第28話 格闘戦指導と地脈操作
『―――フン!!』
竜形態のアーテルの横凪の爪の一撃を、リュフトヒェンは慌てて何とか回避する。
『うわぉ!!』
空戦こそ慣れているが、実際に地に足をついた戦いには慣れていない彼は、たたらを踏んで耐えようとする。
しかし、竜の体による格闘戦に慣れていないリュフトヒェンは、そのまま耐え切れずに地面にドウ、と倒れこんでしまう。
その無様な彼の姿を見て、アーテルははぁ~と深いため息をついた。
『はぁ~……。全く空戦では妾に勝てるほどなのに、地上の近接戦闘はダメじゃのう。ダメダメじゃのう。そんな事ではこれから戦争になるのに生き残れはせんぞ?』
『あの……。竜が地に足をついて戦う必要とかある?いざとなれば空中に飛んで逃げればいいだけなのでは?』
『そういって油断している奴らこそ真っ先にくたばっていくんじゃぞ?空を飛べない状況で人間どもと闘わなくてはならない状況なんぞいくらでもある。
例えば住処である洞窟で眠っている時に人間どもに襲われた時なぞじゃな。
洞窟内部では空も飛べない、自分の洞窟の中では安易にブレスも吐けない。
そういう時に頼りになるのは己の肉体のみじゃ!!
牙も、爪も、尻尾も体中全て武器として相手を叩き潰す!
これこそがドラゴンの格闘術じゃ!!さあ、もう一本……いや二本いくぞ!!』
ひぃん、と思わず言いたくなったが、戦争が起きるかもしれない状況でそんな事は言って居られない。この後もリュフトヒェンはアーテルにしばき倒される事になった。
「ご主人様……。大丈夫ですか?」
『まあ、何とか……。それより、そっちはどう。」
彼女は新入りの20人ほどの竜人たちがこの村になじめるように努力している。
また村の防衛力を高めるために、購入した長槍や大盾を使用した軍事訓練などを行っているが、中々うまく行っていないようである。
元々魔術師であり、軍人でもない彼女が慣れない軍事練習を行うなどやはり無理があると言わざるを得ない。
「うう、私も疲れました……。ご主人様。癒しを下さい……。」
『了解。ちょっと待ってね。』
その言葉と共に、彼は竜語魔術の小型化の魔術で、しゅるしゅると小さくなっていき、1mほどの大きさに変化する。
そして、小型化したリュフトヒェンを、セレスティーナは抱き枕のように抱えながら、自分の胸でホールドする。
抱き枕と同じ要領で、人間は誰かとハグすると精神的に楽になりリラックスできる。それは竜人であろうとも変わりがない。
しかも、竜血を受けている彼女はリュフトヒェンと近寄ると共鳴しあい、能力が高まるらしい。
しかも、リュフトヒェンの方も彼女の胸に挟まれて癒されるというお互いに利益のある完全無欠の構えである。
『ところで……。辺境伯の言っていたセリフ、信用できると思う?
いや、我は信用できると思うけど、一応ね。』
リュフトヒェンを抱きかかえながら、彼のお腹や喉を撫でたりしながらもセレスティーナはそれに対して答えだす。
「私は信用できると思います。戦争が起こる可能性が高い現状で、兵站を支える食料は戦略物資と言えます。代価を払っているとはいえ、その戦略物資をこちらにこれだけ大量に渡すというのは、それなりに信頼されているという事です。
しかも、この提案が上手くいけば彼女は後ろから竜に襲われる心配なく、前の帝国と戦う事に集中できます。ここで裏切れば、彼女は前と後ろから挟み撃ちされてしまう形になるため、裏切るメリットが全くありません。」
『だろうね。じゃあ、我らのやるべきことは?』
「まあ、村人たちが兵士として前線に立っても全く役に立ちません。
まずはここ大辺境の開拓作業を進めて地盤を固めるべきでしょう。
まだまだ村を襲うゴブリンやオークの住処などはありますから、そこを叩き、畑を広げ、村を広げ、力を蓄えるべき時だと思います。」
そのセレスティーナの言葉に対して、リュフトヒェンは頷いて言葉を返す。
『了解。で、他には何かある?』
「後は……。流石にそんなにすぐ農作物は取れないのですが、植えた種に時間加速の魔術をかけてみた結果、芽などが出て順調に育っています。育てている人曰く、極めて順調でもし収穫できる時が来たら豊作になりそうとの事です。何でも豊かな地脈と栄養分、そしてご主人様の雷を鳴らした影響ではないか、とのことです。」
そう言えば「雷の多い年は豊作になる」と聞いたことがある。あれは迷信ではなく、事実であるらしい。
放電により、大気中の窒素が固定化されて地上に落ち、それが水に溶け込む事によって栄養分が農作物に溶け込んで栄養分となるらしい。
