第2話 レナ、ヒール転向!
翌日、この日は次回大会以降の団体の動きとストーリーラインの進め方についての会議があった。練習道場横の団体事務所に社長、ミナミさん、ベテランレスラーマキさん、スタッフでマッチメイカーの横田さん、レフェリーの梅田さんと僕が会議室に集められた。先輩営業の川田さんは来月の興行の営業で関西へ行っているため僕が代わりに出席することになった。
「まず最初にレナの状態はどうだ?」
社長が最初に口を開いた。僕は
「捻挫でしばらくは安静とのことです」
と伝えると会議室全体が沈んだ空気になった。みんな次の静岡大会が売り興行であることはわかっている。社長は
「興行の買い手にちょっと電話してくるよ」
と携帯を手に会議室を出ていった。残された室内では今後のアングルについて話し合いが始まっていた。
「静岡大会の次の大阪大会では私のベルトにシュガーさんが挑む事になっているから、その前哨戦を組んでいく方向で良いと思うの」
「では静岡大会はレナが欠場したとするとメインはミナミさんと若手、シュガーさんと若手のタッグマッチでいきますか?決着は若手同士でつくように調整して···」
やはりミナミさんとマッチメイカー横田さんはミナミさんメインで進めようとしているようだ。確かにベビーフェイスのミナミさんに対して、ヒール軍は少し前までガイア山中というヘビー級のレスラーが率いていたのだが、他団体に引き抜かれてしまい、若手のヒール軍になっていた。そこにフリーで知名度のあるシュガーさんを挑戦させる流れはアリだと思う。でもそれだと団体内の若手が不満を募らせてもおかしくない。とくにレナ···そこで昨日レナと話し合った案を出してみる事にした。
「みなさん、ちょっと待って下さい!うちはヒール軍がトップ不在でベビー対ヒールアングルが弱くなっています。やはりヒール軍のトップを決めてはいかがでしょう?」
僕の発言にミナミさんや横田さんは、ええ··?とわかりやすく不満の声を出した。そこへ社長が戻ってくる
「やはりレナが出ないなら売り興行はキャンセルして自主興行に切り替えて欲しいそうだ」
やはりか···だからだ!
「皆さん、レナです。レナをヒールのトップにしてみてはいかがでしょう?」
「ええ!!」
僕の声にほぼ全員が驚きの声を上げた。そりゃあ長らくベルトを保持してメディアにも取り上げられてきた人気レスラーが急にヒール転向は驚くだろう。しかし、このままだとレナが他の団体にいってしまう可能性もあるのではないか?それに今回の売り興行は必要だ。
「レナがそれほど試合ができないのなら、このアングルをメインで取り上げられたら地元も盛り上がると思います。」
「·······」
全員が黙り込んだ。売り興行は欲しいがミナミさんの今後の流れも作っておきたい。きっと皆そう考えている。そんな中、ベテランレスラーのマキさんが口を開いた
「いいんじゃない?静岡大会でレナの付き人のユキナもデビューするんだろ?ならレナのマイクアピールでユキナも巻き込んでヒール軍に行くという流れにしてみたら?」
「確かにそれならレナもそれほど試合できなくても目立つことにはなるし、ヒール軍のリーダーを決めて今後の展開を作ることも可能だね。」
マキさんだけでなく、レフェリーの梅田さんも同調してくれた。やはり実際に試合をしている人と、それを間近で見ている人にはレナの気持ちが伝わっているようだった。
「それなら興行主も納得するか···ミナミさんはどう?」
黙っていた社長も口を開いた。その時ずっと黙っていたミナミさんが突然
「なら前と同じくマネージャーみたいなセコンドが欲しいね。」
と言い出したのだ。今までヒール軍にはマッチメイカーの横田さんが悪そうなマネージャーキャラで付いていた。若手のタレントや俳優を使うこともできるが、とにかくお金がかかるため、身内でまかなっていた。
しかし横田さんもガイア山中が他団体に引き抜かれた時に、試合の流れとして、ベルトを取り損ねたガイアをヒール軍が追い出し、マネージャー横田さんも追放というアングルで進めていたので、横田さんは使えなかった。
