第20話 人類守護神剣『クラウ・ソラス』

 住人たち皆が度重なる料理と獲物を捕らえる狩りに疲労困憊になり、保存食なども全て食べ尽くした後でようやくリュフトヒェンとアーテルは満足する。

 住民たちには悪いと思うが、魔力の枯渇は生命力の枯渇=死亡にも繋がりかねない。ゲームのようにMPが0になるだけでは済まないのである。

 大量の食事を行った事によって、生命力も魔力も回復しつつあるアーテルは、ふと気になったようにセレスティーナに話しかける。

 基本的な事情はリュフトヒェンから説明は聞いているが、何か気になった部分があったらしい。


『そういえば、帝国とやらじゃが、首都に存在するあの忌々しい”神剣”はどうなっておるのじゃ?』


『神剣?』


 そのアーテルの言葉に、リュフトヒェンは首を傾げる。今まで全く聞いたことのない言葉だったからだ。(神剣という言葉にちょっとワクワクしているのは秘密である)

 そのリュフトヒェンの言葉に、ふふん、と鼻を鳴らしながらアーテルは答えた。


『おおよ。帝国の首都を守護する人類守護神剣”クラウ・ソラス”

 かつて神が竜の侵攻から人間たちを守護するために鍛造し、人類に与えた神々の剣よ。端的に言えば……人類の基準で500メルー?ほどの巨大な剣がデーンと帝都に突き刺さっておる訳じゃが。』


 マジか、凄いなファンタジー世界、とリュフトヒェンは想像しながら心の中で呟く。たしかメルーというのはm(メートル)と同じなのでおよそ500mもの超大型剣が突き刺さっている事になる。

 しかし、全長500mもの巨大な剣なんて、到底人類に振るえる物ではない。

 それを振るえるだけの巨人族でもいるのだろうか?というリュフトヒェンの疑問に、アーテルは心を読み取ったかのように答える。


『馬鹿者。そんな剣、巨人族ですら振るえぬわ。そもそも振るう物ではなく、その剣から放たれる神力の光によって敵を焼き尽くす神造の剣よ。

 妾たちが魔力を収束して光を放ったように、大地の地脈から魔力を吸収して、その剣の柄頭にはめ込まれた巨大な宝石から強力な威力が込められた光を発して空を舞う敵を焼き尽くすのじゃ。

 我ら竜が帝都に侵攻せずに大辺境に留まるだけだったのはこれが理由じゃ。』


 なるほど。確かにそんな強力な武装があるのなら、竜たちが帝国に侵攻しない理由も理解できる。だが、そこでリュフトヒェンは一つの矛盾に気づいて首を傾げる。


『……あれ?でもウチの母上、帝都の首都半分吹き飛ばしたとか言ってたよね?

 その時には神剣なかったの?』


 それを聞いた瞬間、アーテルは苦虫を噛み潰したような表情になって、憤懣やるせない、と言わんばかりにイライラしながら足を踏み鳴らした。


『……あのクソ女。平然と神剣の光を弾き返しながら首都に強襲して、そのまま首都の半分を平気で吹き飛ばしてそのまま帰還しおった。

 全くもって忌々しいが、流石はエンシェントドラゴンロードなだけはある。その力だけは認めざるを得ないな。そのため、帝国もこの地には容易に手を出せなかったのじゃ。』


 ……マジか。凄いなウチのママン。流石は風を司るエンシェントドラゴンロードの一柱なだけはある。神々の肉体を焼き尽くしたというのは誇張でも何でもなく”ガチ”というのがそれだけでも理解できる。

 しかし、それだけの力があるのなら、ティフォーネの気性ならば帝国全土全てを吹き飛ばす事も可能だろう。

 それを行わなかったということは、ただの警告なのだろう、ということは理解できる。まあ、その分今我々が苦労している訳ですが、とリュフトヒェンは心の中で呟く。


『全くあのクソ女がここ近辺の人間社会の何もかも全て滅ぼしてしまえば、妾たちがこんな苦労を背負わずにすんだのに!とんだ疫病神じゃわい!!』


 アーテルは不機嫌そうにダンダンと足を地面にたたきつける。彼女からすればティフォーネが警告などといった中途半端な事をしてこんな結果になっているのが、甚だ不本意であるらしい。

