第78話 何故こうなる!?
「涼じゃん! 久しぶり~! 夏休みに入ってから初めて会ったね! しかも偶然出会えるなんて!」
「お、おう友里、久しぶり」
「久しぶり! えへへ」
友里はニッコリと笑ったまま俺のすぐ傍まで近づいた後、服の袖を掴んでパタパタとあおぎ始めた。
友里の頬から数滴の汗が流れていることを考えると、どうやらこのショッピングモールについ先ほど着いたみたいだ。中はクーラーが効いていて涼しいが、炎天下の中歩いてきたためか、まだ汗が流れ出ていた。
友里が胸元をパタパタさせるたびに、香水の甘い香りが俺の鼻腔を刺激する。
「いや~、すっごく外が暑くてさ~。まいっちゃうよ~。クーラーがガンガンに効いてて、マジで気持ちぃ~」
「今日の気温は三十八度とかだったから、かなり暑いよな」
「そうそう! この暑さは本当異常だよね。地球温暖化がこのまま進んだら、アイスみたいに地球が溶けちゃいそうだよ」
「来年の夏は今以上に暑くなっているかもしれないと考えると、気持ちが萎えるよ」
「分かるわ~。もうちょっと快適な暑さが良いよね~。ところでさ、涼」
「ん? どうした?」
「……涼は今一人で何をしているの?」
俺は友里のことの言葉に、返す言葉がすぐに思いつかなかった。
友里は俺達の事情——ストーカーのことを知らない。まだ本当にストーカーがいるわけでもないし、ひなみのことも考えて、友里には言っていなかったのだが。
それが裏目に出てしまった……。
どうする? 今ここで言った方がいいか?
しかし、友里はプライベートでここに来ているんだ。そんな時に、いきなり重い話をするのは……。それに、古井さんにも相談をしていない。
こ、ここは一時的に嘘でも言って誤魔化そう……。自己判断で余計なことを言えば、事故りそうだ。
「い、いやー。まあ一人で買い物かな。欲しい物があったんだけど、買えなくてな……。あははははー」
た、頼むからバレないでくれ!
友里は怪しさマックスの俺をジト目で見つめる。そして少し黙った後。
「な~んだ! そうなんだ! てっきりデートの待ち合わせでもしているのかと思っちゃた!」
良かった……。全然疑っていない。俺の隠し事には気が付いていないみたいだ。
しかし、何故俺がデートをしていると疑ったんだ……?
俺は別に女子からモテモテのイケメンでもないのに。俺は疑問に思ったことを友里に聞くと、こう返ってきた。
「いや~! だってさ! 夏休みに一人でベンチに座っていたら、誰かと待ち合わせしているのかな~って。夏の恋愛ってやつですよ、涼さん!」
「俺に限ってそんなことあるわけないだろ……。全然モテたことないし。むしろ友里の方こそ、誰かと待ち合わせしてデートでも?」
すぐ傍にいる友里はとびっきり可愛くて、スタイルも良い。
特に、今の友里はへそだしのトップスを着ているため、スタイルと胸の大きさが露骨に強調されている。そして色気も……。
正直、今の友里を見たら、どんな男でも思わず目が奪われてしまうだろう。現に俺も見惚れてしまったし。
それに友里は男女構わず、陰キャだろうが陽キャだろうが、誰とでも仲良くなれるコミュ力の塊でもある。
そんな彼女なら、想いを寄せる男の一人や二人ぐらいいてもおかしくはない。
この夏休みという期間を使って、誰にも気づかれずに距離を詰めようとする男がいても、不思議じゃない。
そう思っていたのだが、友里は首を横に振って、その可能性を否定した。
「ううん。私なんて別に誰かとデートの予定なんて全くないよ。いや~、共学になったけど、特に何もないね~」
「じゃあ、単純に買い物に来ただけなのか?」
「うん! ちょっと買いたい物があってね。だから一人で来たんだ。すぐ終わる買い物だし、一人でもいいかなって」
ってことは、俺達と予定が重なっていただけなのか。にしても凄い偶然だなこりゃ。
「ねえ、涼」
「ん? どうした?」
「あ、あのさ……」
友里の頬が突然紅色に染まり始め、体をモジモジと動かし始めた。
何か恥ずかしがっている様に見えるな。あれ、もしかして俺今チャックが空いているとか?
