第23話 おっぱいサンドイッチ


「待てーい!!」


 その時、温泉に可憐な女性の声が響き渡った。

 今の声は、竜の響き渡るような、他の存在を威圧するような声ではなく、れっきとした女性の声である。

 こんな前人未到の竜の支配地に人間などいるはずもない。

 驚いた彼らが振り返った瞬間、驚く事になった。


「妾の温泉で!エッチィのは許さんぞ!!そういうのはもっと大きくなってからするがいい!!」


 そこに存在していたのは、全裸で腰に手を当てながら仁王立ちしている縦ロールの黒髪と砲弾のように突き出した胸が印象的な鋭い目をした竜人だった。

 普通の竜人は人間社会に対応するため、背中の翼や尻尾は退化している事が多い。

 消え去って痕跡程度しか残っていない竜人も珍しくない。

 だが、その女性は自分を覆えるほどの大きな翼を堂々と伸ばし、太い尻尾も存在していた。それは混血の竜人ではありえないほど立派なものだった。

 そうなれば答えは一つしかない。


「うむ!妾じゃ!!妾の美しさを褒め称えるがいい!!」


 そう、それは人化の魔術で竜人化したアーテルだったのである。

 ふんす!と彼女が胸を張ると同時に、彼女の砲弾型の胸も、ばるん!と震える。

 アーテルさんや、流石に元が竜とは言え、全裸で堂々と仁王立ちはどうかと思いますよ……。

 黒髪で透き通るような白い肌をした美女が、両手を腰に当てて堂々と仁王立ちというのは、元がオタクであったリュフトヒェンに対してはいささか以上に刺激が強すぎた。

 しかもその胸。弾丸のように前に突き出された巨乳を見て、流石にリュフトヒェンの顔も赤くなってしまう。

 その反応を見て、にやり、とアーテルは邪悪な笑みを浮かべる。


「ふっふっふ……。やはりその反応、読めたぞ。

 同じ種族の竜には反応せず、人間に対してはこのような反応をする……。

 さては貴様、人間にしか反応しない変態じゃな!!

 全く、エンシェントドラゴンロードの直系がこんな変態とは……。

 実に嘆かわしい!!とりあえず、妾が性癖を矯正してやろう。性的に興奮しないようにする意味で!!」


 全裸のまま堂々とつかつかと此方に接近してくる女性体のアーテル。

 そして、それは小型化したリュフトヒェンをおっぱいホールドしたままのセレスティーナによって阻まれた。


「ダメです!ご主人様は私と温泉を楽しむんです!ましてや人間が好きというのなら性癖を治すなどもっての外!断固としてお断りします!」


「あぁ~ん?たかが混血の竜人ごときが、妾に逆らおうとはいい度胸じゃのぅ。

 ……ん?そなた竜血を受けているのか?だが、その程度では妾に敵うはずもなかろうよ。」


 セレスティーナとアーテルは、お互い息がかかりそうなほど近くで睨みあう。

 当然、それだけ近づけば胸と胸同士が密着しあうが、二人にそんな事を気にかけている余裕はない。そして、そうなれば、セレスティーナの胸に挟まれているリュフトヒェンも当然影響が及んだ。つまり簡単に言えば、おっぱいサンドイッチ状態である。ここで下手にジタバタ暴れたら角や爪で彼女たちが傷ついてしまう可能性がある。大人しくおっぱいに埋もれるしかないのだ。


『むぎゅむぎゅ(や、やめちくり~竜でも呼吸が必要なんですよ奥さん!!)』


 生きていてまさかおっぱいサンドイッチを味わうとか思わなかったわ……。

 できればこういうのは前世で味わいたかったなぁ……。と薄れゆく意識の中でリュフトヒェンは思った。

ともあれ、せっかくの温泉を目の前にして争っているのも埒が明かない、という事で二人は休戦状態になり、温泉に入ることになった。


「はいはい。ご主人様。目を閉じていてくださいね~。体中泡泡になりますからね~。痒い所はないですか~。」


『何か我、ペット扱いされてない?いやいいけど。』


そういいながら、セレスティーナは、石鹸を泡立ててリュフトヒェンの全身をスポンジもどきでこすっていく。

全身泡だらけになるリュフトヒェンだが、この感覚は非常に心地いい。

全身を石鹸で洗うなど、久しぶりの感覚だったからだ。

それを温泉に入りながらアーテルは物珍しそうに眺める。


「なにそれ?石鹸?ほーん。人間は変わった事するのぅ……。ふむ、匂い的には悪いものではなさそうだが……。後で妾にも貸すがいい。というかもらっていく。」


まあ、石鹸の一個や二個で竜の機嫌を損ねる訳にもいかないし、これで機嫌を良くしてくれれば儲けものである。


「ふう……♪いい湯加減ですね……。」


何だかんだで温泉に入れるようになったセレスティーナは、ゆったりとくつろぐ。

人間用に調整された露天風呂ではないのでどうかと思ったが、湯の温度も適切で精霊力が強めだが長時間入らなければ問題はない。

この精霊力の強さが、竜の肉体すら治療する大きな力になるのである。


『見て見て~。我、泳げるようになったぞ~』


 犬かきの応用ですいすいと温泉内を泳いでいくリュフトヒェン。

 温泉で泳ぐのはマナー違反と元が日本人の彼は魂に刻まれていたが、事実上の貸し切りならこれぐらいやってもいいんじゃない?やりたかったし、というのが彼の考えである。

 温泉を犬かきで泳いでいる彼を見て、セレスティーナは、思わずおうっふ、とか変な声を上げかけてしまったが、何とかこらえる。


 彼女からしてみれば、犬ぐらいの大きさのリュフトヒェンが必死に犬かきをして泳いでいるのは滅茶苦茶可愛らしさポイントに入ったらしい。

温泉につかりながら、うっとりとした顔つきで犬かきをしているリュフトヒェンを見る彼女であった。


「ご主人様……。可愛らしさポイント百億万点です……!」


『お、おう……。(困惑)まあ君が満足そうならいいけど……。』


(見た感じ、硫黄もミョウバンも採取できそうだし、ここに人を置いて採取させてくれればありがたいんだけど、今の状態じゃアーテルは絶対拒否しそうだし、とりあえず様子見かなぁ)


そんなこんなで彼らの温泉入浴は過ぎていったのだった。


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