃は、大気中をプラズマ化しながら突き進み、あらゆる存在を粉砕し、焼き尽くす。
だが、迫りくる滅びを間近に、魔術師は高笑いを響かせた。
『くくく……。確かに私の敗北だ。認めよう。だが!すでにデータは転送した!
そして何より!空帝ティフォーネはもはや大辺境には存在しない!
もはや帝国に対しての脅威はない!帝国は総力を上げて貴様らを倒しにくるだろう!帝国―――万歳!!!』
その言葉を最後に、彼は消滅した。
・追記、ご意見をいただいたので、多少内容を変更しました。
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