「田中?お前できるか?言い出しっぺだし」
突然ミナミさんが凄いことを言い出した。
「ぼ、僕ですか!?」
「それいいな!出られる時だけでもいいから!」
社長もノリノリで同調していた。ここで断ればこの流れは無くなるかもしれない···そう思い
「わかりました。僕なりにやってみます!」
と引き受けることにした。これでレナのヒール化アングルが決定したのだった。
長い会議が終わるとすぐさま隣の道場へ向かった。そこにはちょうどレナと付き人のユキナ、さらにヒール軍のアヤ・サトウとカオリが練習していたので
「みんな!ちょっといいかい?」
と全員を集めて説明することにした。まずレナがヒール軍にリーダーとして行くことになり、ユキナもついていくこと。そのままアヤ・サトウ、カオリと合流してヒール軍としてやっていくことなどを説明すると
「ええ!やった!」
「マジですか!?」
と口々に喜んでいるようだった。確か、アヤとカオリはレナとは仲が良かったし、ユキナもレナが可愛がっていたので、同じユニットになって嬉しそうだった。しかしもう一つ言わなければいけないことがあった
「···あと、僕もそこに入ることになったから!」
「·········はい!?」
皆が止まった。
静岡大会当日。無事に売り興行として開催されることになり、僕らはチケットの売上げに悩まされる事もなく、会場に行って試合するだけでよかった。とはいってもレナの地元で、レナ後援会会長の会社が興行主なのでお客さんがかなり入っていた。700人ほどのキャパの会場がパンパンだった。選手達も大入りに気合が入っているようだった。
「第一試合、マキ対ユキナの試合を行います!」
第一試合目が始まると控室に入りジャージに着替えた。とりあえずセミファイナル第四試合目にレナのマネージャーとしてセコンドに付き、レナのヒール転向についていく流れだ。
次々と試合が消化されていく。久々の満員のお客に選手たちもテンションが上がったのか好試合を連発していた。そして遂に第四試合が始まった。
「レナ、アロー広田組の入場です!」
うぉぉ!
凄い声援の中、セコンドとして入場していく。初めての体験だった。選手達はこんな声援の中試合をしているのか···
リングインすると先に入場していたヒール軍チームブラックのアヤ・サトウとカオリがゴングを待たずに襲いかかる。そしてすぐに場外乱闘が始まった。場外乱闘はあちこちで行われお客さんも混乱する。そのスキにまだ5分程しか経ってないが、リングアナが
「10分経過、10分経過」
とコールする。これはあまり動けないレナだが、露骨に少ない試合時間だとお客さんの不満もでてきてしまうため、苦肉の策だった。
リングに試合が移るとレナのタッグパートナーのアロー広田がメインで試合を運び、勝負どころでアローとレナが誤爆をする流れだった。そのまま仲違いを起こしたところをアヤ、カオリコンビにつかれる予定だ。
「行くぞー!」
レナがカオリを抑えてアロー広田がラリアットを打ち込む。
しかし寸前でカオリが回避。レナにラリアットが誤爆した。レナが広田に詰め寄るのを狙い、カオリがレナをコーナー近くで関節技で捕まえ、アヤがアロー広田にパワーボムでフォールに入るが、広田は自力でフォールを返した。しかしその広田に味方であるはずのレナが得意技、ローリングエルボーから旋回式ブレーンバスターでマットに落とした。
「えええ!?」
お客さんからレナのまさかの行動にどよめく。アヤはそのまま広田をフォールしカウント3を奪った。それと同時に正規軍がマットに流れ込んでくる。
「レナ!なぜこんなことをした!」
マキさんがマイクを持って叫ぶ。レナもマイクを持つと
「もう沢山です!この団体でこのまま正規軍にいたらいつまでたってもベルトのチャンスは巡って来ない!私はチームブラックに行ってこの団体のトップを取る!」
おおお!!
お客さんはレナのまさかの行動に戸惑っていたが、レナのトップを取る宣言にお客さんは立ち上がって声を上げた。
(この流れはイケる!)
