第32話 襲撃
ティフォーネの庇護を受け、今まで安全を保って繁栄を誇っていたドワーフの居住地。その根拠地は初めて大混乱を起こしていた。
万が一に備えて上空からの魔術爆撃に備えて地下深く建築された堅牢な防空壕。
それこそ現代世界のバンカーバスターでも持ってこなければ、突破できないほどの頑丈で深く掘られた安全な地下施設。例えエンシェント級であろうともそう簡単には突破できないであろうその安全な施設から、ドワーフたちは次々と逃げ出していた。
「退避ー!!退避しろー!!逃げろー!!」
「地下に逃げるな!地下に封印してあるアレが呼応して目覚めて暴れだしている!!逃げろ!散らばって逃げろ!!」
「クソッ!竜の攻撃に対抗するための防空壕が裏目に出るとは……!
エキドナの落とし子だと!?どこから沸いて出た!!」
逃げ出すドワーフたちが忌々しげに睨みつけるのは、地下施設の上空を旋回する、まるでドラゴンのゾンビのような忌まわしい腐敗したような粘着質の肉体を持った異質な竜。
混沌竜、エキドナの落とし子。
だが、その落とし子には通常と異なる点が存在していた。
それは、額に存在する人間の男の生首。そして、首の横に存在する複数の竜人の生首である。その額の男の生首と落とし子は、まるでシンクロしているかのように、高らかに笑いながらドワーフたちに向けて言葉を放つ。
『ははははは!!よく聞け!愚かなる亜人ども!今の私は落とし子の力すら制御できる、つまり、竜をも制御可能な優れた存在になったのだ!!貴様らがそこに隠した物も明らかにしてみせろ!!』
その落とし子の額から生えた生首の男の叫びに呼応して、ドワーフの居住地の地下深くに眠っていた”何か”が呼応する。
空から見てもドワーフの居住地から煙が上がって何かが暴れまわっているのか、次々と地下の居住地から地上に脱出してくるドワーフたちが目に入る。
そして、地下施設があるはずの地面が盛り上がると、地面を吹き飛ばしながらその”何か”が姿を現す。
それは、上空を旋回しているのと同じエキドナの落とし子。まだ再生しつつある竜は、ドワーフの居住地を地下から破壊した後で天に向かって咆哮を上げる。
それを忌々しげに見ながら、逃げているドワーフたちは叫びだす。
「クソッ……!!何で死んでるはずの落とし子が蘇るんだよ!!
いや、そもそもあんなのを掘り当てるなんて、何て俺たちはついてないんだ!!」
そう、安全であったはずのドワーフの居住地。
だがそこには例外が存在した。豊かな鉱脈を誇る大辺境の地下、さらなる地下鉱脈を見つけるためにひたすら深く掘り進めていた彼らは、掘り当ててはいけない物を発掘してしまったのだ。
それは、今上を飛んでいるのと同じく、エキドナの落とし子であったのだ。
ほとんど骨と化しているが、それでもなおまだ”生きている”落とし子に恐れをなした彼らは、魔術結界で半分骨と化した落とし子を封印していたのだ。
だが、上空から帝国から飛来してきた落とし子が来た瞬間、ほとんど骨だった落とし子も復活を開始。
肉体を再生させながら、居住地内で大暴れを開始したのだ。
バンカーバスターすら耐えうる地下防空壕でも、それがさらなる地下からの大暴れする存在に対してはなすすべがなかった。
こうして、さらなる落とし子は復活して、ドワーフの居住地を内部から破壊していったのである。
『ははははは!!威力偵察の予定がこちらの戦力が増えるとは!何とも運がいい!
さあ、新たなる落とし子よ!私の言うことを聞くがいい!!』
その額の男の生首の叫びと共に、首の周囲に埋め込まれている竜人たちの首も一斉に悲鳴やら絶叫やら苦痛の声を上げる。
「ああ!ああ!ああ!!」
「やめて!これ以上私たちを苦しめないで!!」
「’&’$%$”$&)=)~=|」
その苦痛は、彼ら彼女らを魔術のブースター、”制御装置”として使用している苦痛である。その叫びに呼応するように、地下から湧き出した落とし子は、額の男の生首の意思に従って、毒気をまき散らしながら上空へと浮かび上がって、男の首がついた落とし子の横に並びながら飛翔する。
男は落とし子同士の共感魔術を使用し、復活したばかりの落とし子を自分自身の制御下に置く事に成功したのである。
『ふむふむ。なるほど。実際上手くいくかは不明だったが、共感魔術やら何やらを利用して何とかそちらの落とし子も制御できたようだな。落とし子を二体も制御下にできるとは幸運の極み!
本来ならここで引くべきだろうが威力偵察と試験運用の続行といこうか!!』
地上で逃げ回るドワーフたちに毒気をばらまきながら、落とし子の額の生首の男は高笑いをし、さらに大辺境の侵攻を決意した。
そして、それを黙って見ていられるほど竜族は温厚では決してなかった。
自分たちの領域の空が穢れたと知ったリュフトヒェンやアーテルは、空を飛んでドワーフの居住地に急行しつつあった。
『竜の領地に空からカチコミかけてくるとはのぅ……!!中々いい度胸ではないか、気に入った。褒美に塵も残さず消し飛ばしてくれるわ!!』
そのアーテルの怒りはリュフトヒェンにも理解できる。
空は竜が支配すべき領域。これは竜族の魂に深く刻まれており、ほぼ全ての竜が共通して持つ意識である。
そして、その領域を他種族が土足で入り込むのを彼らは非常に嫌う。
特に自分たちの領土の上空を侵犯したときの怒りは凄まじいものがある。
人間も魔術を使って空を飛んだり、箒を使って空を飛ぶ魔女戦術部隊などはあるが、空を飛んだまま竜の領域に入るなど、竜の怒りを完全に買う行為である。
そのままブレスで消し飛ばされても何も文句は言えないほどだ。
その彼女たちの領分を土足で踏みにじられたことにより、怒りに燃えた二体の竜が超音速(アーテルもリュフトヒェンの飛行術式を教えてもらった)でドワーフの居住地へと飛翔した。
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