第73話 ストーカー撃退しますか!

「な、なにぃぃぃぃぃ⁉ ひなみにストーカーが⁉」


「声がデカすぎ。鼓膜が破れそうになったじゃない」


 古井さんの口からストーカーという言葉を聞いた俺は、思わず大声で叫んでしまった。

 夕食後、自室でゴロゴロしていると、突然古井さんから電話がかかってきた。

 恐る恐る古井さんからの電話に出てみると、話の内容はひなみのストーカーについてだった。

 ヤリチンクズ野郎の次はストーカーか。しかも今回は、ひなみの命にも関わる問題だ。

 相手が相当ヤバい奴だったら、最悪殺されるかもしれない。


「そ、その話、本当なんだよね?」


「当たり前でしょ。冗談でも言う話じゃないわ。今日のお昼休みにひなみから相談を受けてね。一応、この話は内密にお願い」


「なるほど。だから今日の昼休み、二人は教室にいなかったのか……。内密に関しても分かった」


 ひなみは昼休みの時間、いつも友里と古井さんの傍にいる。しかし、今日は珍しく二人共教室におらず、友里だけが取り残されてしまった。まあ、友里は俺と一緒に音ゲーをしていたから、特に寂しそうにしていた様子はなかったが。


「相手の特徴とかは分かっているの?」


「いいえ。まだ手がかりすらないわ。インスタに送ってきたDMも、捨てアカからだから、特定は難しい。相手の特徴や年齢は一切不明。手がかりがあるとすれば、声だけね。男性の声だったごとぐらい。でもこれだけじゃ、何もできない」


「そっか……。これじゃどんな奴がストーカーなのか、皆目見当もつかないな」


「ええ。でも私の予想だけど、相手は学生かフリーター、もしくは無職の可能性が高いわ。サラリーマンではないと思う」


「え? そうなの?」


「理由はシンプル。下校後にひなみを尾行していたことを考えると、一般的なサラリーマンじゃあまず無理ね。あの下校時間帯は仕事をしているはず。だから日中でも動けることを考えると、学生やフリーターなどに絞れる」


「なるほどな。何にせよ、時間がたっぷりある人だったら、結構ヤバそうな感じがする……。一日中ひなみを追いかけまわすことができるかもしれないし」


「私も同じ。何をするか全く予想できないし」


 相手が何者かはまだ分からないが、相当な危険人物であることは確定だ。尾行して、DMをして、さらに家まで嗅ぎつけていたかもしれない。

 そのことを考えると、俺ですら怖くてビビッちまう。


「あと一週間で夏休みに入るから、それまでひなみを一人にしないようにしないとね」


「そうね。登下校は勿論、蜜柑のお迎えもついて行かないと、また狙われるわ」


「そうだな。とりあえず下校時は俺が偶然を装ってひなみにくっつくよ。蜜柑ちゃんをお迎えに行く時も、基本的に俺が行く」


「助かるわ。ひなみの近くに男がいれば、抑止力になると思うし。でも、あまりベタベタしないことね」


「いや……。さすがにストーカーに狙えれている時に、ひなみとイチャイチャ何てできないだろ」


「そういう意味じゃないわよ、アホ。仲良く見えすぎると、逆にストーカーから嫉妬されて、危ない展開になるかもしれないでしょ?」


「ああ、そういうことか……。確かに古井さんの言う通りだ」


 ストーカーが男性なのは確実。ひなみが蜜柑ちゃんと帰っている時に、男性の声を背後から聞いたと言っていたからな。

 だから同じ男である俺が、ストーカーに見せつける様にひなみとイチャイチャしていたら、相手がどう思うか……。


 非モテな俺でも容易に想像できる。間違いなく嫉妬して狂いだす。

 そうなれば、本当にひなみが危ない。ナイフでも持って、ひなみの心臓を突き刺してくるかもしれない。

 だからあくまで、ただの友達として近くにいることを心掛けないとな。


「夏休みに入るまで残り一週間あるわ。とりあえず君はひなみの傍にずっといること。さっきも言ったけど、ひなみは私にしか相談していない。だから変にストーカーの話題は出さないように。余計な心配はさせたくないし。私はここら辺に怪しい人物がいなか調べるわ」