僕はお客さんの反応にそう感じていた。しかし僕のキツい仕事がここから始まる。
「おい!ユキナ!お前もこっちに来い!一緒にやろう!」
「はい!」
今日デビューしたユキナもレナの元に行く。
「ふざけるな!」
マキさんがマイクを捨てチームブラックに飛びかかった。これを合図に両チームの乱闘が始まる。もちろんマネージャーの僕込みで···
「おらー!テメーら!」
バシッ、ボコッ、ドスッ
なんか肘とか手のひらとかが僕の背中に次々と当たる。中にはお客さんにバレないようにニヤニヤしながら
「田中さーん?痛いよー」
と叩いてくる選手もいた。
「おい、レナ!引くぞ!」
僕の声を合図にチームブラックは控室に走った。正規軍も僕らを追いかけて控室に走る。こうしてしばらく時間を置いてからメインのミナミ対シュガー戦が始まった。痛かったけどお客さんの反応を見たら大成功の興行だった。ただ、セミファイナルが盛り上がり過ぎて少しメインが大人しく感じたのは気にかかったのだが···
静岡大会が終わり、次の大阪大会まで中5日ある。選手達は道場で練習をしていた。僕も事務所に用事があったので、ついでに隣の道場に差し入れをしようと思い、扉を開けた。しかし道場内には
「あんたたちわかってるの!?」
とミナミさんが若手選手を叱る声が響いていた。若手達は直立不動で立っている。未だ体育会系のプロレス団体はこういった事がまだ起きていた。もちろん気を抜くと怪我をする職種である以上、教育は必要だとは思うのだが···
「もういい、各自自主練習!」
入ってきた僕と目が合ったためか、ミナミさんは練習を切り上げて事務所に行ってしまった。すぐにユキナが近付いてくる。
「田中さん、助かりました···」
「誰か何かやらかしたの?」
「いえ、何か最近たるんでいるとかでいきなり···」
なるほど···理不尽なしごきにも聞こえる。しかも先日の静岡大会後から頻繁に起こっているようだ。
「わかった。僕から社長に話してみる」
僕は事務所にある社長室に向かった。社長室は少しドアが開いていたのでそっと近付くと、中から
「最近人気が復活してきたのは良いと思うよ。ただ、あんたは若手の見本にならなければいけないでしょ?」
「いえ、それはわかってますが、あの練習メニューはただのしごきだと思ったので変えただけです」
といった声が聞こえてきた。途中で入るのも会話を止めてしまうと思い、そっと近付いて入るタイミングをうかがっていると
「この間の静岡大会だってメインがまったく注目されなかったし!そこは全選手で盛り上げないと!」
とこの間の大会の話になったので社長が
「まあまあ、次の大阪大会はタイトルマッチだからさ、大丈夫だって」
とミナミさんをなだめ始めたので、そのタイミングで
「お疲れ様でーす!」
と社長室に入った。そして
「次の大会のアングルの打ち合わせでレナ連れていきまーす」
とレナを外に連れ出し道場に戻った。レナに
「なんかミナミさん機嫌悪い?」
と聞くと
「はい、やっぱり静岡大会のメインが盛り上がらなかったからだと思います」
と返ってきたのでそのミナミさんの苛立ちは全選手が感じているようだった。
それから数日間、僕は大阪大会後に予定している茨城、栃木、山梨遠征のチケット売りに走ったため道場に行けなかったが、密かにデビュー後もレナの付き人をしているユキナとトークアプリのIDを交換していたので、何か起きたら連絡してもらうようにしていた。ミナミさんはどうやら時々道場の若手練習に顔を出しては若手を叱っているようだった。しかし大きな衝突にはならず若手も耐えているようだ。しごかれた報告を受ける度に僕はひたすらユキナに慰めの言葉を送った。そして大阪大会を迎えた。
大阪ホールは1000人を収容するホールで僕ら弱小団体にとっては大勝負ともいえる会場だった。とはいっても大日本女子プロやガイナといったメジャー女子団体からの提供試合があったので比較的チケットも売れていた。当日の流れは若手の試合が1〜2試合目にあり、そこから大日本女子、ガイナの提供試合が3と4試合目、僕らのヒール軍対正規軍の試合が5試合目、メインのミナミさん対シュガーさんのタイトルマッチが最後の6試合目だった。
1試合目が始まると僕はすぐに着替えて1試合目に出るユキナのセコンドに付いた。本来はヒール軍のレナやアヤらが付くべきなのだろうが、人気がある選手達のため、試合をしている選手への注目度が下がるのを避けるためだった。ユキナの相手はミナミさん派でミナミさんの最近のお気に入りの若手ユーコ宮田だった。この試合はヒール軍対正規軍の前哨戦ともいえる試合でユーコが勝利を納める予定で進んでいた。しかし試合を決めるフィニッシュホールドであるユーコの飛びつき式の腕ひしぎ固めが不完全にかかり、ユキナがマットに叩きつけられて場外に落下した。
(マズい!)
