第19話 ダークドラゴンが仲間になった!


 その後、治癒魔術でお互いの傷を癒して、何とか飛べるようになった二人は、そのままリュフトヒェンの拠点地である山岳要塞へと帰還してきた。


『と、言うわけでただいま。そちらは何もなかった?』


 その着陸態勢に入りながら、地面へと着陸していくリュフトヒェンに対して、真っ先に駆け付けたのは、やはりセレスティーナだった。


「ご主人様!お怪我はありませんでしたか!」


 リュフトヒェンの腕……もとい前足にぴしっと抱き着きながらセレスティーナは心配そうに問いかけてくる。ボディタッチ激しいねこの子、と思いつつも、美少女に抱き着かれて嬉しくないはずはない。


『まあ怪我はしたけど治療はしたから大丈夫だよー。それでこちらがこの度我らの仲間になる……。』


『アーテルだ。全くこの妾が貴様らのような弱者に力を貸す羽目になるとは……。まあ負けた以上は仕方ない。よろしく頼む。』


 リュフトヒェンよりさらに大柄で、狂暴さで知られるダークドラゴンが降り立ってきたのだ。それに恐怖を抱かない住人たちの方がおかしい。

 そんな怯えの目を受けて、アーテルの方も思わず牙を向いて威嚇してしまう。

 そして、牙を向いて威嚇するアーテルに対して、住民もさらに震え上がるという悪循環が出来上がってしまう。リュフトヒェンは、そんなアーテルに対してまぁまぁ落ち着いて、と声をかける。

 ふん、と彼女は鼻を鳴らすと、体を反り返らせて自慢げに村人たちに向かって言葉を放つ。


『まぁ妾は!そこの奴に「君が欲しい(愛情的意味で)」と伏して懇願された特別な存在じゃからな!このような奴に従うのは業腹ではあるが、そこまで言われてしまっては仕方ない。かーっ、流石妾の魅力!こんな小僧まで求めさせるとは妾自分の魅力が恐ろしいわい!!』


 かーっ流石妾!かーっ!!と言ってるアーテルに対して思わず(ウゼェ……)と思ってしまうが、そこは大人の対応でスルーする。

そんなリュフトヒェンに対して、セレスティーナは、おずおずと話しかける。


「ご主人様……。そのような事言われたのですか?」


『うん、まあ言ったけど。(戦力的な意味で欲しいと)まあ、とりあえずよろしくね。』


 ダークドラゴンとご主人様の言葉の間には大きな隔たりがあるのではないか、とセレスティーナは思ったが、もしかしたら竜族の間ではこれが普通なのかもしれない。

 下手に突っ込みを入れてしまっては、せっかく味方になった強大な戦力を失ってしまうかもしれない、と思いセレスティーナは、そこをスルーした。


『ふん、まあいい。とにかく妾は疲れた。寝るぞ。貴様の寝る場所で勝手に寝かせてもらうからな。』


 のっしのし、とアーテルは勝手にリュフトヒェンの山岳要塞に入っていくと、普段彼が寝ている場所へと向かっていく。

 勝手にリュフトヒェンの寝床を使うつもりらしい。


『あの……そこ我の寝床……。』


『なんじゃ?空いてる場所ならいくらでもあるじゃろうが。妾は疲れておるのじゃ。

 そのくらい気をきかせてもよかろう。』


 ぎろり、とアーテルはリュフトヒェンを睨みつける。ここで彼女の機嫌を損ねてまた戦いが再びという事は避けたい。多大な魔力消費で疲れているのは彼も同じなのである。


「あの……。ご主人様。あの竜、大丈夫なのでしょうか?」


『まあ……。多分大丈夫だと思うよ。勝ったのこちらだし。それよりも……。我も眠りに入るから……。それまでにできるだけ大量の食事の用意を……。』


 それだけを言うと、リュフトヒェンもその場に座り込んで。どしん、と倒れこんですやすやと睡眠状態に入ってしまう。正直言えば、戦闘中に多大な魔力消費を行っていた彼自身ももう限界だったのである。

 そして、まる一日中睡眠を取って起きてきた彼ら二頭の竜が目覚めた時から、また新しい戦場が始まる事になった。


「肉だ!とにかく肉を持ってこい!!保存食用の干し肉や塩漬け肉も片っ端から持ってこい!!」


「焼け!肉を片っ端から焼いていけ!その間にスープを作るぞ!!

 とにかく片っ端からありったけ叩き込んで煮ていけ!!川からじゃんじゃん水を汲んでこい!!味付け用の岩塩も全部出せ!」


「エルフ!鳥でも鹿でもイノシシでも何でもいいから、とにかく片っ端から獲物を狩ってきて!!バラすのは竜牙兵に任せて俺たちはとにかく食事を作るぞ!」


 そう、それは食事という新たなる戦場である。

 料理が苦手やできないだの何だの言っている余裕はない。

 竜牙兵やゴーレムたちも全て動員して、彼らは必死になって大量の食事を作り上げていた。そして、それらは全て片っ端からリュフトヒェンとアーテルが胃の中に収めていた。


 元々、竜というのはその巨体を維持するために極めて食事量が多い。

(高位の竜はそれほどではないらしいが)

 そのための食事を確保するために、より大きな縄張りを必然的に必要とする。

 しかも、彼らは戦闘で多大な魔力を消耗している。魔力とは生命力であり、これが枯渇すればいかな竜とは言えただではすまない。

 そして生命力=魔力を補給するのに一番手っ取り早いのは、当然の事ながら食事である。一心不乱に出された大量の食事を貪り喰らいながら、アーテルは叫ぶ。

 

『……美味い!何じゃこの食事生肉とは全然違うではないか!!』


 そう言いながら、彼女は出された肉を一心不乱に大量に胃の中に収めていく。

 今まで生肉しか食べた事のなかった彼女にとって、ただ焼いて塩を振りかけただけの肉でも衝撃的だったらしい。

 おまけに近くの村から取り寄せた何枚もの鉄盾をドワーフが加工して作り上げた大鍋に注がれた魚の干物や干し肉や野菜などを入れて煮込まれたシチュー、というかスープも彼女のお気に入りらしい。

 今までこのような食事に工夫を凝らすという概念は、彼女には存在しなかったらしい。


『むむぅ……!この汁物?も美味い……。このような単純な事でこれほど美味くなるとは……。長年生きてる妾不覚!まだまだ知らない事は大量にあるのぅ。

 これなら、人間どもと共に生きてやってもよいか……。』


うまうま、と彼らが作ってくれた食事を貪り食らうアーテルを見て、何とか彼女も上手くやっていけそうだな、とリュフトヒェンは心の中で呟いた。

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