第12話 警戒網を作ろうと思ったら遠距離攻撃されました。

 リュフトヒェンは、自分の拠点から離れて北のダークドラゴンとの縄張りの境界線にまで来ていた。なぜこんな危険な地域まで来ているかといえば、ダークドラゴンが攻め込んできた際にいち早く探知できる警戒網を作り上げるためである。


『よし、とりあえずこの辺か……。この近辺に鱗を埋めていけば警戒網ができるって寸法よ。』


 そう言いながら、リュフトヒェンは自分の縄張りの境界線近くで着陸し、そこにあらかじめ剥がしてあった自分の鱗を地面に穴を掘って埋めていく。

 埋めたらさらに横に移動してある程度離れた場所に穴を掘り鱗を埋めるのを繰り返して独自の警戒網を構築していく。

 最も、縄張りは国境のように明確な境界線があるわけではないので、向こうの縄張りに入らないようにある程度こちらの縄張り寄りに鱗を埋めていく。


 ここで相手の縄張りに入り込めば向こうから攻め入られる口実を与えかねないからだ。向こうから攻撃を仕掛けてくるのは仕方ないが、できればそれは避けたい。


 そして、何とか鱗を全て埋め終わって、ふう、と一息ついた彼は仕事を終えて、空を飛んでここから離脱しようとした瞬間、向こうの領地から漆黒の光、レーザーが数本こちらに向かって照射される。


「!?」


 敵からの攻撃を警戒していた彼は、何とか上空に飛んでそのレーザー攻撃を回避する。(レーザーというよりは自分の魔力をそのまま射出する魔力射出なのだが、便宜上レーザーと呼ぶ)

通常、質量のないレーザーが曲射されることはないはずなのだが、敵はわざわざ攻撃魔術に曲射するような術式を仕掛けていたらしい。

 しかも、曲射で大まかなこちらの方向を掴んで攻撃しているとなると、恐らくどこかに弾着観測用の使い魔が潜んでいる可能性が高いが、今その使い魔を探し出して叩き潰す所の騒ぎではなかった。

 リュフトヒェンはさらに上昇して敵の攻撃を回避しようとするが、それを追いかけるように漆黒の魔力レーザーはさらにリュフトヒェンに襲い掛かってくる。


 斜め上に上昇しながらのバレルロールでその攻撃を回避していくリュフトヒェンだが、どこからどう見てもその命中精度は低い。

 弾着観測用の使い魔が近くに潜んでいる可能性を考えても、この命中精度の低さは、恐らく、威嚇代わり、目障りだからとりあえず攻撃を仕掛けているという感じなのだろう。その甘い命中精度のため、彼は攻撃を回避し続けることができるのである。


 リュフトヒェンはそのまま機首……というか首を上に向けて上昇を続けて太陽を目指して飛行を開始する。

 空中戦では太陽に向かって飛んで相手の目を太陽の光で眩ませる。

 どこかの創作物で読んだ彼の付け焼刃知識だが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。

 それが正しいかのように、漆黒のレーザーのただでさえ低い命中精度はさらに下がっているのが目に見えて分かる。

 これならば、わざわざ回避行動を取らなくてもいいぐらいである。


 そのままリュフトヒェンは急上昇から急下降へと方向を転換。

 敵の意表をつくべく、一気に重力に従って急下降を行う。

 当然の事ながら、相手の攻撃はその移動についてこれず、虚空を切り裂く中、リュフトヒェンは竜語魔術で自分の周辺に数十もの雷球を構築。

 その雷球から数十もの雷撃を放ち、攻撃を仕掛けてきたであろう場所へと射出する。


 轟音と共に大気を引き裂きながら次々と敵がいるであろう場所へと突き刺さっていく数十もの雷。だが、こちらも敵の姿を確認できないめくら撃ちなので、命中精度は語るまでもない。

 あくまで牽制であり、当たれば幸いという奴である。


 彼はそのまま急下降から水平飛行へと進行方向を変え、雷の牽制で僅かに向こうの攻撃が鈍った隙を見計らってさっさと逃げ出す。

 騎士でも人間でもない彼が、正々堂々と戦うなどばからしいにも程がある。

 生きて帰還できればそれで充分勝利なのである。


『それじゃ逃げるやで!アディオス!!』


 リュフトヒェンは、すたこたさっさと水平飛行でこの空域から離脱していくが、後ろから狙い撃たれないように、竜語魔術により大気を操作し、自分の背後に雲を作り上げる。

 しかも一か所だけではなく、できる限り広範囲に厚い雲を次々に作り上げていく。

 これは煙幕代わりであり、相手の攻撃から自分の姿を隠すためである。

 

 実際に、敵からの攻撃もただでさえ低い命中精度がさらに低下する事になった。

それを見て、彼はこの空域から離脱するためにさらに速度を上げ、何とかこの空域から離脱する事に成功したのである。




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