第27話 辺境伯との協力体制構築
『……つまり、辺境伯領主がわざわざここまで出向いたって事?』
そのリュフトヒェンの言葉に、緩やかなウェーブを描いた腰まであるロングヘアーに顔の両部分を三つ編みにして垂らしている彼女、辺境伯領主であるルクレティアは頷く。豪奢なドレスではなく、動きやすい服にスカートを身に纏っている彼女は、他の貴族たちのように王宮や屋敷で引きこもっているだけ、という人物ではなさそうである。
「はい~。わたくしも竜様とお話をしたく思いまして~。ここまで参りました~。
帝国辺境伯領主、ルクレツィアと申します~。以後お見知りおきを~。」
そう言いながら、彼女はスカートの裾を摘まみながら優雅に一礼する。
角などを見た所、かなり竜としての血は薄いが、それでも初めて竜の威容を間近で見ながら全く怯えた所を見せず、堂々と渡り合うとは、流石は辺境伯を任せられる貴族なだけはある。
『うーむ、わざわざ辺境伯領主が直々にここまで来るとは……。いや、ありがたいけど。しかし、話には聞いていたけど、今の帝国で竜人でありながら貴族とはめっちゃ苦労してるんじゃないの?』
そのリュフトヒェンの言葉に、ルクレツィアは優美な眉を潜めて、リュフトヒェンを見上げながら言葉を放つ。
「はい~。お聞きかもしれませんが、竜人の私たちが辺境伯領主を任されたと言いますと~。『お前たちも竜も親戚みたいな物なんだから、空帝が襲い掛かってきたら死に物狂いで説得して帝国を守護しろ』とかクソみてぇな理由でして~。
そんなに怖いなら空帝のケツでも舐めればいいのに、本当に帝国の上層部の人類至上主義者どもはドクソ腐れ野郎どもでして~。」
そう言いながら、彼女はぺっと地面に向けて唾を吐く。
どうやら、見た目や言動とは異なり、かなりいい性格をしているらしい。
到底貴族とは思えないその言動に、40代の商人らしき男は流石に止めに入る。
「お、お嬢。仮にも貴族なんだからそういう真似は……。評判落ちるぞ。」
「やかましいのでして~。愚痴ぐらい好きに言わせやがれですわ~。
ごほん、ともかく、私がここに来た理由は、リュフトヒェン様のご意向を直接聞くためでして~。まあ、簡単に言いますと~『帝国から独立するので、竜様のお力を借りたい』という事でして~。」
そのルクレツィアの言葉に、周囲の皆が一斉にざわめき出す。
つまりそれは、辺境伯が帝国に対して明白に叛意を示したという事だ。
ここまで堂々と叛意を示すとは予想外であったが、やはり相当にストレスは溜まっているらしい。
帝国が辺境伯に対して嫌がらせを行っているのは事実であり、近日に武力侵攻で彼女の領土を侵攻するか、爵位を帝国に返却するかという噂はかなり広まっていた。
それに対して、ルクレツィアも対抗して戦いの準備を進めており、もはや一触即発の自体は免れない状況だったのである。
戦争を間近にしても、大量の食糧や武器をここに運び込んだ所を見ると、やはり彼女も竜の力を取り込みたい、こちらの戦力にしたいと企んでいるのは明白である。
「私の守るべきは私の領地と私の民です~。帝都の安全地帯でスカートの中に隠れて震えてるカマ貴族野郎どもなんて守る筋合いはないですね~。
おまけに亜人たちが大量に逃げ込んできたのが気に入らないらしくてあれやこれやと山のように文句を言ってくる始末……。もう帝国に対する忠誠心も品切れですわ~。」
そして、それに対するリュフトヒェンの答えは一言だった。
『了承!!』
何の躊躇いもなく一瞬で力を貸す事を了承したリュフトヒェンに対して慌てたのはセレスティーナである。
「即決!?いや、ご主人様。確かに辺境伯様のお力をお借りしたほうがいいとは言いましたが、もう少し検討しても……。」
彼女はあわあわと両手を振りながら、リュフトヒェンに対してもっと落ち着いて判断すべき、と提案しようとする。
確かに、辺境伯の力を借りた方がいいと言ったのは彼女だが、ここまで即決するとは夢にも思っていなかったのである。
『だってこっちにメリットしかないじゃん。食料も輸入できる。武器や何やらも手に入る。戦力も手に入る。人間社会との窓口はできる。いいこと尽くめじゃん。』
「それはまぁそうですが……。」
そんなセレスティーナとリュフトヒェンの言葉を聞きながら、ルクレツィアは彼らに対して言葉を放つ。
「あの~。差し支えなければそちらの竜様の目的を教えていただきたいのですが~。」
確かにその通りだ。こちらの目的が分からなければ協力体制など築けるはずもない。リュフトヒェンは特に隠す事もなく、こちらの目的やら何やらをきちんと説明する。それを聞いて、彼女は頷きながら答える。
