第77話 水着だと!?

 時は流れ、ついに作戦当日を迎える。

 古井さんの作戦を元に、俺達はストーカーを誘き出し、そして捕まえる。

 古井さんは傍でひなみを守り、一方俺は怪しまれない様に二人の後を尾行し、ストーカーがいないか確認する。

 この作戦が上手くいけば、ストーカーの野郎を捕まえることができる。


 俺は自室で等身大の鏡を見ながら、帽子を被り服装をチェックする。

 下は薄めの黒の長ズボンに、上は白のTシャツ。そして目が隠れるギリギリまで帽子を深く被る。

 他の人からすれば、顔は見えづらいだろうが服装はそこまで変じゃないはず。

 一人で買い物に来たただの男、というのが周囲の印象だろうな。


 これなら大丈夫だ。俺はそのままスマホと財布を持ち、部屋を出る。そして、古井さんに『準備オッケー。これから向かう』と文字を送り、家を出た。



 ◇◇◇◇



「うわー! 見て見て古井ちゃん! この服すっごく可愛くない⁉ って、あっちにもオシャレな服があるよ!」


「ええそうね。でもちょっと落ち着きなさいって。もう……。手を引っ張らないでよ」


 ひなみは古井さんの注意を無視しながら、彼女のお手をグイグイ引っ張り、店内のあちこちを歩き回る。

 俺が家を出てから、既に一時間近くが経過した。

 ストーカーがいつどこで俺達を見ているのか分からないので、下手に合流はせず、最初から別々で行動をしている。

 ショッピングモールの最寄り駅で古井さんとひなみは二人だけで合流。そのままショッピングモールまで行き、俺はその後を静かに尾行している。


 そして今はショッピングモール内に置いてあるベンチに座り、スマホを触るふりしながら、適宜二人の様子を見ている。声がギリギリ聞こえる範囲にベンチがあるため、二人が話している内容は聞き取れる。


 既に一時間は過ぎているのだが、今のところ怪しい人影は見当たらない。

せいぜい、すれ違う人達が『おい、何だあの美少女は?』とざわつくぐらいだ。まあ、ひなみや古井さんを見慣れていない人からすれば、あんな美少女が二人して歩いているわけだから、気にしないはずがない。


 周囲の視線が若干気になりつつも、二人は作戦通り普通に買い物をしている。


「うわー! 見て古井ちゃん! この服もすっごく可愛いよ! 迷っちゃうなー」


 ひなみは手に持っている二枚の服をじっと見て、どちらがより自分に似合うかチェックしている。

 目をキラキラ輝かせているひなみを見ていると、昔のことを思い出す。

 古井さんに無理やりデートをさせられたあの日、ひなみはウキウキしながら可愛い服を選んでいたよな。ひなみは天然で少しドジな一面もある。

 でもまあ、自然体に振る舞えているし、傍には一応古井さんもいるから大丈夫か。


「どれもひなみに似合うから別に良いんじゃないかしら?」


「もうちょっとちゃんと見てよー。古井ちゃん!」


「はいはい。でもひなみ。そろそろ、『あれ』を買ったらどうかしら……?」


「ああ、そうだね! 元々考えていたから、そろそろ試着しようかな!」


 ……え、あれ? あれって何だ?

