第31話 古土法とドワーフの居住地
「……うーん。上手くいかないなぁ。」
リュフトヒェンはとある竜語魔術の開発を行っていたが、全く上手くいかなくて失敗続きの連続である。
その魔術とは、雷が大気中の窒素を固定化させたと聞いた所から思いついた「大気から直接窒素を取り出して固定化できないか?」という魔術である。
つまり、ハーバーボッシュ法を行わずに、直接そのまま窒素を魔術で取り出すことができないか、という実験である。
世界を変えたハーバーボッシュ法。それの実現には高い気圧などに耐えられる極めて強靭な容器などが必要になる。今のこの世界の化学レベルでは到底そこまで至れない。
ならば、科学的ではなく、魔術を使って大気中から直接窒素を取り出すことができれば、ハーバーボッシュ法を使わなくても、事実上いくらでも火薬も肥料も作り出せる事になる。
「水と石炭と空気からパンを作る方法」が実際に魔術で運用できれば、それは国作りの大きな力になるはずであった。
だが、いかに竜語魔術といえど、その魔術の行使には術者の認知、つまりリュフトヒェンの認知力が必要となる。
大気中に浮かぶ目に見えない窒素分子を集積・圧縮して窒素の塊を作り出すというのは、さすがの彼も無理だったのである。
一応にも話は聞いてみたが「……チッソって何ですか?空気中に内包されている成分?空気は空気なのでは?」というそれはそうだろ、という答えが返ってきた。
「そうだ。せっかく村を広げて掘り返した土が大量にあるんだから、ここから硝石を作っておこう。」
早速彼はセレスティーナに指示して硝石作りの指示を出す。
掘り出した土をお湯と炭酸カリウムを持つ草木の灰を入れて、それを煮詰めて結晶を作り、これを再度結晶化させれば精製された硝石ができる。
すなわち、古土法と呼ばれるやり方である。
これには水が降らない、硝酸カリウムが含まれた土が必要になるが、幸い村を広げるために掘り起こした大量の土がここには存在する。
雨が降って硝酸カリウムが解ける前に、先んじて古土法で硝石を採取する必要があったのである。
この硝石に硫黄、木炭を加えれば、火縄銃などで使用できる黒色火薬の出来上がりである。だが、肝心の火縄銃が存在しないため、手に入れるために後で辺境伯か商人に対して相談を行わなければならない。
「それだけじゃなくて、魔力レーダー術式も開発しないと……。
遠距離から相手を探知して攻撃できれば格段に優位に立てるし。」
他にも彼は、遠距離の敵を探知するための魔力レーダー術式も開発している。
空間に対して広範囲の魔力波を放出し、その魔力波の反響によって敵を探知するというある意味シンプルな術式である。
戦闘機はファーストルック・ファーストキルの世界
これと追尾術式を組み合わせれば、遠距離から敵を攻撃できるはず……ではあるが、視認せずに魔力波の反響のみで狙いを定めると、命中精度が落ちてしまうであろう点が難点である。
流石に、現代のミサイルのように簡単にはいかないか、と、そんな試行錯誤している彼の元に一人のドワーフがやってくる。
彼はセレスティーナと一緒にやってきた初期の村人の一人である。
元々、様々な財宝を作り出すドワーフたちとそれを強奪しようと襲い掛かる竜族とは天敵同士であり、今までも両種族は激しい戦いを繰り広げていた。
その経緯から考えると、竜が治める村にドワーフがいることは例外的な事だと言っても過言ではない。だが、例外はどこにでも存在する。それはリュフトヒェンの村近くに存在するドワーフの居住地である。
彼らはティフォーネの縄張り内部での居住が自然と認められており、ドワーフでありながら竜族の庇護に入り、その代わりにティフォーネに捧げものを捧げていたのである。今回、その居住地に赴いてこちらの戦力になってほしい、と懇願したのだが、交渉はうまくいかなかったようである。
『お、お帰り~。どうだった?ドワーフの里との会談は。』
「ダメダメ。全然ダメだ。あいつらこちらを「ドワーフの誇りを売り渡したドワーフの面汚しが!」の一点張りで話を聞こうともせん。
おまけに「空帝がいなくなったのなら、もう財宝を献上する理由もない。」という事で毎年の財宝献上もやめにする事じゃ。ワシもドワーフじゃがドワーフの頭の固さというのは厄介じゃな。そもそも空帝の庇護下で尻尾降っていたのは奴らだろうに。」
元々、ティフォーネの縄張り内でもドワーフの居住地は存在していた。
通常、竜は財宝がたんまり眠っているドワーフの居住地を真っ先に襲うのが習性だが、ティフォーネはあまり興味がなかったのか、ドワーフたちを放置し、ドワーフたちは襲われるの恐れて財宝を彼女に捧げる事が通例化していた。
実際この選択は賢い選択肢だったといえるだろう。
これによって、ドワーフたちは他の竜から襲われる事もなくなり、実質ティフォーネの庇護下に入ったといえるのだから。
だが、それに対して、人間形態で黒いフリルの多めのついた服(要はゴスロリに似た服)を身に纏ったアーテルは彼らに対して大声で吠え立てる。
「見ろ!露骨にお主を舐め腐っておるではないか!こういうときには一撃かましてドワーフたちにキャン言わして我ら竜族の偉大さを知らしめてやらなくてはならん!!」
あっ、ドワーフくんが凄い目つきでこちらを睨んできたのでやめろ下さい。
ただでさえ少ないドワーフがいなくなったらこちらが本格的に困る事になってしまう、と慌てた彼は慌ててアーテルを宥めに入る。
『はいやめ!やめやめ!そういうの禁止!うちらはそういう蛮族経営をやるつもりはありません!!』
「しかし何で今までそのドワーフの居住地を襲わなかったんじゃ?財宝を奪い取るのは竜ならば誰もがやっていることであろう?」
あっ、村人のドワーフがさらに凄い目つきでこっちを睨んでいる。
そういう所だぞ竜族!と思わず突っ込みたくなったが、そこはぐっと我慢する。
『そりゃ…彼らを保護して守ってあげていたからですよ。守られている代わりにママンに対して宝物を捧げる一種の共生関係ですね。いちいち襲うよりもそっちの方が効率的でしょ?』
そのリュフトヒェンの言葉に、何故か妙にアーテルは驚いた表情を見せる。
『な、何っ……!?ドワーフを保護して代わりに捧げ物として財宝を捧げさせるだと……!!この発想はなかったわ……!あのクソ女中々やるではないか……!!」
アーテルはやたらめったら関心しているが、そういう発想が思い浮かばない通常の竜は蛮族思考といわれても仕方あるまい。
「しかしまぁどうするんじゃ?どちらにせよ、貴様が侮られている事には変わりない。ドワーフの奴らに何らかの力を見せつける必要があるのではないか?」
『うーん…。彼らの力を借りたい…というか上手くこちらに取り込みたいのに力づくとか逆効果でしょ。まあとりあえず様子見を……。』
そんな風に話していると、ドワーフの居住地から煙や激しい魔力の気配が伝わってくる。何者かが居住地を襲撃を行っているに違いない。
『何か煙が上がってる!?襲撃か!?とりあえず見にいかないと!!』
「あ、こら待て!!まったく仕方ないのぅ!!」
リュフトヒェンはすぐに空に飛び立って急行し、アーテルも竜の姿に戻って彼に続いて飛翔する事になった。
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