第11話 近くの村をこちらの味方に出来ました。

 セレスティーナの言葉に顔を見合わせる村人たち。ここはもっと押すべきだろう、とリュフトヒェンも言葉を放つ。


『本来、我ら竜の歩むべき道と人間が歩むべき道は違う物だ。だが、それでも我は君たち人類と寄り添って共に歩みたいと思っている。

 今回は、この第一歩としたい。この村が危機になった時に我が助ける代わりに、きちんと代価は払うので人間社会の様々な物を買い取っていきたい。

 これはどちらの損にもならないと思うがどうか?』


 確かにリュフトヒェンの言葉は彼らにとってもありがたい。帝国の人類至上主義に押された亜人たちは押し出れるようにして、ここ大辺境近くに村を作り上げたが、大辺境から襲い掛かってくるゴブリンや怪物たちに常に悩んでいた。

 そんな彼らからすれば、リュフトヒェンの提案はまさに渡りに船だった。

 今までは何もしてこなかったのに、なぜ突然、という疑問はあるが、それよりもこちらにとってのメリットが大きいのなら従わない理由はない。


 だが、いつまでも黙っているわけにはいかず、村長がおずおずとセレスティーナに話しかけてきた。


「私どもの村は辺境伯領主様に仕える村。辺境伯様を裏切って竜様の下につくのは……。その代わり、救われた恩義もありますので、竜様のご提案に従ってそちらに全面的に協力させていただきましょう。」


 なるほど。確かに道理は通っている。

 今この村は辺境伯の領地に組み込まれた村であり、そんな村が辺境伯を裏切って竜につくなどと言ったら、見せしめに軍を派遣されてもおかしくない。

 だがここでこちらの申し出を断ったら、今度は村が焼かれかねない。

 その間で挟まれている状態で両方に睨まれないためにするのが、この提案なのだろう。今回は、この村の支援を受けられるだけで十分な成果である、


「よろしい。了解しました。その代わり、この村が再び魔物に襲われた時にはリュフトヒェン様が守護していただけるでしょう。魔物たちもこの村が竜の庇護を受けていると知ればそうそう攻め込んでくることはないはず。それでいかがですか?」


「はい!喜んで!こちらもできる事は何でも協力させていただきます!」


 これは、こちらにとっても大成功だったといえるだろう。

 どうにかして、不審者に見られずに穀物の種などを手に入れようか考えていたのが、全面的に協力を得られることになったのだ。

 これで今必要な穀物の種や鍬や鋤、さらには鉄など様々な生活用品を手に入れるための入手先が手に入ったのである。これは、リュフトヒェンのみならず、住民たちにとっても非常にありがたい事である。


 そして、その村にはリュフトヒェンは自らの鱗を数枚置いておいた。

 この鱗から発せられる竜の魔力は魔物たちを遠ざける力を持つし、いざという時に様々な探知・通信にも使えるため、それを手にして願えはすぐさま駆けつけるという使い道である。

 契約においては信用が何より大事である。

「約束をしたのに駆けつけなかった」となれば、今後リュフトヒェンに協力してくれる村はなくなってしまうだろう。

 そうなれば、彼の目的を達成するのは困難になってしまう。


 村長からは「亜人のための隠れ里を作る」などと誤解されているようだったが、わざわざその誤解を解くまでの詳しい説明をする必要はない。

 どの道、やるべき事は同じなのだ。

 そのために村と友好関係を築けたのは、リュフトヒェンにとって大きな第一歩だったといえるだろう。


 こちらの砂金と引き換えに、進呈された鍬や鋤、大鎌などをセレスティーナが空間を歪めて作り出した魔術倉庫に放り込むと、様々な穀物の種を受け取ると、リュフトヒェンは翼を広げてそこから飛び立つ準備を始める。


『よし、それでは我は帰るのでよろしくな。それじゃ。』


 セレスティーナを背中に乗せると、彼はそのまま上空へと飛び立っていく。

 鞍も何もない以上、確かにしっかりとしがみつく必要はあるのだが、大の字になって背中にしがみつきながら鱗に顔に埋めてハァハァしているのは、さすがに美少女でもどうかと思うけど、怖いので深く追及しない事にしておく。


「ともあれご主人様。懸案の一つが片付いた上に、向こうの村も我々に好意的なら帝国からの侵攻があれば我々にも知らせてくれるでしょう。

 ご主人様の知る限りで他の我々の敵などはいないのですか?」


『うーん……。ああ、そうだ。ウチの縄張りの上……というか北の方に、ウチのママンとよく敵対していたエルダー級のダークドラゴンがいるらしい。ママンと敵対して生きているんだから大したもんだよ。』


「ところでご主人様。我々の敵は帝国だけでなく、他の敵に対する対策も考えなくてはいけません。例えていうなれば、他の竜族などとか。」


 何でも、そのダークドラゴンはちょくちょくティフォーネの縄張りにちょっかいをかけては撃退されていたらしい。

 他のエルダー級と違って度々侵攻しては撃退されて撤退していく、という事はいい喧嘩相手と認識されていた可能性はある。

(ティフォーネは気に入らなければ遠慮なく滅ぼしてしまうため)


「エルダー級でティフォーネ様と戦って生きているのですか……?

 それは大した物ですね。エルダー級とはいえ、我々人間からしてみれば、神と等しいエンシェントドラゴン・ロードと戦って無事でいられるとは。」


 ともあれ、ティフォーネと戦えるほどの強敵であるダークドラゴンが北に存在している事はリュフトヒェンたちにとっても大きな脅威である。

 彼女がこの村予定地に襲い掛かってきたのなら、こちらも大きな被害を覚悟しなければならない。何とか今のうちから対抗する手段を作り上げなくてはならないのである。


『ともあれ、我の母親と戦えるほどの竜が大辺境の北部には存在している。我々は帝国だけでなく、これにも対抗しなければならない。何かいいアイデアなどはないか?』


 セレスティーナは、しばらく顎に手を当ててうーんと考え出すと熟考の後で言葉を放つ。


「そうですね……。先ほど、ご主人様が村に自らの鱗を渡していましたが、あの鱗が探知代わりになるとしたら、縄張りの境目付近に鱗を埋めるというのはどうでしょうか?それで探知網が作れるのなら、真っ先にダークドラゴンの接近を探知できるのでは?」


『なるほど。それいいね採用。やってみようか。』




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