 ひなみが言っていた『あれ』の言葉の意味がよく理解できなかったが、まあいいか。

 ひなみのファッションショーは前のデートで既に慣れている。

 確かにひなみのファッションショーの破壊力はヤバい。『千年に一人の美少女』と呼ばれるぐらいだから、基本的にどんな服も似合う。

 だが、その中でも特に彼女にピッタリの服を着るとどうなるのか。もう正直に言って、理性がぶっ壊れそうになる。


 良い意味で破壊の塊だ。

 でも、今回はそれを逆手にとって、異様に食いつく怪しい男がいたら、ストーカーの可能性が高い。


「じゃあ古井ちゃん、待っててね!」


「はいはい。早くしてよ」


 ひなみはそう言うと、そのまま何枚か服を持って試着室に入ってしまった。目を凝らしたが、やっぱり距離が少しあるため、はっきりとは見えなかった。

 一体どんな服を着るんだか……。

 俺はひなみが出て来るまでの間、もう一度店内、そして周囲の人達に目を向ける。

 ひなみの可愛さに目が釘付けになっている人はいたが、どの人も見た目からして怪しさはなかった。 


 見た目で判断するのもよくないが、大学生や俺と年の近い学生ばかりで、正直あんな投稿をするストーカーには見えない。どの男も陽キャオーラ全開だ。

 多分、捜査線上から外しても大丈夫だ。それ以外でだと、特になし……だな。

 俺が周囲を警戒している時だ。


「じゃあ古井ちゃん開けるねー」


 ひなみの弾んだ声が俺の耳に届いた。俺はどんな服を着ているのか興味本位で見ていたのだが……。

 俺は後悔してしまった。

 もっと正確に言うなら、見てしまったことに対する後悔ではなく、油断してしまったことに対する強い後悔だった。


「どう古井ちゃん! 似合うかな⁉」


 そう言いながら現れたひなみの姿は……。


 水着姿だった。


 ああああ! 目がぁぁぁぁぁぁ!

 何でただ水着を着ただけなのに、あんなにも神々しいんだよっ⁉

 俺はひなみの可愛らしい姿と、普段の生活では見えない部位——へそや脇、太ももなどに、理性が破壊されそうになってしまった。

 目を瞑って直視しない様にしたことで何とかなったが、ありゃ破壊の塊だ。

 目をつぶっていても、ひなみの方角から眩しい光を感じる……!

 それに、この反応はどうやら俺だけじゃないみたいだ。


 試着室から出た瞬間、店内にいる女性店員ですら畳んでいた服を無意識に落とし、ひなみの方を直視していた。

 胸の色気がダイレクトに伝わる水玉模様の水着。それにプラスして、ボトムの方はもうあと少しズレたら見えてしまう、というぐらいのスレスレまで攻めた物になっていた。


 ひなみは決して狙っているわけではない。だが彼女は天然だ。

 今の自分の格好がどれほど男達の目を奪うのかまるで分かっていない。

 天然って本当に怖いな、おい……。あれの正体は、水着だったのか。

 今は夏休みだ。水着を選んでもおかしくはない。


 ひなみはピョンピョンと試着室で跳ねながら、そのまま一回転する。たぶん、動きやすさとかをチェックしていると思うのだが、俺からしてみると胸が上下に激しく揺れて、目のやり場に困る……。


「まあ良いんじゃない? 似合うと思うわ」


「本当⁉ やったー! じゃあこれにしようかな! プールの時が楽しみ!」


「そうね。ま、ひなみなら何を着ても似合うから、羨ましいわ」


「そんなことないよー! 古井ちゃんだって可愛いじゃん! 小さくてお人形さんみたいに綺麗な顔だから羨ましい!」


「でも、身体的な成長は負けているわよ……。はは……」


 古井さんは目の前にあるひなみの胸を見るなり、虚しそうにそう呟く。

 確かに古井さんもとびっきり可愛いが、身長は小さくて、胸も正直……。だからひなみと古井さんとでは、似合う系統が違う気がする。

 大人の女性としての綺麗さと、小柄を活かした可愛さは、別物だと思う。


「じゃあ、とりあえず水着はそれで決定ね。他に買う物はあるかしら?」


「ううん! このお店で買いたいのはこれくらいかな! 大丈夫!」


「そう。じゃあ、着替えたら別のお店で次の物を買いましょう」


「うん!」


 さて、会話を聞く限り別の店に行くみたいだな。

 確か次に向かうお店はどこだっけな?

