第24話 財宝ならある!(金があるとは言っていない)
『という訳で!食料が!足りません!!』
温泉から帰ってきた彼らを待ち受けていたのは、過酷な現実だった。
大食いの竜が全力で食事を取ったのだ。食料の備蓄を全てカラにして当然といえよう。竜は強力な戦力ではあるが、大食らいであり燃費と維持費(つまり食料)がかかる。これは領地を運営するとなれば覚えておいたほうがいい、とリュフトヒェンは身に染みてよく理解した。
『そりゃ竜が二体も全力で食べれば食糧の在庫も尽きるよね。(震え声)
まあ、まだ周囲の動物や魚を狩れば当面は凌げるけど……。』
それでも何とか生きていける自転車操業である。
もし獲物が少なくなったらたちまち飢えてしまう事は目に見えている。
そして、度重なる狩りで獲物が少なりつつあるのも事実。
ここは狩り以外にも食料調達の手段を見つけなくてはならない。
『とはいうものの、こんな狭い所に竜が二頭もいたらいずれ獲物が枯渇するのは目に見えているぞ?竜は大食い。そのために広い縄張りを持つ必要があるんじゃし。
妾の縄張りで狩りをする事も許可はするが……。遠くまで狩りをして戻ってくるのも大変じゃろう?』
そのアーテル(竜形態)の言葉はありがたいが、何せアーテルの領土までは距離がある。
そこまで行って狩りをして獲物を輸送して戻ってくる、となるとそれこそ空を飛行するドラゴンが最適な存在となってしまう。
村人のエルフを派遣するという手もあるが、しばらく戻ってこれなくなる、というのは村運営的の人手不足的にきつい。
『うーん……。あんまり期待できないけど、隣村に食料を分けてもらえないか相談してみるか……。竜が二頭満足できるほどの食料を持ってるとは思えないけど……。』
そう言いながら、リュフトヒェンは拠点地から飛びだって隣村へと向かう。
アーテルの紹介もかねて彼女と共に村へと向かうが、当然の事ながら、竜二頭で村にやってこられた村長のメンタルはたまったものではない。
「結論から申しますと、やはり無理ですね……。申し訳ありません。いえ、できる限り食料はかき集めますが、到底竜様の望む量は……。」
竜が二体も揃って村に飛来して対応する村長も汗まみれになりながら対応する。
しかも、傍らに控えるのが狂暴で知られるダークドラゴンとあっては、それを断ざるを得ない村長のメンタルも正直ギリギリである。
竜族の常識からしたら、なら焼き払う、と言われてもおかしくない所である。
だが、正直、全く期待していなかったリュフトヒェンは軽く流していく。
『ふむ……。それじゃこちらからの友好の印、という事でこれを差し上げよう。
これを金に換えて、そちらの食料の調達やら何やらを行うがいい。』
そう言いながら、リュフトヒェンは自分の財宝の一部(正確に言えばティフォーネが残してくれた財宝のさらに一部)である宝石を数個村長の前に置いてくる。
宝石鑑定などできない彼であるが、村の運用資金には十二分すぎるだろう。
だが、それに対して目を剥き出しにして驚いたのはアーテルである。
『き、貴様!?何をしているんじゃ!?』
そのリュフトヒェンの行動を見て、アーテルは目をひん剥きながら驚いた。
彼のやっている事は、竜の常識からしてみればかけ離れた行動だったからである。
『何って……財宝を分け与えているだけですが?』
『我ら竜にとって一番の大切な物である財宝を分け与えるとか貴様本当に竜族か?
代価として売り払うならまだしも理解できるが無償とは……!!』
竜にとって自分自身が貯めこんだ財宝を手放すなど論外。ましてや無償で渡すなどもっての外である。(例えごく一部であっても)
竜の常識から考えると、リュフトヒェンのやっている事は全く持って理解できるものではなかったのだ。
『いや、この村が人類社会との窓口ですし、その窓口がなくなると困るんですよ。
いわばこれは村を守るための投資。この村がなくなると美味しい物が食べられなくなりますよ?』
その瞬間、アーテルの態度は見事に変化することになった。
『よし!ならば仕方ないな!!無償ならば竜としてどうかと思うが投資として見るのなら大目に見てやろう!その代わり美味しい物を妾に食べさせるがいい!!』
掌ドリル大回転、どうも彼女は今まで生肉ぐらいしか食事を取った事がなかったので、人間が作る美味しい食事に心を捕らわれてしまったらしい。
それで彼女が人間という種族に対してある程度の敬意を抱いてくれたら大成功である。
もっとも、個人的にはずっと生肉ばかり食べてきた彼女には、こっそりと虫下し薬を飲ませておく必要がありそうだが、とリュフトヒェンは思う。
まあ、というか密かに手は打っている。
虫下し効果のある野草、ヨモギなどを採取して、ハーブとして食事に混ぜたり、お茶にしてアーテルに飲ませたりしているのである。
話はそれたが、ともあれそれで彼女が満足できるのならこれに越したことはない。
『はいはい。という訳で食料が必要だけど何とかならない?きちんと代価も支払うし、ドラゴン、ウソツカナーイ。』
「は、はぁ……。なら周囲の村に馬を飛ばして余っている食料を搔き集めますか。
代価を頂けるというのなら、向こうも嫌がりはしないでしょう。
できればこの村と同じ庇護を頂けるのなら、そちらも向こうも喜ぶと思うのですが……。」
『了解。でも無理はしないように。少ない食料を強奪しているとか悪評が広まるのは嫌だし。後、信頼できる商人とか知らない?商人が来たら代価は払うからこちらも買い物をしたいと言っておいて。流石に大辺境にまで馬車で入り込むのは無理だろうから、来たらこちらが直接注文するわ。』
「竜様の所にわざわざ行く気合の入った商人がいるとかどうかは分かりませんが……。分かりました。こちらに来た商人に話を広めておきます。
ちなみに、どういった物がお望みですか?」
『食料!!(断言)とにかく食料が足りないから備蓄が効く穀物やら何やら大量にほしい。無論代価は支払おう。財宝ならある!(金があるとは言っていない)』
まあ、それは元を辿ればティフォーネが残した彼女の財宝なのだが、リュフトヒェンのために置いていったので実質彼の財宝であるのは間違いない。
しかし、基本的に財宝をため込むだけの竜族において、その貯めた財宝を売り払って代価を仕入れるという概念をもった彼は竜族の中でも異端であるのは事実である。
今必要なのは財宝ではなく、生き残るための食糧。それも大量の、である。
それが手に入るのなら、財宝など多少減った所で痛くもかゆくもない。
そう、彼は竜としては異端児なのである。
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