「なるほど~。生き残るために国家を作りたいと~。分かりました。こちらは今の領土さえ確約していただければ、そちらを王と認め、従う事には異論はありません~。これでいかがでしょうか~?」
『了承!!』
何の躊躇いもなく、リュフトヒェンはルクレツィアに対して本日二度目の即決を行った。それに対して、セレスティーナはまたしても驚きながらルクレツィアに対して問いかける。
「本日二度目の即決!?いやあの……。辺境伯様はご主人様の下につくことは受け入れられるのですか?辺境伯様なら独立した国家を持つ事もできると思うのですが……。」
確かにセレスティーナの疑問は当然である。ルクレツィアの力ならば、独立した国家を築き上げて、帝国と渡り合う事は十分に可能なはずである。
(実際にそれに近い事をしようとしている)
それなのに、何故わざわざリュフトヒェンの下につこうとしているのが理解できない。それなら誰かを上に置くよりも自分が上に立って思い通りにした方がいいに決まっている。
それに対して彼女の返答は至極簡単だった。
「だって~。王になんかなっても面倒臭い事ばかりですから~。わたくしは今の地位で満足しておりますし~。面倒臭い事は他人に押し付けるに限りますわ~。」
確かにそれはそうである。彼女からすればこれ以上の権力を求めて面倒くさい事になるより、今の立場を守る方が優先順位が高いのだろう。
『ちなみに……。そちらの人々は纏め上げてあるのかな?独立しようとしたら内乱に陥ったとか洒落にならないんだけど。』
「先ほども言いましたが~我々の領土では帝国本土から迫害を受けて逃げ出してきた亜人や混血の方たちも多く~彼らを保護しているのもあるため、私の意見に賛同していただける方がほとんどかと~。」
『よし、分かった。こちら直通回線になる我の鱗をそちらに預けよう。ぜひよろしくお願いしたい。』
「こちらこそですわ~。成果のある会談になって嬉しいですわね~。」
そう言って、ルクレツィアはにっこりとほほ笑んだ。これで、彼らの会合は一旦終了となったのである。
……会談が成功して、馬車でこの村から離れていく中、ルクレツィアは同席している商人に対して話しかける。
リュフトヒェンからは彼女に対して信頼の証として、直通通信が行える自分の鱗と、高価すぎて売りさばくのが難しいと思われる高価な装飾品やら王冠やら宝剣を押し付け……もとい、友好の証として快く進呈した。
元々はエンシェントドラゴンロードであるティフォーネの財宝の一部である。
それがどれほど高価であるかは言うまでもない。
下手をすれば国が買えるほどの財宝もある可能性もあるが……悲しいかな、そんな金をポンと簡単に出せるほどの人間はそうそういないのである。
「ともあれ~。今回の会談は実に有意義でした~。竜と交友を深められたのもそうですが~彼らの弱点を掴められたのも大きかったですね~。」
「お嬢、それは?」
商人が疑問符を浮かべる中、ルクレツィアは丁寧に説明を行う。
「それは~食料ですわ~。竜たちは戦術兵器とも言えるほど強大な力を振るう事ができますが~それと代償に大量の食糧が必要になります~。
今までは彼らは空を飛んで広い縄張りで獲物を狩って暮らしていましたが~村を作るとなれば自分だけでなく、村人たちを養わせなければなりません~。
そして、開拓したばかりの畑でそんな簡単に農作物が取れるほど甘くはありません~。つまり~。食料はわたくしたちが首根っこ抑えられるという事ですわ~。」
確かに、現状のリュフトヒェンたちには食料を自給できないという大きな問題が立ち塞がっている。今までは野生の獣などを狩ったりしてまかっていたが、村の人数が多くなればそれも難しくなってくる。
そうなれば、外部から食料を輸入するしか方法はない。
それならば、戦力では劣る彼女たちも竜を制御できる、というのが彼女の考えである。
「で、お嬢は本気であの竜たちの下につくのかい?」
「本気も本気、全ブッパですわ~。このままあのクソ帝国についていても何の旨味もありませんし、何の恩義もありません~。竜人や亜人たちをこれ以上追い詰めて暴発させるよりも~。こちらで纏め上げて戦力にして~戦った方が勝機が増しますわ~。」
それに竜がこちらの戦力になってくれるのは極めて大きい。
彼らの力は戦術兵器、いや、戦略兵器にも匹敵するほどの力を誇る。
その力を借りれば戦況を覆す事は十分に可能である。それを期待して、彼女は竜たちに大量の食糧を分け与えたのである。
・ルクレツィアのイメージは某メ〇ロブ〇イトに、ゲー〇ングお嬢様を突っ込んだ感じですね。なんか最近流行の某Vチューバーっぽくなったのは秘密。
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