第7話 まず第一歩は開拓からです。
『ともかく……皆が快適に住める場所を作らないといけないよなぁ。今はいいけど、人が増えたらここじゃ溢れるだろうし。』
ともあれ、いきなり国を作るなどという大作業はできるはずもないし、人手も足りない。まずはここに逃げてきたセレスティーナたちが暮らせる村作り、家作りから始めなくてはならない。何事も最初の一歩からである。
セレスティーナたちは今はリュフトヒェンの山を掘りぬいた洞窟内部に一緒に住んでいるが、いつまでもこうしている訳にはいかない。
彼らが快適に住むことのできる村や作物が作れる畑作り、快適に住める家など、その他諸々を何とかしなければならない。
空から見下ろして良さそうな所、彼の拠点である山の近くの平地、というか適当な森に目安をつけて、とりあえずここで開拓作業に入る。
水を汲んだり生活を送るのには、近くに川があった方がいいが、あまり近すぎると川が氾濫した際に村ごと飲み込まれてしまうので、川の近くではあるがそれなりに離れた場所を開拓予定地へとする。
とにかく、開拓というのは悲惨であり大変と聞く。ならば、竜の力で予め少しでもすみよい場所を作り上げようという作戦である。
彼は自然の原生林を、草抜き感覚で木々を根っこごと引っこ抜いてその辺に投げ捨てていく。
人の体では滅茶苦茶大変な開拓作業も、竜の体ならば遥かに楽な作業になる。木を根っこごと引き抜いて投げ捨てるなど、人間では到底不可能な事も、彼の体は容易く行うことができる。
端から見たら、巨大な土木工事か何かという勢いで、どんどん開拓作業は進んでいく。竜の力をもってすれば、人間では非常に苦労する開拓作業もまるで遊び気分でどんどん進んでいくのは、自分が竜になった事を実感してしまう。
『しかも全然疲れない……。竜の肉体ってやっぱりすげぇなぁ。
とはいえ、やっぱり一人だと限界があるから労働力を増やす何らかの手段が必要か……。』
そう言いながら、彼は草むしり感覚でさらに木々を引っこ抜いて移動させたり、ウッドゴーレムへと変化させて労働力へと変えていく。現代でいう重機数体の作業をたった一人で出来るのだから、やはり竜の肉体というのは凄まじい物がある。
セレスティーナたちも追いついてきたのか、草むしり感覚で木々を引っこ抜いているリュフトヒェンに対して、慌てて申し出る。
「ご、ご主人様。ご主人様自らが我らのために働いてくださるなど……!
どうぞここは我々にお任せください。」
『ん?いや、優れたトップは自ら動くものだ、って母君も言っていたし。(大嘘)
まあ、いい気晴らしになるしこれくらいはね?』
「さすがですご主人様。ああ、誇らしい……。」
平野とは言っても全く開拓されていない野生の森と言った方がいいだろう。
そこを、彼は自分の鋭く尖った爪で木々を切り裂いていく。
凄い、人間だった頃とは段違いだ。腕を振るうだけで爪が木々を切り倒すなど、人間だった頃では考えられない事である。
そして、木々を切り裂いて、土地を切り開いた後で爪を地面にめり込ませ、切り株をそのまま引き抜いていく。
人間では重労働であるはずのその作業も、竜ならば遊び感覚で行う事ができる。
そうして切り開いた平野の一部を、さらに爪で地面を引っ掻いて地面を柔らかくしていく。地面を柔らかくして耕作地(予定)を作っているのである。
農耕器具よりも、竜の爪の方が遥かに鋭く、力もあるため便利なのである。
土遊び感覚で掘り返すだけで農耕地の開拓ができるなど、やはり竜というのは存在自体がチートだなぁ、と実感する。
さらに、ゴーレムの手によって次々と他の木々を引っこ抜いたり、邪魔な石や岩を移動させて拠点用の平地を作り上げていく。
邪魔な引っこ抜いた木々にもゴーレム化の魔術をかけて、ウッドゴーレムとして活用する。
さらに、引っこ抜いた木々を変化させたウッドゴーレムたちは、村(予定地)の外周部へと移動させると、そのまま次々と積み重なるように指示を出す。
そして、その状態でゴーレム化の魔術を解けば、あっという間に防護壁の出来上がりである。
何せ辺境の地であるこの森の中には、リュフトヒェンが知らないゴブリンやオークたちなどの怪物や魔物も山のように存在する。
それらから身を守るには、やはり堅固な防護壁が必要である。
防護壁で時間を稼いでいる間に、リュフトヒェンが駆けつけて怪物たちを退治するという作戦である。
村を広げる段階になったら、再びウッドゴーレム化させて移動させればいいのだ。
さらに竜牙兵の刃物を利用して、木々を削り、家の柱などになる木材などを次々と組み立てていく。
エルフやドワーフなどの監修を受けて、簡単にできる家の作りを指導する事によって、竜牙兵が削り出した木材を使用して、内部に人が住まえる家なども作り出す。
やっぱりこういうモノづくりの作業でドワーフはメチャクチャ頼りになる。
竜牙兵やゴーレムにテキパキ指示を出して見る間に簡易的な家を作り出していく。
『流石ドワーフ頼りになるな。礼を言うぞ。……ところで、ドワーフは竜嫌いで有名と聞いていたがお主は我の事は大丈夫なのか?』
古来より、竜はドワーフの天敵とされている。
ドワーフが作り出す金銀財宝。それらを狙ってドワーフの居住地に攻め入った竜は数知れない。さらに、ドワーフを強制労働させて財宝を作り出した竜などもいると聞く。そのため竜に心底恨みを持っているドワーフは多い……らしい。
「いや、流石に庇護を受けている以上恨みなんぞ持つわけなかろう。
見たところ、お主は若い竜だからワシらの住処を襲った事はなさそうじゃしな。
ワシらを庇護してくれるのなら、ワシらもお主に力を貸してやるわい。」
正直、メチャクチャありがたい。
手先が器用で様々な物を作れるドワーフは、こちらに何としても引き込みたい人材である。大辺境にも、竜からひっそり隠れ住むドワーフたちもいるらしいが、個人的にはこちらに引き込みたい、と考えるリュフトヒェンだった。
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