(種にも雷撃を行えばさらに豊作になれる実験結果もあるとのことだが、そこまで繊細な雷撃を使用するのは流石に面倒くさい)
あれだけバリバリ雷撃を使いまくったら、大気中の窒素が大地に降り注いでもおかしくはあるまい。
『つまり……。村の上空で毎日雷撃を放ちまくれば豊作になる……ってコト!?』
これから毎日村の上空で雷撃を放とうぜ、と言うとリュフトヒェンに対して、人間体になったアーテルがそれに対して、呆れた表情で待ったをかける。
「大気の変化に連動して、地脈が変なふうになる可能性があるからやめておけ。
それよりお主、しっかりとこの地の地脈管理をしているのだろうな?」
『ママンから徹底的に仕込まれたから、それはまぁ。
しかし、何でこの大辺境は地脈の力がめっちゃ豊富なんだろうか。
ここから大量に溢れた地脈の力を各地に正しく配分するのが我々の役目って言ってたけど、何で風竜なのに地竜みたいな事せにゃならんのか……。」
リュフトヒェンは、ティフォーネがいる時から地脈操作の技術は徹底的に仕込まれていた。ここ大辺境から溢れる地脈を正確に各地へと分配する。何故かは教えられていなかったが、少なくとも、この大辺境がここ近辺の地脈の要である事だけは理解できた。それを聞いて、アーテルは額に手を当ててはあ、とため息をつく。
「はぁ……。何も知らぬのだな。人間どもが大辺境と呼ぶこの地は、この星の心臓……とは言わぬまでも、人間どもでいう臍部分、星の臍とも言える重要な土地なのだぞ?わざわざそなたの母であるエンシェントドラゴンロード……空帝が治め、守護していたのも、地脈を維持し、この星、この大陸を維持するためだ。ここの地脈が大きく狂えば、この星全体に悪影響を及ぼす可能性が高いのだぞ?全く……空帝もそれぐらいわが子に教えておけというのだ。」
(マ、ママーン!!我そんな事全然知らんかったやでぇえええ!!)
思わず内心で彼は絶叫してしまう。地脈を制御するのは重要な仕事だとは知っていたが、まさかそれほど重要な仕事だとは思っていなかったからだ。
そんな重要な仕事をポンと息子に投げ渡してさっさとどこかに行ったママンェ……となってしまうが、いない人物にあれこれ言っても仕方ない。
そこで、ふと気になった事についてリュフトヒェンは言葉を出してみる。
『我、ふと思ったんだけど、クラウ・ソラスが地脈の力を蓄えているのなら、地脈の力をそこだけ断ち切ってやればいいんじゃない?多分できると思うけど。』
「帝国が草木が生えない不毛の地になるのを許容するのなら別にいいが……。
妾よー知らんけど、帝国の農業とやらが壊滅的になるのではないか?
そうなるとあやつら暴走するのではないか?いくら地脈制御が出来てもそこまで繊細な操作はできんじゃろう?」
『Oh……。』
確かにその通りだ。ある程度は地脈の流れは遮断することはできるが、地脈の流れは人間と血管を同じぐらい重要であり、そこの流れる支流の一本だけ断ち切るという精密な操作は流石に無理であり、周囲に多大な被害を及ぼす可能性が高い。彼は大人しく諦めることにした。
そして、そんな会話をしている間に、セレスティーナの腕の中からアーテルは無理矢理リュフトヒェンを奪い取り、今度は自分の胸の中にリュフトヒェンを埋もれさせる。セレスティーナよりさらに巨大な爆乳と言ってもいい彼女の胸に、リュフトヒェンは完全に埋もれてしまう。
「しかし……。貴様は竜の分際でこんな人間の女の胸のどこがいいんじゃ。今のうちから妾が矯正せんといかんな。まずは散々触れさせて飽きさせてやろう。ほれほれ。さっさとこんな胸に飽きて竜の方がいいと言うがいい。」
『むぎゅむぎゅ。(そもそも性癖を矯正するって大分無理があると我思うんじゃが!!)』
『むぎゅ。(と、ともあれ、今まで捕えて食べてきた動物の骨があるでしょ?
それを焼いて粉にしたのと、草木を焼いて灰にしたものを混ぜて作物に与えてみよう。そうすれば動物と植物の生命力が農作物に宿ってうまく育つはずだ。)』
むろん、生命力云々は出まかせである。
動物の骨を茹でて砕いた肉骨粉は、リン酸カルシウムの動物性有機肥料として農作物の肥料として非常に適している。
しかも、今まで食料として肉にしてきた野生動物の骨が大量にここには存在している。これを利用しない手はない。
さらに植物性有機肥料である植物の灰を入れてバランスを良くして作物に与える。
こうすれば作物の育ちはよくなるはずである。
「……。はぁい。」
珍しく、頬を含まらせて不機嫌そうにセレスティーナは答えた。
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