いや、家を出る前に確認したし、特に恥ずかしい格好もしていないはず。
俺が自分の身だしなみを改めて確認していると、友里がこんなことを言い出した。
「もしよかったら、私の買い物に付き合ってくれない……?」
「………え? 俺が?」
思わず聞き返してしまった。一秒も待たずに聞き返してしまった。
おいこれまさか。
友里の買い物に付き合わなきゃならないのか? いや、見方を変えると男女が二人っきりで一緒に買い物。
もうこれデートの誘いじゃねぇか! いやいやいやいや! 待て! 落ち着け!
嬉しいが、今はひなみ達のことを守らないとならん!
「い、いやー、でも俺なんかが」
俺がやんわりと断ろうとしたのだが、友里は隙を見せなかった。
「お願い! せっかく夏休みになったし、久々に涼と遊びたい! 今暇みたいだし……」
「し、しかしだな……」
「お願い……ね?」
トロンとした目で俺を静かに見つめる友里。そんな表情で見つめられたら、断ろうにも断れねぇ!
「え、えっと……」
「ね? じゃあ行こうか!」
「え? あっ! ちょっと!」
最後には手をギュッと握られてしまい、そのまま走り始めた。ひなみ達のいる店からどんどん離れていく。
◇◇◇◇
偶然と呼ぶげきか、それとも神様の嫌がらせと言うべきかどうか分からないが、ひなみ達を見守っている途中、友里と鉢合わせてしまった。
俺の仕事はストーカーを特定すること。のはずなのだが……。
友里と出会ってしまい、ひなみ達と別行動になってしまった。
ちくしょう……。何でこうトラブルが起きるんだよ……。
別に友里のことは嫌いじゃない。むしろ友達として本当に最高だと思っている。
だが今じゃない!
こんな美少女と一緒に買い物に行けるなんて、ラッキーとしか言い表せないが、絶対に今じゃない!
タイミングが悪すぎる!
しかしだ、あの誘いを断るなんて非モテの俺には無理だ。ほんのり頬が紅色に染まりながら、上目遣いで俺を見つめ、優しく手を握る友里。俺だって男だ。
さすがに、あんな可愛らしく誘われたら、心がブレてしまう……。
だが、もうやってしまったことはしょうがない。友里には非はないんだ。全ては俺の責任。
タイミングを考えて、友里の元から離れてすぐに古井さん達と早めに合流しよう。
今日の一日の予定は把握している。なら、その行動に合わせて何とか上手く逃げ出そう。
本当にごめん、ひなみ!
「いや~。本当偶然だよね~。一人で買い物はちょっと寂しいと思ってたら目の前に涼がいたからさ~。こりゃもうラッキーだよね!」
友里はルンルン気分で俺の隣を歩き、目的地へと向かう。ひなみ達がいた店から離れた後、俺達は別のアパレルショップへと進んでいる。
ここで友里の買い物に付き合った後、すぐにひなみ達と合流しよう。
「これから行くアパレルショップでどんな服を買うんだ、友里?」
俺がそう聞くと、友里はニヤニヤと笑い出した。
「お~。気になる? 気になっちゃう?」
「え、まあそりゃね」
「じゃあヒントだけ教えてあげるよ」
「ヒント?」
俺が聞き返すと、友里は可愛らしく片目を閉じてウィンクをする。そしてその後、俺の耳元で小さくこう囁いた。
「男子がぜ~たい喜ぶ服だよ?」
友里の甘い声に俺の体はビクッと反応してしまった。それと同時に鼓動が一気に速まる。
友里の香水の香りとその囁き声に、俺の体は過剰に反応してしまった。
何だよ、この小悪魔みたいな接し方は! 余計なことまで考えちまうだろ!
しかし、男が喜びそうな服か……。喜びそうな服って何だ?
男だけど全然思い当たる節がない。全く分からないな。季節は夏。だから夏に似合う服とか?
例えば、生地が薄くて真っ白なワンピースとか? いや、でもそれが男を喜ばせる服なのか?
可愛いと思うけど、なんかちょっと違う気がする。
隣でニヤニヤしている友里を見ると、なんかこう……。男の弱点を知っての発言だと思う。
「そのヒントだけじゃ、さすがに分からないな」
「これ以上のヒントはもう出せないな~。あ、でも涼がイメージしている服とは違うかも」
「え? そうなの?」
「うん! この季節でしか着られない服装というべきかな?」
「な、何だ……? 全く分からん!」
「いや~。涼はまだまだ鈍いですね~。まあ、知りたかったら、お店の試着室まで待ってね! ふふっ。涼は絶対喜ぶと思うよ」
「そんな自信満々で言うのか。逆に気になって今答えを知りたいぐらいだ」
「ダ~メ! えへへ」
俺はその後も歩きながら考えたのだが、やっぱり分からなかった。
友里は一体どんな服を?