僕は慌ててユキナの元に走るとユキナを抱えて立ち上がらせようとした。そのままリングに戻ってもらいユーコにフォールしてもらえば形にはなる。そう思っていたのだが、ユーコはリングを降りてユキナの元に走るとまず僕を蹴って引き剥がし、次に意識の朦朧としたユキナに
「ミナミさんの指導がわからんのかー!」
と叫びながらエルボーを叩き込んだ。普段ミナミさんの不満を聞いていたのか、完全にキレてしまっているようだった。そこで
「おら!離れろや!」
僕は咄嗟にユーコの背中にケンカキックを放ってユキナから剥がすとユキナを抱えながら小さく
「リングに上がれるか?」
と話しかけた。
「はい···」
その言葉を信じてユキナをリングに上げた。そして倒れているユーコを立たせると腕と背中を持って勢いよくリングに放り込んだ。
「いいぞー!マネージャー!」
「お前も上がれや!」
なぜかとてもお客さんは盛り上がっていた。ユキナは黒髪セミロングのパッと見大人しそうな女の子なので、茶髪でレスラー体型のユーコと比べるとファン受けはとてもよかった。なので応援はほぼユキナに向けられていた。それもユーコを怒らせる原因となっていたのかもしれない。ともかくレフェリーの梅田さんが小声で
「ユーコ!いい加減にしておけよ」
と少しキレ気味に言ったのが効いたのかユーコは大人しくフォールに入りカウントが3つ入った。すぐさまユキナを抱えてリングを後にする。
「ユキナ!いいぞー!」
「ユキナ!よくやった!」
お客さんは1試合目からかなり熱くなってくれているようだった。僕は手応えを感じつつ控え室に戻った。
控え室に戻るとレナ達が打ち合わせをしていた。試合に出るレナ、アヤ、カオリに対戦相手のアロー広田、peko、清水の6人が集まってマイクアピールのセリフから細かい試合の流れの打ち合わせだ。
「分断作戦の時は1ヶ所にまとまらないように、バラバラかつ1対1の形を取りましょう。」
「15分を過ぎたら私の技が清水に誤爆するのでヒール軍が分断してください。で、レナが清水を仕留める形で」
とヒール軍のリーダー、レナが正規軍の若手清水を仕留める流れで行くようだ。この子達は派閥など関係なく、この団体を盛り上げようとしているのが伝わってきた。
「よし、じゃあ後1試合なのでスタンバイしましょう!」
慎重に打ち合わせした結果、もう第4試合が終わるところだった。僕らは慌てて入場ゲート近くの控室で入場を待った。
「チームブラック、カオリ、アヤ佐藤、レナの入場です!」
レナ達のヒール軍のテーマ曲がかかる。
うぉぉぉぉ!
大きな会場で話題になったレナのヒール転向が重なり、入場だけでもの凄い盛り上がりを見せた。僕と試合を終えたユキナはセコンドとして少し後ろを歩く。3人がリングに上がり名前をコールされると同時にガウンなど入場コスチュームを脱ぐのでそれをリング下に順番にしまっていく。そんな時、横に居たユキナが小さく僕に言った
「田中さん、さっきはありがとうございました。明日の夜とか一緒に食事でもどうですか?」
「あ、うん、いいよ?·····えっ!?」
僕の中で時が止まった。
カン!
