第6話 (主に自分が)平穏に過ごせる国を作ります!
『ところで、外の世界ってどうなってるの?教えてくれない?』
傷が治ったのなら、情報収集をしても問題ないだろう、と判断したリュフトヒェンは、ひれ伏したセレスティーナに対して問いかけを始める。
傷が癒えたセレスティーナはひれ伏しながら、リュフトヒェンに対して言葉を放つ。
「は、まずリュフトヒェン様がおられる竜の大規模生息地……人間たちの間では『大辺境』と呼ばれる地域の隣には、人族こそが世界で最も優れた世界を治めるべきという人類至上主義によって統治されている『ハイリヒトゥーム帝国』が存在しています。」
『……竜がすぐ横にいるのに人類至上主義とはまた随分アレだなぁ。』
そのセレスティーナの言葉に、思わずリュフトヒェンは純粋な疑問が口につく。
竜に対抗するために軍事国家になったり他の種族を支配下におくというのいうのは理解できる。だが、そこから他種族迫害にいくというのがいまいちよく理解できなかった。だが、その彼の言葉を、セレスティーナは否定する。
「いえ、竜がすぐ横にいるからこそ、です。そこに住まう人々は竜に対して危機感を持ち、貴方様たちに対抗するべく、人類を纏め上げるべく人類至上主義を名目に周辺の国々の制圧に乗り出し、他民族迫害に乗り出したのです。
それに……人間たちは空帝ティフォーネ様が100年ほど前に首都の半分を吹き飛ばしたのに随分トラウマを負っておるようで……。
今までこの大辺境に手出しをしなかったのは、それが理由みたいです。」
ママーン!!何やっとるんじゃーい!!とリュフトヒェンは思わず心の中で盛大に突っ込みを入れたが、まあ、あの母親なら気に入らないならやるよな……という納得もある。
何せ「気に入らないから」で同種族のエルダー級を何のためらいもなく滅ぼす性格である。人間ごときに手加減など行う気など全くないのはよく分かる。
むしろ、首都が半壊で済んだというのが驚きだ。彼女の性格ならば、都市全てを滅ぼしても不思議ではなかったが。多分「ちょっと牽制でもしておくか」という雑理由なのだろう。
『ところで、気になっていたけど、ママン……いや、我の母君のその空帝というのは?』
「は?空帝、ティフォーネ様ですが?この世界が生まれたとほぼ同時に生まれ、神々の戦いで神々の肉体を滅ぼしたエンシェントドラゴンロードの一柱にして、この世界の空と風を統べる存在とお聞きしましたが……。ああ、確かに空帝という呼び名は我々人間の呼び名で、そちらはご存じないかもしれませんね。失礼しました。」
ママーン!!我そんなの聞いてないでー!?とリュフトヒェンはさらに心の中で思わず絶叫した。
エンシェント級というのは彼も理解していたが、そこまで上級、というか竜族にとって最上級の存在であるエンシェントドラゴンロードなどというのは、彼自身も初耳だったのである。
なるほど。それならば人間たちがティフォーネを恐れ、この大辺境に手出しできなかった理由も理解できる。
神々の肉体を焼き尽くしたエンシェントドラゴンロードなど、地上の人間からしたら肉体を有した神に匹敵する存在である。
下手をすれば、彼女自身が神として崇められていて何ら不思議ではない。そんな存在に対して攻勢をかけてしまっては、今度は首都全てを吹き飛ばされても不思議ではない。それは人間たちにとって強大なトラウマになっているだろう。
そんな荒ぶる神が自分たちのすぐ横に存在しているのだ。人間が恐れを抱き、排除したいと虎視眈々と狙っているのは間違いない。
そして、その恐怖が暴走し、自分たちが平穏に暮らすために亜人弾圧、人類至上主義が加速してハイリトゥーム帝国という化け物を作り出したのだろう。
「ですが……空帝様がどこかに行かれたという事は、遠からず帝国も気づく事になるでしょう。となれば当然の事ながら……。」
『当然ながらこの大辺境に侵攻してくる訳か。なるほど。確かに理屈だな。
彼らにとって忌々しい宿敵の息子がここにいる上に、領地は切り取り放題だもんな。』
予想以上にヤバイな、と彼は心の中で呟いた。
それだけ人間たちがティフォーネを恐れているのなら、彼女がいなくなったと知ったらここに大攻勢をかけてくるのは間違いない。
かつてのトラウマの払拭、今までの雪辱を晴らすため、今まで押さえつけていた反動。それらが全て開放された人間たちが襲い掛かってくることは間違いない。
そして、彼女の直系である自分が生贄にされることも間違いないだろう。
そのための自衛のための力を今のうちにつけておかなくてはいけない。
『一応聞いておくけど、まだママン……空帝がいなくなった事は帝国は気づいていないんだな?』
「は、少なくとも、私が帝国を離れる前には一切。その後は分かりかねますが……。」
『よし、ならまだ時間はあるという事だな。』
リュフトヒェンの言葉に対して、セレスティーナは恐る恐る顔を上げると彼に向って問いかける。
「あの……失礼ですが、ご主人様はこれから何を行おうというのですか?
というか、ご主人様の目的は?」
それは彼女にとって当然の疑問だろう。命を救われ、竜血を分けられたと言っても、彼の目的が邪悪な物ならば流石についていくのを熟考せざるを得ない。
その彼女の疑問に対して、リュフトヒェンは響き渡る声で高らかに宣言した。
『―――国を作る。竜を頂点にした国を作って、帝国に対抗する。
我々が平穏に暮らせる国を作るんだ。』
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