第74話 夏休み
ひなみがストーカーに狙われてから、あっという間に時が経過し、とうとう夏休みに突入してしまった。
登下校の際は必ず俺と古井さんがベッタリとくっ付き、行動を共にしていたかいがあったのか、ストーカーらしき人物は一人も見かけなかった。
一件落着、と言いたいところだが、正直まだストーカーがひなみを諦めたかというと、そうでもない。
まだひなみのことを狙っている可能性は非常に高い。
高校生活初の夏休みだというのに、どうにも気持ちが落ち着かない。
俺はクーラーでキンキンに冷えた自室で、気持ちを紛らわせるために、音ゲーをプレイする。
ひなみが狙われている理由は、恐らくあの美貌だろう。
草柳の件もあって、また全国各地でひなみが話題となっていたし、変な奴に目を付けられても、おかしくないかもしれない。
だが、夏休みとなるとさすがに常に行動を共にすることは難しいし、ずっと傍にいるのも困難だ。
現に夏休みが始まってから既に一週間ほど経過しているが、ひなみとまだ会ってすらいない。
本当、何でトラブル続きなんだろうな、俺の高校生活。
正体をバレないように隠れて生活するつもりが、こうもトラブルが続くとは……。
と、そんなことを考えていると、音ゲーの方がだいぶ盛り上がってきた。
もうそろそろしたら、難しいパートに入る。ミスなく乗り越えれば、パーフェクトの称号を得られる。
よし、もうそろそろしたら鬼パートだ。気合入れないとな!
俺は少しワクワクしていたためか、スマホを握る力が強くなっていた。
心の準備はオッケー。さあ来い!
そう思った直後。
リリリンッ!
スマホが着信音と共に振動し、俺の音ゲーの画面が突然着信画面に変わっていた。
相手は妹の美智香だった。
………………。
ちくしょうまたかよ‼ この展開何回目だよ!
何故いつも肝心な時にこいつは部屋に入ったり電話をしたりして、妨害するんだ!
一体なぜ⁉ 嫌がらせなの⁉ 実の兄を苦しめる鬼なの⁉
「はい、もしもし。何の御用ですか、美智香」
「おにぃ。電話。出て」
「……え? いや、今電話に出ているのだが……?」
「だから、家の固定電話の方に電話が来たから、連絡してんの。察してよ、アホ」
「……はい? ちょっと待て。俺に電話が来ているのは分かった。そして相手も大体予想がつく。だが何故家にいるお前は俺を電話で呼ぶんだ? その意味が分からん。いつもみたいに部屋に入って知らせればいいだろ?」
俺の両親は現在不在だが、美智香と俺が家にいる。つまり、何か俺に連絡することがあるなら、わざわざ電話をする必要がない。口頭で十分なはず。俺のスマホに電話をする意図がさっぱり分からん。
兄として妹の行動理由が全く分からなかったのだが……。
妹の美智香は衝撃的な言葉を発した。
「え? いや、普通におにぃの部屋に行くのだるい。ってか入りたくない。ってかなるべくおにぃの存在を目視したくない」
「酷い言葉を三連発も喰らって、お兄ちゃんもうHP切れで倒れそうなんだけど? まだ午前十時だよね? 何でこんな朝っぱらから、HP削られることを言われないといけないんですかね?」
「だって、おにぃめんどくさいんだもん。電話越しでも超だるいし」
ははー。なるほど。つまり、あれだ。
美智香は俺と顔が見たくない。部屋に入りたくない。直に面と向かって話すのがだるい。
という理由で、美智香はわざわざスマホを通して俺を部屋から出そうとしているわけだ。
しかも音ゲーをしている時に。
よーし、分かった。用が片付いたら美智香には説教が必要だな、こりゃ!