 だったら帝国全土を全て吹き飛ばしてしまえ、その過程で何万人死のうがこちらには関係ない、というが彼女、というか竜の一般的な思考である。


『でも、そんな事したらこの国の人々からメチャクチャ恨みを買いますよね?』


『?だからどうした?そんな物、圧倒的な力で統治してやればよかろう。

 まつろわぬ者は全て焼き尽くし、妾たちに忠誠を誓う人類だけ生かしてやってもよい。そうすれば、何もかも全て解決するのにのう。』


 き、恐怖政治~~!!思わずリュフトヒェンは心の中で突っ込んだ。

 とはいうものの、竜の常識としてはアーテルの考えの方が主流である。

 わざわざ相手(人類)の事など何故考えなくてはいかんのか?という考えが、弱肉強食を良しとする彼女たちの体の中に浸み込んでいるのだ。


『……まあ、とはいうものの、貴様らの立場から立ってみればそれではいかんことは妾にも理解はできる。それに妾は貴様に負けた弱者じゃからのぅ。貴様の意に従うとしよう。政治なんて面倒くさい事するの、変わり者の貴様ぐらいしかおらんし。……最も、竜族の誇りに反する事を行ったら話は別じゃが。』


 じろり、とこちらを睨みながら、アーテルは言葉を続ける。


『まあ、それはともかく、話を戻そう。今の状況はどうなっておるのじゃ?』


「……はい。まず、神剣は膨大な魔力を神力へと変換し、それを射出するために膨大な魔力が必要となります。通常、地脈から吸収した大地の魔力を吸収・変換するのですが、帝国は亜族、中でも竜人の生命力と魔力に目をつけ、彼らを大量に集めて神剣の贄とする事でティフォーネ様に対抗するつもりだったようです。」


 そのセレスティーナの言葉に対して、アーテルは思わず呆れた声を出す。


『……あのな、妾人道とかよー知らんけどそれって人道とやらにめっちゃ反してるんじゃなかろうか。いやまぁ、人間や亜人がどうなってもいい、と考えている妾が言えた義理でもないんじゃが。』


 竜に人道を解かれる帝国のモラルェ……。思わず心の中で突っ込みを入れたリュフトヒェンだったが、セレスティーナは何やら居心地悪そうに黙っているのを見て、何となく裏がありそうだな、と先を促してみる。


『……。何か言いたくなそうな事ありそうだけど、他にも裏があるの?

 いや、言いたくなければいいんだけどさ。』


「……は。帝国は最終段階の方策として、帝都に住まう亜人・人間問わず全ての生命体の全生命力・魔力を吸収する巨大な魔方陣を帝都全域に作成中です。帝都の全人類を犠牲にしてでも空帝ティフォーネ様を倒すと意気込んでおりまして……。

 これは最高機密なので、高位の魔術師でもない限り知りえない事項なのですが……。」


 なるほど、高位の魔術師である彼女にはそれが感じ取られたという訳か。多分、彼女が帝都から逃げ出してきたというのも、それを感知したのも大きいのだろう。

 それを聞いて、アーテルは呆れた声を上げる。


『はークソ!クソアンドクソ!!ついに自分たちの大義名分すら捨て去ったか!!

 我ら竜族もロクでもない部分はあるのは認めるが、人族の悪辣さには勝てんわ!!

 凄いな人類!!主に悪い方面で!!』


 まあ、竜族も大概だけど、帝国も大概だよなぁ……奴らの思い通りにさせるとこちらにまで厄介事が降りかかってくるので何とかしなければならない、とリュフトヒェンは決意した。



・クラウソラスのイメージは、エー○コンバットゼロのエクスキャリバーですね。

あれが巨大な剣に姿を変えているイメージです。

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