 俺は古井さんとのトーク履歴を遡り、次に向かう店の確認をする。一応、今日の行動プランに関しては、事前に古井さんから聞いている。最悪、はぐれてしまってもすぐに見つけられるようにな。

 えーと、次はこことはまた別の洋服店に行くのか。

 本当、女子って服が好きだよなー。次のお店では何の服を買うのやら……。


「じゃあ古井ちゃん、着替えるからちょっと待ってて!」


「はいはい。なるべく早くしてね」


「勿論! あっ! そういえば」


「うん? どうしたの?」


 ひなみは試着室のドアを閉める直前、何かを思い出したのか、動きがピタリと止まる。

 そして古井さんの顔をジーッと見た後、こんなことを言い出した。


「古井ちゃんの水着も選ぼうよ!」


 この言葉に、珍しく古井さんの体がピタリと止まった……。

 そして顔から感情が全て消え、人形の様に無表情となっていた。急な展開に動揺し、考えが追いついていないみたいだ。珍しい……。

 あの表情から察するに、俺に見られるのを戸惑っている感じか?


「……え、いや、私はいいわよ。ほら、早く着替えて」


「でも古井ちゃん、ここしばらく水着買ってないでしょ? 今日新しいの買おうよ! 絶対可愛いのがあるよ!」


 ひなみ! その台詞って『しばらく成長していないから水着を買わなかった』という意味に繋がるぞ⁉

 ヤバい。ひなみの天然さが古井さんの顔をどんどん赤くしていく。

 普段は全く動揺せず、むしろ人をいじめるのに快感を覚えているあの人が……。

 耳まで真っ赤になっているじゃねぇか!