ゴングが鳴り試合が始まったが正直試合どころではなかった。ユキナも僕の方を向くことは無かった。そーいえば彼女とかほとんど出来たことなかったな···あれか?女子ばかりの環境における少々ブサ男でもモテる女子校的な現象なのか?そんな事を考えていたら場外に飛び出てきたレナと清水に巻き込まれてリング周りにある柵に叩きつけられた。
「おふぅっ····」
「大丈夫ですか!?」
意識が朦朧としながら立ち上がろうとしているとユキナが僕を抱えた。そして
「控室に戻りましょう」
となぜか悪徳マネージャーが若手レスラーに抱えられながら戻るという変わった光景が生まれた。その裏でアングル通りレナが清水を仕留めて試合が終わった。次がタイトルマッチのためマイクアピールもなくリングを後にしたレナ達にお客さんが殺到したらしい。それで少しタイトルマッチの開始が遅れたようだ。
僕に意識が戻ってくると、誰もいない控室で顔に濡れタオルがのせられていた。その外で話し声が聞こえてくる
「いや〜、ユキナが田中さんをね···」
「わからんわ〜。ユキナならもっといい男選び放題だよ?」
「まあ私らは応援するから」
どうやらレナ達が話しているようだが僕がディスられているのはよくわかったよ。僕は立ち上がると控室を出た。
「田中さん!大丈夫ですか?」
「田中さん!だいじょうぶですか?」
ユキナとカオリがハモった。
「ああ、もう大丈夫だよ。あとカオリ、中途半端に似てて気持ち悪いぞ?」
「田中さん?ユキナはうちらの期待のホープなんで大事にしてくださいね〜」
ニヤニヤしながらレナが僕の肩をポンと叩いた。
「えっ、はい、まぁ···」
僕がしどろもどろになっていると、そこに営業担当の川田さんが走ってきた。
「田中?もう動けるか?すぐに東京に戻るぞ!」
「何かあったんですか?」
「急遽前楽園ホール大会が組まれるかもしれないんだ!」
「ええっ!」
僕は着替えもそこそこに川田さんとまだタイトルマッチが行われている大阪ホールを離れた。その道中聞いた話だと、1800人近くのキャパがあるプロレスの聖地、前楽園ホールが使えるかもしれない。社長もその話に乗り気だということだった。
東京に着くとすぐさま担当者との打ち合わせに入った。社長は大阪ホールにいるため僕と川田さんのみで、決定に関しては社長はすでにやる方向で考えているという事を伝えて欲しいとの事だった。相手の担当者は
「予定していた12日後のオール日本女子プロレスが飛びました。どうやら団体内で分裂があり、主流選手が大量離脱したので試合が組めないとのことでした。そこで日程的にも話題的にもLPWFさんにお願いできればと思いまして。キャンセル料金はもらっているので、使用料は半額でかまいません。一応そちらの社長さんからはやりますといった返答をもらっております」
という話だったので、契約書にサインをして、チケットの手配や細かい時間の打ち合わせですんなり終わった。
終わった旨を社長に伝えようと電話したら社長側はとてもザワザワしていた。
「お疲れ様です社長。無事に打ち合わせ終わりました」
「スマン!ちょっと後でいいか?メインの試合でシュガーさんが怪我していま病院なんだ!」
「えっ!何があったんですか?」
「·····」
切られたようだ。同時に川田さんの元にもレフェリーの梅田さんから連絡が入ったらしく慌てていた。要約するのこうだ。
メインの試合は流れ通りとても白熱した一進一退の攻防になっていたが、シュガーさんの場外への飛び技、プランチャスイシーダをミナミさんとセコンドが受け止め損ねてマットに落下。そこへミナミさんがエプロンサイドからジャンピンストンピングでシュガーさんに攻撃してしまい、シュガーさんは骨折をしたとのことだった。試合はそこでレフェリーにより止められ救急車で搬送された。幸い意識はあるようだが、しばらく試合どころではない。現場スタッフがシュガーさんに付き添い、社長と選手達はこちらへ帰ってきているようだった。
「これはマズいことになったぞ···」
川田さんは青ざめている。それはそうだろう。元オール全女子プロ出身のシュガーさんはどの団体にも引っ張りだこの人気選手だ。フリーでのスポット参戦契約とはいえ、この先シュガーさんが仕事出来なくなったら会社としても業界としても大変なことになる。結局この日は翌日会社での緊急会議が行われることになり、帰宅指示がきた。一応ユキナにもメッセージを送っておいた。
「大変だったね。大丈夫?」
「はい、団体のバスで帰ってます。私やレナさん達は控室にいたので大丈夫ですが、誰も一言も話せない状態です」
「そっか···まあゆっくり寝て帰ってきなよ?」
「はい、ありがとうございます」
団体内も当然だが落ち込んだ空気のようだ。とりあえず明日の会議で今後をどうするか話し合わなければならないようだ。
女子高生レスラーがプロレスを楽しいと心から言える日まで 猫持ち上げると意外と胴伸びる @percussion0923
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。女子高生レスラーがプロレスを楽しいと心から言える日までの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます