第4話 ヒロイン登場?人手だワッショイ!
竜が支配する大自然に溢れた土地。人間たちが言う『大辺境』の地。
そのほぼ前人未踏の地を切り開きながら歩く一つのグループが存在していた。
およそ10人ほどのそのグループは、大自然に囲まれた人を拒む天然の結界とでも言えるこの地を切り開きながら進んでいたが、一人の女性?が発した一言に、周囲の人間?は一斉に反発する。
「……正気か!?大辺境に足を踏み入れるだけでなく、空帝ティフォーネに直接会いにいくなど!?」
「おいやめろ!俺たちまで道連れにする気か!?そんな事しなくても、大辺境のエルフかドワーフの居住地に逃げ込めばいいじゃないか!!」
そのグループの半数は、エルフやドワーフである事がよく見ればわかる。
前人未踏の地を何とかここまでこれたのも、森に詳しいエルフたちの力を借りて何とかここまでやってきたのだろう。確かに、それならばエルフやドワーフの居住地に避難すればいい、という彼らの言葉は道理が叶っている。
だが、その言葉に、フードを被った女性?は反論する。
「……それで次は帝国がそこを占拠するのをただ待っていると?それに、エルフの地に逃げ込んだらドワーフが、ドワーフの居住地に逃げ込んだらエルフが迫害されるだけではないですか。それでは何も変わりません。
帝国に抵抗するためには、かつて帝国の首都の半分を吹き飛ばし、未だ帝国が非常に恐れている空帝様のお力が何としても必要なのです。
そうすれば……。」
「しかし、下手をすれば帝国全土が焼き尽くされる事になりかねないぞ!?
他の奴らはともかく……俺たちはそこまで望んでない!」
「ではどうすると?このまま座して見ていろと?彼らは、帝国は強い。もはやこの状況を打破するためには、空帝様のお力が必要なのです。」
その彼女の言葉に、そのグループの皆は口を閉じるしかなかった。
『……すにゃぴすにゃぴ……。ああ、バブってオギャりてぇ……。』
山をくり抜いた洞窟内部、その中の藁を敷き詰めて作られたベッドの上で丸くなってすやすやと眠るリュフトヒェン。
この山の周辺には、何重もの結界が施されており、並大抵の魔物や怪物たちが近づく事はできない。
そして、それでもすり抜けて突破してくる存在に対して、警告を放つ役割の結界も存在する。それを象徴するように、いきなり激しい金属音が周囲に響き渡る。
『ふにゃあっ!?何事やでぇ!?』
これは警戒の結界が突破された時に自動的に鳴るアラームである。
言うなれば、鳴り子と同じだ。これが鳴るという事は、何らかの存在がこの山へと近づいているという証である。気分よく寝ていた時に金属音で無理矢理起こされて、彼の機嫌は非常に良くない。
『全く人が気分よくすやすや休んでいれば、いいところで邪魔しおって……。
ゴブリンとかだったら、こんにちわ死ねブレスかましたろ。』
眠い目をこすりながら、彼は洞窟から外に出ると結界が超えられたであろう場所に目安をつけて飛んでいく。
ゴブリンや怪物たちも竜の恐ろしさは知り抜いているので、ここまで近づいてくる事は滅多にないのだが、迷い込んだという事はありえる。
元は人間とは言え、その本能は竜そのものである彼にとっては、怪物たちに対してブレスを吐いて焼き尽くす程度の事では良心は痛まない。
だが、それらしい影を上空から確認した彼は思わず驚く。そこにいたのはゴブリンのような異形のヒトガタではなく、れっきとした人間の姿だったからだ。
(ヒトやん!?人間やん!?こちらが喉から手が出るほど欲しい人材やん!?
ここでスライティング土下座してこちらに迎え入れたいぐらいなんだけど。)
ともあれ、いきなり竜が土下座してくるなど向こうも大混乱するだろうし、交渉事においていきなり下手に出るのも舐められるだろう。
ここは威厳を保ったまま、彼らを迎え入れるのが一番だろう。
彼は慎重に彼女らの傍に、木々をベキバキとへし折りながら着陸し、彼女たちを見下ろしながら言葉をかける。
『あー。ごほん。君たち人間?何でこんな所に迷い込んだの?
とりあえず事情を聞かせてくれないかな?』
その言葉に、リーダー格であるらしいフードを被った一人の女性が進み出し、彼の前にひれ伏して言葉を放つ。
「初めまして、竜様。会えて光栄に存じます。……あの、申し訳ないのですが、空帝様はおられますでしょうか?貴方は空帝様ではありませんですよね?」
『……空帝?誰それ。ひょっとしてウチのママン……もとい母君の事?
あの人……もといあの竜ならどこかに飛び去っていったよ?どこに行ったのまでは知らんなぁ。』
そのリュフトヒェンの言葉に、グループ内に一斉に動揺が走る。どうやら、この報告は彼女たちにとって、予想外の情報だったらしい。
その動揺を押し隠しながら、フードを被った女性はさらに言葉を続ける。
「……という事は、貴方様は空帝ティフォーネ様の息子様という事でよろしいのでしょうか?」
『ん?まぁそうなるね。まあ、そんなに大した力はないけどね。』
彼女がフードを取ると、綺麗な紫の瞳、そしてロングヘアの流れるような金髪から覗く二対の角を見てリュフトヒェンは少し驚いた。
ただの普通の人間という訳でも、鬼人という訳でもないらしい。
しかも、微かながら目の前の彼女にシンパシーを感じてしまう事からすると、恐らく彼女はかなり血は薄いが竜との混血、竜人なのだろう。竜の血を宿した竜人ならば、真正の竜であるリュフトヒェンがシンパシーを覚えて当然である。
そして、さらに印象的な事は、その豊満な肢体……ではなく、腹部に血のにじんだ包帯を巻きつけているという事だ。そんな傷を負いながらここまで来るなど、竜人の生命力の成しえる力だろう。彼女はリュフトヒェンの前に跪いて優雅に一礼を行う。
「初めまして。竜様。私はセレスティーナと申します。
見ての通り竜人であり……エルフやドワーフたちと同様、人類至上主義のハイリヒトゥーム帝国から逃げ出してきた者たちのリーダーでもあります。」
うーん、また何か厄介事の種が飛び込んできた気がするぞ、と思わずリュフトヒェンは心の中で呟いてしまう。
だが、彼女たちが貴重な情報源であり、人手であることは間違いない。
ともあれ、彼はセレスティーナの話に耳を傾ける事にした。
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