第26話 キャラバンと食料輸入


 ガタガタ、と数十体の荷馬車が大量の荷物を載せて、大辺境外周部の村へと向かっていた。その周辺には護衛の傭兵たちや商人たち、それに便乗して一緒に旅をする一般人たちも交じっている。いわゆる、キャラバンである。

 だが、このキャラバンで異質だったのは、いわゆる竜人がかなり多い割合で存在しているという事である。


 今回、その村が大量の食糧を必要をしている&きちんとした代価を払うとの事でこうして大量の食糧を調達して辺境のさらに辺境へとやってきたのである。

 また、帝国内部では奇妙な噂も広まりつつあった。

 曰く「大辺境には竜が作り出した亜人を匿う隠れ里がある」「いやいや、それは亜人を食らう竜が作り出した罠の噂だ」などとさらに尾びれがついて好き勝手に広まりつつある。

 前人未踏の大辺境でそんな噂が上がっているのは、竜が宝石を近隣の村にばら蒔いただの、きちんとした代価を払うから食料を求めているだとという余田話が上がっているからだろう。


 しかし、大辺境近隣の村から大量の食料の依頼があったのは事実。

 しかも、村が通常必要とするより遥かに大量の食料、前払いとして宝石を見せられたら信じるしかない。

 そのため、村と繋がりのある商人が食料を買い集め、キャラバンを結成して村へと向かっているのだ。


 あまり舗装されていない道でがたごと、と揺れる荷馬車の中、40代ほどの中年の商人らしき男性と、竜の角と翼を持つ竜人の少女が話を行っていた。

 少女は質素な服に身を包んではいるが、その身のこなしを完全に隠すことはできない。見る人が見れば、彼女が貴族である事は理解できた。


「しかしお嬢。いくらなんでもわざわざアンタが出てくる必要があったのかい?

 そりゃまぁウチは金さえ払ってもらえれば何でもするけどよ……。竜相手にアンタの安全の保証はできないぜ?」


「構いません~。どうせこのままでは爵位が剥奪されるか領地に軍が侵攻されるかの二択なのでして~。あの帝都のドブくせぇクズ貴族どもに対抗するには、もう竜の力を取り込むしかありません~。これは私にとっても賭けでしてわ~。」


 のんびりとした穏やかな口調から飛び出してきた唐突な痛烈な罵倒に、思わず商人も顔をしかめるが、別段驚きはしない所を見ると、この二人が長年の付き合いである事が理解できた。彼女はさらに言葉を続ける。


「それに聞いた所~、その竜はしっかりと代価を払って会話もできます~。

 それだけの社交性と判断力があるのなら~現状も理解できるし、協力もできるでしょう~。これは分の悪い賭けではないと思います~。」


 そんなこんなしている内に、キャラバンは大辺境近くの村へと到着する。

 予め連絡が通達されていたのか、村長は恐縮しながら商人と竜人の女性を出迎えるを行うが、彼女はそれを、手をひらりと振って受け流す。


「ご機嫌よう。皆様方~、ああ、大層な出迎えは結構でして~。

 こんな田舎村にそんな期待してませんから~。」


 その言葉に村長の顔が思わず引きつるが、それにも構わず、キャラバンの荷馬車から次々と大量の荷物が下ろされる。

 次々と積み上げられるそれは、大量の小麦や大麦、ライムギなどと言った大量の穀物、つまり食料である。

 さらにそれだけでなく、盾や剣、槍と言った様々な武器も運び込まれているのが目に入る。現状、彼の周囲では鉄を採取・加工するための施設がない。

 ドワーフの居住地も縄張り内にはあるらしいが、ドワーフと竜は天敵と言っても過言ではない。そう簡単に力を貸してはくれないだろう。

 そうなれば、自分たちで作るよりも輸入した方が遥かに早いと思うのは当然である。


 現状、この村とリュフトヒェンの村を繋げる道は爆撃を行った後でゴーレムたちが木々やら何やらの残骸を撤去している作業中である。

 そのため、まだ荷馬車が直接リュフトヒェンの村へ入ることができないため、この村に一端食料などを運び、リュフトヒェンがそのまま空中輸送する予定だ。

 鱗を通して連絡を受けたリュフトヒェンは、アーテルや首に張り付いているセレスティーナと共に飛行して村へとやってくる。


 その二体の竜の威容に、キャラバンの人々や付き添ってきた兵士たち、竜人や亜人たちも一斉にざわめき出す。

 いかに竜の血を引く竜人と言っても間近で竜を見たことなどない。

 ましてや、人と交わってさらに血の薄くなった竜人は言わずもがな、である。

 彼らは角も翼も尻尾もさらに小型化しており、ほとんど人間と変わりがない。


 ともあれ、二体の竜は翼を羽ばたかせながら、村の近くへと軟着陸を行う。

 そして、リュフトヒェンの首からよいしょ、とセレスティーナが下りて村の人々と向き合う。


『うむ、ご苦労だった。約束の報酬を支払おう。これでいいだろう。』


 そう言いながら、リュフトヒェンは食料や武器の代価として宝石などを支払う。

 基本竜は力で奪い取ればいい、というのが種族としての常識であるため、物々交換といえど、貨幣経済を理解しているリュフトヒェンは竜としては異端児と言わざるを得ないだろう。


 そして、そんな大量の食料や武器などをセレスティーナは魔術で作り上げた空間を歪めた場所に次々と放り込んでいく。

 これならば、彼女一人いれば大量の物資を一気に移動する事ができるのだ。

 まだ道が完成していないこの状況では、この運搬力は非常にありがたいと言わざるを得ないだろう。

 そして、大量の食料を空間を歪めて作った倉庫に放り込んでいる中、一人の竜人の女性が彼らの前に進み出る。


 20歳ほどの竜人の女性で、腰まであるロングヘアーに編み込んだ三つ編み。

 私は人畜無害です、と言わんばかりのほんわかした雰囲気を持つその女性は、彼らに対して優雅に一礼した。


「初めまして~。竜様~。私~大辺境周辺から帝国を守護する役目を仰せつかっております辺境伯領主の、ルクレティア・バルシュミーデと申します~。以後お見知りおきを~。」

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