第21話 帝国の歴史について。


 物はついで、という事でリュフトヒェンはセレスティーナに対して、帝国についての歴史を聞いてみる事にした。

 竜である彼は、人間社会についての歴史についてほとんど情報がない。

 国を作るためには、人間社会についての歴史を知らなくてはならない、という事は、日本で世界史や日本史を習ってきた彼にも理解できた。


「分かりました。では僭越ながら帝国についての歴史について私が知ってる事をお伝えします。まず、元々クラウ・ソラスは、人類守護のために与えられた神剣。エンシェントドラゴンロードが強大な力を使って人類に対して圧政を行わないための抑止力として与えられたと聞いています。」


 それを聞いて、リュフトヒェンは前の話を思い出す。確かにママンに対しては弾かれたとは言っても、ノーダメージとは言っていなかった。

 竜の中でも最高位に位置するティフォーネに対して、ある程度のダメージを与えられるのなら、充分抑止力となるだろう。

 ましてや、他の竜族ならなおさらである。


「……ですが、近年になって帝国はそのクラウ・ソラスを防衛ではなく、周辺国侵攻のための武力として使用。逆らう敵軍を神剣の力で焼き払い、次々と帝国を拡大していきました。それだけでなく、人類至上主義者の増長により、周辺国の亜人たちを弾圧。彼らを労働力として使い潰しています。」


 うーんこの。確かにそれだけ強大な力を手にすれば野心の強い人間なら、周囲の国々を打ち破って支配下に置こうとするのも当然。

 ここは、人類の悪意と野心を侮っていたと言わざるを得ないだろう。


『つまり……帝国はクラウソラスを使って次々と領土を拡大させていったという訳か。その過程で「我々人類は選ばれた種族である」と人類至上主義が蔓延っていったと。』


「はい、その通りです。そのため、純人間以外の亜人はかなり弾圧を受けていました。純人間に非ずんば人類に非ず。そのような雰囲気の中、亜人と人間の隔離政策などもかなり進んでいました。」


 そう考えると、竜人でありながら高位の魔術師になったセレスティーナは、滅茶苦茶苦労にしたに違いない。

 その白眼視を、彼女は自分の才能と努力で克服したが、それを目障りに思った魔術師たちが彼女を罠に陥れたのだろう。


「そんな中、それを見かねたのか、ついにここ大辺境から空帝ティフォーネ様が出撃。帝国もクラウ・ソラスでティフォーネ様を葬る気満々だったそうですが、ティフォーネ様はクラウ・ソラスの神光を弾き返しながら帝都へと接近。帝都を半壊させて、そのまま大辺境へと帰還されたと伝承にあります。恐らくは、彼女からすれば威嚇程度の攻撃だったと推測されています。」


 その推測は正しいのだろう。暴風神としての側面を持つ彼女が本気で怒れば、帝国全土を平気で火の海にするだろう事は目に見える。

 それですめばまだ良かったのだが、それで済まないのが人間である。


「ですが、これをきっかけに帝国はティフォーネ様に非常に強い恨みを抱く事になり、人類至上主義は衰える所かさらに激化しました。

 何としてもティフォーネ様を葬るための力を蓄え、亜人に対する弾圧はさらに力を増しています。我々には何としてもこの状況を打破しなければならないのです。」


 セレスティーナが与えてくれた情報を頭の中で纏めるリュフトヒェン。

 そして、それらを纏め上げた結果、一つの結論が出た。


『つまり……大体その神剣を与えた神様が悪いのでは?』


 確かに神剣さえなければ、亜人差別も弾圧も起きなかったろう。

 そのリュフトヒェンの言葉に、両手と翼を広げながらアーテルもそうだそうだ!と賛同する。


『そうじゃぞ!!(迫真)神が人間どもに神剣など与えなければ、妾たち竜族はもっと楽できたんじゃ!!』


 リュフトヒェンの言葉に、アーテルも体を反り返らせてそうだそうだ!と賛成してきた。確かに竜の立場から立てばそれは正しいのだろう。

 だが、彼はアーテルに向かってさらなる言葉を放った。


『でも無かったら、貴女たち気軽に人類に対して侵攻してましたよね?(名推理)』


『それはそうじゃろ。妾たち竜で人間の事なんて知った事じゃないし。』

しれっと答えるアーテルに対して、まあまあ、とセレスティーナは言葉を放つ。


「ま、まあ、纏めると、野心を使って神剣を悪用して領土を広げた帝国が悪いということで。」


「ごほん。ともあれ、現状では我々では帝国に対抗する力が足りません。

 そこで、帝国に所属している大辺境近くの辺境伯領主にこちらに力を貸してくれないか要望するのがいいかと思います。彼女は、竜人で女性でありながら帝国の貴族、辺境伯である存在。話せばこちらに力を貸してくれるでしょう。」


 その話はリュフトヒェンには以前行ったが、アーテルは知らないだろうと思い、アーテルに説明するために再度同じような言葉を放つ。そのセレスティーナの言葉に、対してアーテルは首を傾げながら疑問の言葉を放つ。


『待て、帝国の貴族という事は要は妾たちの敵じゃろう?しかも亜人を弾圧しているのに竜人の貴族とはどういう事じゃ?』


「まあ、何故竜人なのに貴族かというのは、簡単に言うと「生贄兼肉盾」ですね。何でも建前的には「同じ竜の血を引いているのなら、いざ竜が襲い掛かってきたら説得させよう」という事らしいです。もっと言うと「我々のための盾になれ。食われて竜を満足させろ」という事らしいです。」


 うわぁ……。とセレスティーナの言葉にアーテルは呆れた表情になる。いくらなんでも限度があるだろ、と突っ込みたいのを堪えながらも言葉を放つ。


『どんなお人好しでも、そんな状況で大人しく帝国に従っているほど馬鹿じゃないよな……。つまり、帝国への反乱を虎視眈々と狙っているという訳か。』


「はい、辺境伯様は亜人保護、特に竜人保護に努めており、帝国内で例外的に竜人たちが平穏に暮らせる場所になっています。そのため、多くの竜人で賑わっているのですが、そこも帝国本土から非常に睨まれているとの事です。」


 いかに帝国本土から睨まれても、大辺境から帝国を守護する辺境伯が極めて強い武力と広い領地を持っているのは認めざるを得ない。

 本音では肉盾兼生贄と言っても、辺境伯が反乱を起こせば帝国自体が割れるのが目に見えている。彼らが嫌がる行動なら、我々は真っ先にそれを行う。

 相手の最も嫌がる事を行うのは、戦術の基本である。


『なるほど。分かった。次は辺境伯領主を説得してこちらの味方につける必要があるということだな。問題は……どうやって辺境伯と面会するか、だけどな。』

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