◇◇◇◇
それから数分後、友里が行きたかったアパレルショップに到着。
早速店内に入ろうとすると、友里が俺の服の袖を掴み、動きを止めた。
「あれ? 入らないのか?」
「勿論入るよ。でもさ、ちょっとサプライズというか、涼の驚いた顔が見たいから、目を閉じてて欲しいな~」
「え、試着室までずっと目を閉じていないとダメなのか?」
「大丈夫! お目当ての服は既に決まっているし、試着室まで行くのにそんなに時間はかからないから! すぐに終わるから! ね?」
「わ、分かった。じゃあ目を閉じておくよ」
俺は友里の頼み通り、ゆっくりと目を閉じた。視界が暗くなると、友里がギュッと俺の右手を握り始めた。
「じゃあ行こうか! 絶対にそのままにしててね!」
友里は一言俺に飛ばすと、そのまま店内を歩き始める。今どこにいて、どのコーナーにいるのか全く分からない。
テキパキと店内を歩いていると、『お、お目当てのがあった!』という友里の言葉が聞こえ、俺達は足を止めた。
「やっぱり可愛いね~。こりゃ夏に最高だね!」
うきうきとした友里の声が聞こえた後、俺達は再び歩き始める。そしてそのままとある場所に着くと、友里が一声かける。
「涼~。もう目を開けていいよ~」
俺はゆっくりと目を開けると、試着室のカーテンを一部開け、顔だけ出してこちらを見つめる友里が目に入った。
カーテンの隙間が狭くて、友里がどんな服を選んだのか全く見えないが、それでも彼女の顔を見ていると、相当興奮していて嬉しそうなのが伝わってくる。
「友里、お目当ての服はどうだった? 可愛かった?」
「勿論! 私に似合うと思う! 今から着替えるからちょっと待っててね!」
「了解」
友里はそのままカーテンを完全に閉め、鼻歌を口ずさみながら着替えを始めた。
さて、友里は今着替えているから、絶好のチャンスだ。
俺はポケットにしまったスマホを取り出し、そのまま古井さんのLINEに連絡を入れる。
『すまん、古井さん。ちょっとハプニングが起きて、はぐれてしまった……』
俺がメッセージを送ると、古井さんはすぐさま既読して、返信してくれた。
『何? ハプニングって? まさかストーカーでも現れたの?』
『いや……全然違う』
『じゃあ何?』
『あのですね……。偶然友里と出会ってしまって、そのまま彼女と行動を共にしている。今二階のアパレルショップにいるんだ』
『……は?』
ですよねー! そういう反応になりますよねー。
きっと今の古井さんは、眉間に皺を寄せて、顔の血管中が浮き彫りになっているに違いない。絶対に激おこモードだ。
『いや、断ろうとしたんだが、友里のペースに飲まれてしまい、そのまま引っ張られてしまった……。ごめんなさい』
『はぁー。まあいいわ。どうせ何かトラブルでも起きるだろうと、予想していたからね。タイミングを見て私達のところに来なさい。いい?』
『分かった。本当にごめん。今のところ平気?』
『以上はなし。周囲を見ても、特に怪しい人はいないわ』
『良かった。俺も早く合流するから』
『ええ。じゃあ』
と、ここで俺は古井さんとのやりとりを辞め、スマホをポケットにしまった。
俺のせいでこんなことになってしまったが、もう後悔していられない。このまま不機嫌な態度でいたら友里に失礼だ。ここは友里との買い物を楽しみつつ、すぐにひなみ達の元に行かないとな。
そう考えている時だ。試着室から友里の弾んだ声が聞こえてきた。
「涼~。着替えが終わったから開けるね~」
「おう。全然いいぞ」
俺がそう返事をすると、友里はゆっくりとカーテンを開け、俺の前に姿を見せた。
その瞬間。
あまりの可愛さと、そしてセクシーさに俺の体はピタリと固まってしまった。
夏用のワンピースや少し肌の露出が多い服でも着てくるのかと思っていた。
しかし、実際は違った。
友里が今着ているのは俺が想像していた服とはかけ離れていた。
夏に女性が着る服。それも男を惑わす物。
その正体は……水着であった。
ひなみ達に続き、友里もまた水着が欲しくてここに来たらしく、お目当ての物を俺の目の前で着ているのだ。
上下ともにピンクの紐ビキニで、一見すると可愛らしい。しかし、その布面積がとても少ない。先ほど見たひなみ達のと比べると、だいぶ布面積がない。
つまり、肌の露出が多く、思わず海辺ですれ違ったら二度見してしまうほど、大人のセクシーさが漂っていた。
「どうかな? 似合う? サイズはちょっと小さめなんだけど、大丈夫かな?」
大丈夫かな? じゃねぇだろこれ! あかーん! これは直視できない!
