第5話 竜血を与えたらメロメロです。

 ともあれ、彼女が連れてきたメンバーを見てると、エルフやドワーフやら様々な種族の混成がおよそ10人ほどのメンバーである。

 普通の人間が少なく、ほとんどがいわゆる亜人である所が印象的である。

 渡世の情報に疎い竜と言っても、近くの国家が純人間至上主義を掲げ、何やら亜人たちを弾圧していると伝え聞いていた。

 恐らくは、その弾圧から逃げてきた人々なのだろう、というのはメンバーを見れば何となく察せられる。


『ところで、君その傷大丈夫?ちょっと待っててね。ええと……こうか。』


 そう言いながらリュフトヒェンは、竜語魔術の治癒魔術をその少女にかけてあげるが、治癒魔術の光に包まれても、彼女の傷は一向に治療されない。

 あれ?何か間違えたかな?と首を傾げるリュフトヒェンだったが、セレスティーナは悲しげに首を振る。


「いかに竜様の魔術でもこれは……。これは魔力を封じる魔力殺しの刃によって傷つけられた傷。治癒魔術では治療できず、自然治癒に任せるほかには……。空帝様の竜血ならばこの傷も癒せるかとも思いましたが……。どうやら私はここまでのようです。どうぞ、この人たちの保護をお願いいたします。

 何なら、この身をお好きに使ってくださっても……。」


 ふむ、とリュフトヒェンは自分の顎に手を当てながら、彼女に向って問いかける。


『竜血?それって何?』


「竜血とは、その名の通り竜たちの血。それ自体を他の者たちに分け与える事です。

 それによって、竜たちは自らの力の一部を他の者に分け与え、その者たちを自らの加護を与えることができます。

 エンシェントドラゴン様の血ならば、こんな魔力殺しの傷などたちどころに……。」


『それ、別に我でもいいの?』


 そのリュフトヒェンの言葉に、セレスティーナは、ぱあっ、と歓喜の表情を浮かべる。彼女は両手の掌を組んで祈りを捧げるような態勢でリュフトヒェンに願う。


「は、はい!貴方様もエンシェントドラゴン様の直系!いただけましたら……。」


『我の血で美少女が生き残るのならやらない選択肢はないんだよなぁ……。

 という訳ではいどうぞ。』


 自分の爪でちょいと自分の手を傷つけ、そこから溢れる血をセレスティーナの傷口へと垂らす。

 その瞬間、セレスティーナの体がビクン!と跳ね上がる。

 彼女の心と体の中に、エンシェント級直系の強すぎる竜の血が荒れ狂う。

 それは、まさに暴風というか嵐の勢いで彼女の心を完全に満たしつくしていた。


 ああ!流れ込んでくる!心の中に!竜様の魔力が流れ込んでくる!

 心の中の穴、魔女だと言われて蔑まれていた孤独の穴、それら全てを埋め尽くす勢いで心の中に魔力が流れ込んでくる。

 肌の触れ合いでも不可能な完全に心の中が満たされていく感覚。

 それは彼女にとって完全に受け入れられた感覚、愛に心が満たされた感覚そのものだった。

 生まれて初めて心の中全てが愛で満たされる感覚。それは彼女にとって最高の至福の感覚だった。

 嫌だ!嫌だ!絶対にこれを捨てたくない!

 使い魔だろうが何だろうが構わない!永遠に心の中を愛で満たされたい!!


 リュフトヒェンの血に含まれた膨大な魔力は、彼女の心身を満たし、それは彼女の精神にまで影響を与えていた。

 心の中の中まで全て満たされる全肯定の感覚。それは愛とはまた違うのであろうが、不遇な環境で育った彼女にとっては、その心の全てが包み込まれる感覚はまさしく愛そのものだった。

 その膨大な魔力により、彼女の傷は急速に表面が鱗で覆われてほぼ完全に治癒していた。これは、リュフトヒェンの血の力で自然治癒能力が過剰にブースターされたからに他ならない。

 彼女の薄まっていた竜の血が、エンシェントドラゴン直系のリュフトヒェンの血を受けて激しく活性化されてあらゆる能力が高まっているのだ。

 はぁはぁ……と荒い息の元、傷も完全回復した彼女は、潤んだ瞳をしながらリュフトヒェンに対してひれ伏し、感謝の言葉を告げる。


「ありがとうございます。ご主人様。このセレスティーナ。

 これより誠心誠意を持ってご主人様にお仕えする事を誓わせてもらいます。」


 ……ん?なんか変なフラグが立った気がするな。まあ美少女が治ったからヨシ!!

 そう心の中でリュフトヒェンは呟いていた。

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