「あー。はいはい。分かった。分かりましたよ。お兄ちゃんは部屋から出て家の方の電話に出ればいいのね」
「よろ。私この後友達と遊ぶから、風呂掃除と洗濯物とトイレ掃除よろしく。じゃ」
「っておい! 何しれっと家事全部俺に丸投げしてんだよ! 電話がきていることを知らせてくれたのはまあお礼を言うが、家事はお前も一部やるんだ!」
「いや、やったし」
「何をやったんだ?」
「朝食の皿洗い。自分のだけ」
「それやったにカウントされるの⁉ 自分のだけじゃん! せめて俺のもやってよ!」
「いや、普通に無理。じゃあおにぃ。後はよろしく。どうせ暇人でしょ? もしやらなかったら、お仕置きだからね」
「その台詞、本当は俺が言うべきじゃないのか? 何故美智香が言うんだよ……」
「じゃ、バーイ」
美智香はそう言うと、いきなり電話を切ってしまった。そしてそのまま玄関のドアがガチャリと開く音が聞こえた。
あの野郎……。めんどくさいからって、家事全部を俺に丸投げして友達と遊びに行きやがった。
ちくしょうー! 確かに俺は暇人だが、この扱いは酷いぞ、我が妹よ。
はぁー。でもあいつもう家出ちゃったし、文句を言っていても仕方がない。
俺は渋々部屋を出て、受話器の前に行くと、保留ボタンを押してから耳を当てる。
「……妹にこき使われている慶道涼ですが? 古井さんだよね」
「テンションが低いわね。その声を聞いていると、私の方まで気分が下がるんだけど?」
俺がしょんぼりしていると、受話器越しに古井さんがそんな言葉をかける。
相手は分かっていた。どうせ古井さんだと。というか、古井さん以外にありえない。いつもお決まりのパターンだ。
「それで古井さん。今日は何の御用でしょうか?」
「何で敬語なのよ」
「いや、まあ気分で……」
「あっそう。まあいいわ。君、今日暇だよね? ひ・ま・だ・よ・ね?」
古井さんは最後の言葉だけやけに強調して言う。
そして電話越しだが圧を感じる。お前絶対今日暇人だよなって言う感じの圧が、受話器越しから感じる。
うわー、嫌な予感しかしない……。ってか古井さんが電話してくる時は、だいたい何かあるもんなー。
「いえ。すみませんが今日は」
「そうよね。今日は暇人だよね。じゃあちょっと付き合いなさい」
「うん、まだ途中までしか言えてないんだけど? 人が話している時に、急に喋られないでくれます、古井さん?」
「何よ、もしかして今日本当に予定でもあるの?」
そう言われると、返す言葉がない……。
本当のことを言うと、今日の俺は絶賛暇人だ。もうやることが無さ過ぎて、暇を持て余している。
塾には入っていないから夏期講習とか特にない。入塾しなくても夏期講習だけ受けられるサービスを親から勧められたが、俺は全部断っている。去年は受験生だったから、今年の夏ぐらい、勉強漬けの生活をしたくない。
また、学校の宿題も八月の後半ぐらいから始めれば終わるはず。
塾にもいかず、宿題も後回しにしている帰宅部の俺にとって、夏休みは予定がある日の方が圧倒的に少ない。
しかしだ。一日やることがなく、ダラダラできる日々を俺はなるべく無駄にしたくない。
悪い古井さん、一体何の用で俺に電話してきたか分からんが、よっぽどのことがない限り、断らせてもらうぜ。
「ああ、まあ一応……。というこ」
「じゃあ、今日の夜十八時に集合ね。よろしく」
「今までの会話の流れからいつ予定が決まった⁉ まだ何も話してないよね? あと、俺が話すとしている途中で、急に話さないでくれません⁉」
相変わらずの古井さんのペースに、俺は思わずツッコミを入れてしまった。
古井さんは自分にとって都合の悪い情報が頭の中に入ると、自動で弾き返すシステムでも備わっているのか?
俺が断ろうとしても、すぐに無視して勝手に予定とか決めちゃうし……。
「別にいいじゃない。暇人な君に、私がお食事に誘ってあげるのよ? 少しは感謝して、承諾しなさい」
「遊びの用って、夜ご飯を食べることかよ……。しかし、何で急に夜ご飯を?」
「気分。あと、リアルで君をいじめたい」
いや……少しは本音を隠してくださいよ、古井さん。
別にツンデレヒロインみたいに『べ、別にあんたとご飯を一緒に食べたくて誘った訳じゃないんだからね! 勘違いしないでね!』という感じの台詞は求めてないけどさ。
よくもまあ、ここまで自分の欲を正直に話せるな……。
「その理由で俺が承諾するとでも?」
「えぇっ⁉ しないの⁉ どうして⁉ 何かあったの⁉」
「普段なら喜んで承諾するのに、今日はどうしたのって感じのリアクションしないでくれません⁉ 確かにいつも古井さんからいじられてるけど、別にそこまで落ちてないから!」
「深刻だわ……。きっと禁断症状でも起きているんだわ。すぐにでも病院に」
「いや別に禁断症状とかないから! 夏休みに入って古井さんのいじりがなくなったからといって、幻覚作用とか出るわけじゃないから!」
「今君が住んでいる国名とか答えられる? 今が令和何年か分かる?」
「あの……、人をおちょくるのもいい加減にしてくれません、古井さん? そろそろ電話切りますよ?」
俺がそう言うと、古井さんは『ちぇ』と言い、話題を元に戻した。
「話が脱線したけど、今日の夜十八時にちょっと外食に付き合ってくれない? 元々気になっていたお店があってね。そこで色々と話し合いたいことがあるから」
「何故俺なんだ……。ひなみや友里がいるだろう」
「まあ彼女達でもいいけど、君は全国の男子高校生の中でトップクラスな暇人でしょ? だからまあ、誘うなら君の方が良いかなと思ってね。あと」
「あと?」
「ひなみのスカートの件で少し話したいから。だから今日の夜にご飯でも食べながら、どう?」
なるほど。本題はひなみのストーカーの件だったのか。
「はぁー。分かった。古井さんに付き合うよ」
「ありがとう。助かるわ。暇人な慶道涼さん」
「うるせぇ。古井さんのバーカ」
「随分と可愛い暴言ね。可愛いから許してあげるわ」
「そりゃどうも」
「ええ。じゃあ、集合場所なんだけど」
夏休みの最初の予定がたった今決まった。
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