こんなの長時間見ていたらおかしくなりそうだぞ。
ひなみはスタイルの良さと清楚さを出した、大人の女性としての綺麗さを強調していた。
古井さんは体が小さく幼い見た目を活かした、ロリ系の水着を着ていた。一方で友里は、クラスの女子の中でも背が高く、胸もあってスタイル抜群。その点を活かして、セクシー路線の水着を選んでいた。
凄いなおい。仲良し女子三人共、水着の系統がまるで被っていない……。
友里がここまで攻めるとは少し驚きだ。
「良いんじゃないかな……? お、俺はそれでも」
直視できるはずもなく、俺は目を泳がせながらなんとか答える。
しかし、俺の目が右往左往していることに違和感を抱いた友里はさらに問い詰める。
「涼~。ちゃんと見ているの? ね~?」
試着室から出て俺の目の前までグッと距離を縮める。体が動くたびに、友里の胸がプリンの様に上下にプルンッと揺れ動く。
俺はそれを間近で見て、さらに気が動転しそうになってしまうが、唇を噛みしめてどうにか理性を保つことができた。
「ほ、本当に似合っているよ! マジで可愛いと思う!」
「ガチですか、涼さん!」
「う、うん! 良いと思う」
「なるほど~。ではずばりどの辺が良いと?」
友里はまるで俺の反応を楽しむように、答えにくい質問を飛ばしてくる。
ちくしょう。素直に『理性が崩壊しそうなほどエロいです』なんて言えるはずがない。
「そ、そうだな……。友里って身長が結構女子の中でも高い方だろ? スタイルも良くて身長が高いから、それがより強調されていて魅力的だと思う」
俺が苦し紛れにそう言うと、友里の顔から『プシューッ』とやかんに入れた水が沸騰する際の音が聞こえた。
あれだけ俺をからかう様なことを言っていたのに、いざ俺がストレートに褒めると動揺するとは。
ヤバい、可愛いじゃねぇか!
いつの間にか、顔だけでなく体全体が真っ赤になる友里。
「あ、ありがとう……涼」
「いいよ。逆に俺なんかに見せていいのか? 勝負水着って感じがするけど」
友里が今着ている水着は、女子の間で楽しむ物、のレベルを超えている気がする。
狙っている異性を落とすための勝負水着という方が、俺にはシックリくる。
これだけ肌の露出が多くて、結構振り切っている水着を、女子だけの中で見せるのは正直考えにくい。
「ま、まあね~。私は全然涼になら見せてもいいよ~」
「お、おう。そう言ってもらえると俺は嬉しいよ。で、夏休み中に水着でも着て遊ぶのか?」
「秘密~。涼には教えませ~ん!」
「おい、何で俺に教えてくれないんだよ……」
「女の子の秘密は詮索しないの! まあ、とりあえずこの水着を買おうかな! 涼に似合っているって言われたしね! ありがとう、涼!」
最後にとびっきりの笑顔を見せると、友里はそのまま試着部屋のカーテンを閉める。
まさか三人の水着を一日で見ることになるとはな……。
しかし、同じタイミングで三人が水着を買うってことは、近いうちに海やプールにでも行く予定があるのかな?
まあ、彼女達に比べて、俺は全くのフリー。学生というにも関わらず、夏休み中の俺の私生活はだらけきっている。一日中ゲームをしたりアニメを見たりと。
もうただのニート生活と変わらん……。
妹にも『おにぃ、ずっと家に居すぎでしょ? キモいんだけど?』と言われてしまったし。
友里やひなみ達が羨ましいな……。
――――
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