 ひなみ、お前はやっぱり凄いよ。天然だからこそできることだよ。


「いいから! 私のことはまた今度!」


「ダーメ! せっかく時間あるんだし買おうよ! ね?」


 水着姿のひなみは可愛らしく首を傾げ、古井さんの反応を伺う。ひなみの天然さとそしてその可愛さに心が折れたのか、


「わ、分かったわよ……。馬鹿」


 古井さんは恥ずかしそうに声を震わせながら、承諾したのだった。


「やったー! じゃあすぐに着替えるから、待っててね!」


 今度こそひなみは試着室のドアを閉め、着替えを始める。

 第三者から見たら、今どきの女子高校生が水着を選んでいる様に見えるはず。だから、ストーカーの男には警戒はされないと思うから、そこだけは良い。

だが、俺は正直困っちまうよ……。

 監視しなきゃいけないから、目のやり場に困るじゃねぁか。


 でも、今のところ不審な人物はいないし、ひなみにとってこの買い物は良い息抜きにもなるだろう。

 ここはしっかりと自分の仕事をやりつつ、ひなみの気持ちも優先するか。

 少し待つと、ひなみが元の服装に着替えており、試着室から出てきた。

 そのまま古井さんの手を掴み、店内の水着コーナーをあちこち回り始める。


「古井ちゃん! この服とか絶対に似合うよ! 試着して! あ、あとこれも!」


「いや、そんなに私は似合わないわよ、ひなみ。って、これも試着しなきゃいけないの?」


「うん! 今度の旅行のためにもね!」


「い、いやでも……!」


「大丈夫! 古井ちゃんなら絶対に似合う!」


 夜空に浮かぶ星の様に、目をキラキラと輝かせるひなみ。彼女の熱量と輝かしいその眼差しに心が折れた古井さんは、深いため息をする。


「はぁー。分かったわ。じゃあまた試着するから、必ずここにいてね。絶対に単独行動しないでね」


「分かった! 大丈夫だから!」


 古井さんはそのままひなみから服を受け取り、そのまま試着室へと入って行った。

 その直後のことだ。俺のスマホに電話がかかってきた。相手は見るまでもない。古井さんだ。


「もしもし。俺だけど」


「私よ。どうかしら? 今のところ、変な男はいた……?」


「いーや。特にこれといって。ひなみと古井さんが二人で歩いているから、男どもの目が釘付けになっているのが、気になるぐらいかな」


「そう。それならいいわ。でも油断はしないことね。いつ現れるかなんてわからないし、少しでも怪しい行動をする人がいたら、すぐに電話をしなさい」


「分かっているよ。大丈夫」


「そう。あ、あとそうだわ」


「うん? どうしたの?」


「私が試着室から出てきたら、その時だけ目を必ず背けなさい」


「………え? お、おう」


「これは命令よ。もし見たら……分かるわよね?」


 あ、これ社会的に殺されるやつだ。絶対に見ちゃいけないやつだ。古井さんの逆鱗に触れたら、俺はもうこの世界で生きていくことはできなくなる。

 ここは素直に従っておくべきか……。

 しかし、気になる……。分かっていても、気になってしまう! 

 悪い古井さん。人間ってのはな、見ちゃダメと言われるとかえって見たくなってしまう生き物なんだ。


「分かった。見ない様にする」


「約束よ。約束を破ったら覚えておきなさい」


 口ではそう言っているが、古井さんがどんな水着を着るのか気になるから、その約束……。

 破らせてもらうぞ! 

 俺は電話を切り、再び目線をひなみ達の方に戻した。

 さーて。試着室から出てきたら、一体どうなっているのか……。


「じゃあひなみ。開けるわよ」


「うん!」


 ひなみがそう言った直後。

 ボトムがスカートタイプの水着を着た古井さんが、照れくさそうに試着室から出てきた。 

 いつも冷静で大人っぽい雰囲気を出しているあの古井さんが、あんな水着を着ているとは……。

 普段の雰囲気とは違ったギャップがあって、とても新鮮だと思いつつ、高校生にしては小さい体をしているため、スカートが余計にがロリッぽさを強調している……!

 ひなみが大人の女性としての魅力があるなら、古井さんはゴスロリ的な感じの魅力がある……。


 ハマる人にはハマりそうだな、ありゃ。


「うわぁぁぁぁー! めっちゃ古井ちゃん可愛いよ! うん! 似合う似合う!」


「そんなに大声出さないでしょ。恥ずかしいでしょ」


 体をモジモジ動かしながら顔を下に向ける古井さん。

 俺はつい顔を真っ赤にしている古井さんを見ていると、急に彼女が俺の視線に気が付いたのか顔を上げ、こちらを直視してきた。

 恥ずかしさと屈辱を感じさせる目を向け、俺を睨みつける。

 …………。

 あ、ヤバい。

 バ、バレたぁぁぁぁ!

 見るなって言われたのに見てしまって、しかもそれがバレてしまったぁぁぁぁぁ!

 毛穴から冷や汗が滝の様に流れ出る。そして古井さんは潤んだ目で俺の数秒間睨んだ後。


「あとで始末するから……。絶対に逃がさない」


 と、口パクで俺にそう言ってきた。

 あー、これは終わったわー。やっちまったぜ。

 明日の俺、多分生きてないな……。

 しかし、よくよく考えると、これはむしろお釣りが出てもおかしくないのでは?

 だってあの『千年に一人の美少女』であるひなみの可愛らしい水着を見ることができ、さらに古井さんのまでも拝見することができたんだ。

 これは始末されてもプラスになるのでは……。


 いやいやいや。何を考えているんだ俺は。

 古井さんの恐ろしい反撃により、俺の未来はお先真っ暗だろ。

 好奇心は時として身を亡ぼすのか……。

 その後も、二人は別の店に移る前に普段着の方も何着か着替え、買い物を楽しんでいた。

 俺はその姿を遠くから見守っている時だ。


「……あれ? もしかして、そこにいるのは涼……?」


 唐突に、俺の背後から誰かが名前を呼んできた。この声、聞き覚えがあるぞ……。

 俺は体をゆっくり後ろに向けるとそこには……。


「え⁉ 友里⁉」


 私服姿の可愛らしい友里が俺のすぐ後ろに立っていた。

 な、何故友里がここに⁉ しかもこのタイミングでか!


――――

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