第18話 君が欲しい!(戦力的な意味で)
『ほ、欲しいってなんじゃ。はっ!体か!妾の体が欲しいんじゃな!このマセガキが!!そういうのはもっと大きくからやるがいい!くっ殺せ!』
顔を赤く?しながら、不時着したへし折れた木々の上でぐねぐねとのたうち回るアーテル。当然の事ながら、リュフトヒェンはそんな気など毛頭ない。
これから国を作り上げようというのに、強大な戦力は喉から手が出るほど欲しい。
これほど強大な戦力を首を撥ねるなど、もったいなくてできるわけないだろ常識的に考えて……という顔になってしまう。
(何か勘違いしてるっぽいけど、まあ、とりあえずヨシ!でスルーしておく)
『ともかく、これから我は国を作るための力を求めている。そのために貴女が欲しい(戦力的な意味で)という事です。力を貸してもらえますか?』
その彼の言葉に、アーテルは不審げな表情を浮かべる。
『はぁ?国ってアレじゃろ?自分たちを守るために弱者が群れて作り上げるアレじゃろ?何で妾たちがそんなの作る必要があるんじゃ?
喧嘩を売ってくる奴らなど全て焼き尽くしてしまえばよかろう?』
これはアーテルだけの特異な考えではない。これが竜にとって”普通”の思考なのである。単体で極めて強靭な肉体を有している彼らにとって、群れて国を作り出すなどという発想自体が出てこないのだ。
だが、いかに強力でも、単体では限界がある。その隙をついて人間たちは竜を打ち滅ぼしてきたのだ。
人間というのは、自分たちに危害を与える物は決して許さない。
いかなる悪辣な手を使っても滅ぼすという事を、元人間であるリュフトヒェンは知り尽くしているのだ。
『人間の悪辣さを舐めちゃいけない。個としては脆弱だけど、種族としての彼らは極めて強靭だ。例え竜が強大でも、どんな手段を使ってでもこちらを駆逐するに決まっている。人類というのはそういうものだ。』
『ふーん。まるで以前人間だったような口ぶりじゃな。まあ、妾にとってはどうでもいいが。』
ぎくり、とリュフトヒェンは思わず心の中で飛び上がる。
今はれっきとした竜だとしても、前世は人間だったと知られれば侮られて逆らうかもしれない。
『しかし、ここ最近竜たちが人間どもに滅ぼされているのは事実。
ただでさえ子供を産むのが遅い我らが、どんどん人間どもに滅ぼされていっては、種族としての滅びすら有りうる。お主のいうことも一理あるか……。』
実際、竜たちは長年かけて人類に滅ぼされつつある。
竜たちは単体では極めて強靭ではあるが、お互いに協力するという事は滅多にない。
しかも、子供を作るのも遅く、百年や千年に一人という事は平気でありうる。
さらに、竜族は種族として緩やかに衰退しつつある。
今はよくても、これからどんどん時代が下がれば、ただ人間たちに狩られるのを待つだけになってしまう。
『だからこそ!今!なんだ!まだ我々竜族が黄金期の力を有している内に、人間たちを取り込み、崇拝させて国を作る!竜たちを崇拝させれば、少なくとも知性を持った竜たちを保護する事ができる。そうすれば後世、竜が人間にただ狩られるだけの時代を迎える事はない!これが、竜族にとって一番ベストな選択なんだ!』
そのリュフトヒェンの熱心な演説に対して、アーテルは胡乱な冷めた瞳で彼を見つめる。竜にとって最も大事なのは己自身。いわゆる個人主義であり、竜族全体の未来を考えている存在などそうそうはいない。
その基準から見れば、彼は相当な変わり者、理想を語る理想主義者と言えるだろう。
『はっ、全く口先だけはベラベラとよく回る。そもそも、それが一番ベストな選択肢といえるのか?今から竜が力で人間を支配する統治機構を作り上げるのがいい可能性もあるぞ?』
だが、自らの魔術とリュフトヒェンとの魔術で深い傷を癒しながらアーテルはため息をつき、リュフトヒェンに対して従う意思を見せる。
『まあ……。とはいえ、妾には選択肢などない。竜にとって強者こそが正義。
敗北した妾にお主の言葉を拒める権利などない。お主の言葉に従い、お主にこの身を預けよう。』
『せいぜい見せてもらおうか。人間と竜が共存する国、竜が人間から尊敬されながら受け入れられる国などという夢物語をな。』
そう言うと、アーテルは不敵ににやり、とリュフトヒェンに対して微笑んだ。
―――二頭が共に飛び立ったのを見て、遠い森の中でずっと彼らの戦いを見ていた人影は目を細めた。姿形は人間……というよりは竜人の女性である。
だが、例え竜人であろうが、前人未到のこの大辺境にたった一人で平然と、何の汚れもなく存在できるはずはない。つまり、彼女は異常な存在という事である。
まるで純白の雪か、細やかな銀細工で作り上げられたような銀髪に鋭い冷徹なイメージを醸し出す紫の瞳に豊満な姿態。
普通の竜人と異なるのは、側頭部にあるほかの竜人と比例しても巨大な二対の角、そして、普通の竜人より遥かに巨大な皮膜状の翼と太い尻尾だった。
「ふむ……。やられそうになったら私が手助けしようかと思いましたが、単独でダークドラゴンを倒すとは流石我が息子。実に誇らしい。」
そう彼女は無表情に呟くが、感情がダイレクトに出る尻尾はそうでもなく、まるで機嫌のいい大型犬の尻尾のように、ぶんぶんぶんと上下に素早く動いていたり、時折、びたんびたん、と地面に尻尾を叩きつけているのを見ると、彼女が興奮して上機嫌なのは分かる人は分かるだろう。
「……。おっといけない。あんまり興奮しては自己魔力封印式や人化の魔術が解けてしまいますね。魔力を抑える魔力封印式が解けて、私が見ている事がばれてしまっては独り立ちの意味がない。さっさと消える事にしましょう。」
それだけ呟くと、彼女は瞬間転移の魔術を発動させ、瞬時にその場から消え去っていった。
―――謎の竜人の女性の視線、彼女の視線はアーテルやリュフトヒェンに対しても影響を与えていた。
ぞわり、と背筋に氷を入れられたような悪寒。それはリュフトヒェンだけでなくアーテルも感じ取ったらしい。
『……。な、何じゃ。何だかめちゃくちゃ嫌な予感がするぞ。
さっさとここから離脱して貴様の居住地に向かうぞ。お互い戦いで消耗したところで漁夫の利を狙った他の竜から攻撃を受けるなんて真っ平ごめんじゃからな。』
『同感。さっさと我の根拠地へ向かいましょう。』
そう言いながら、その視線に対して妙な親しみを感じてしまうのに、リュフトヒェンは思わず首を傾げていた。
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