「オッケー。じゃあ俺が護衛で、古井さんが調査役ってことだな」


「その認識で構わないわ。明日からお願いね。もし何かあったら、すぐに警察に通報しなさい」


「了解」


「あと、この話は絶対に他の人に言わないこと。噂話はすぐに学校中に広がるわ」

「分かっているよ。内密に」


「ええ。じゃあ明日からよろしく。おやすみ」


 古井さんはその言葉を最後に、通話を切った。

 とうとうストーカーまで出てくるとはな……。

 まあ、ひなみは『千年に一人の美少女』と呼ばれているほどの美少女だ。ストーカーが現れてもおかしくないと言えばそうだが。


 しかし、一体どんな奴なんだ……?

 古井さんの話を聞く限りだと、相手は間違いなく男性。未成年の美少女を狙うなんて、まともな奴じゃねぇ。

 ひなみが学校を出るまで、近くでずっと待機して、その後もつけていたなんて恐ろしいよ。

 危ない奴なのは間違いない。何としても守らないと……!



 ◇◇◇◇



 古井さんの話を聞いてから、早くも三日が過ぎた今日。

 夕焼け色に染まった空の下を、俺はひなみと蜜柑ちゃんと共に駅まで歩いている。

 古井さんに言われた通り、俺はひなみの傍にずっといるように心がけている。今日も、『蜜柑ちゃんに会いたいから、一緒に行ってもいい?』と、なるべく自然な流れで誘い、そのまま下校している。


 古井さんから相談を受けてから三日が過ぎたが、ストーカーの目撃や嫌がらせ行為は今のところ確認されていない。

 もしかしたら、見えない所からひなみを監視しているのかもしれないが、直接手を加えるような被害なない。


 でも油断はできない。あれから何も事件等は起きていないとはいえ、この先何が起きるかもしれない。

 だから今日も蜜柑ちゃんのお迎えを任されたということなので、当然ひなみについて行った。


 下校時間になってからもう随分と時間が経っているが、特に怪しい人はいない。というか、俺達三人以外、周囲には人っ子一人いない。

 どうやらこの時間帯はあまり人がいないらしい。

 だとすると、ストーカーからしてみれば絶好のチャンスだ。三日前にひなみに声をかけたのも、納得ができる。


 周囲には電柱や郵便ポストなどがあり、隠れながら尾行することができる。

 人がいないこの時間帯を狙って、声をかけたに違いない。

 ま、夏休みに入るまで、俺がひなみの傍にいるから、相手の思うようにはさせないけどな。


「最近、蜜柑によく会いたがっているけど、涼君は小さい子が好きなの?」


 俺がストーカーについて少し考えていると、隣を歩くひなみがそんなことを言い出した。


「うん。まあ好きだよ。俺にも妹がいてさ。小さい時によく面倒を見ていたから。あ、でもロリコンじゃないからね?」


「ふふっ。大丈夫だよ、涼君。そんな勘違いしないよ。でもちょっと意外だなー。涼君、子供が好きなんだ」


「あ、ああ。好きだよ」


 俺は秘密裏にひなみをストーカーから守っている。そのことを本人は知らない。もし知ってしまったら、余計な心配をさせてしまう。だから黙って傍にいるのだが、馬鹿正直にそんなこと言えるはずがない。


 だから会話の流れに合ったことを言っているだけ。といっても、小さい子が好きなのは本当だけど。(ロリコンではない)


「そっか。涼君は子供が好きなんだね……。良いお父さんになりそう」


 ボソッと呟いたひなみだが、俺の耳は彼女の言葉をキャッチしていた。

 ひなみにそんなことを言われると、例えお世辞だと分かっていても何か心が躍るな……。


「あ、ありがとうひなみ。もし結婚できたら良いお父さんになれるように頑張るよ」


「う、うん……。え? 待って! 今の言葉、聞こえてたの⁉」


「うん。声が小さかったけど聞き取れたよ」


 俺が顔を熱くしながらそう言うと、隣を歩くひなみから『カァァァ』と効果音が聞こえてきた。

 さっきの言葉を聞かれたくなかったのか、ひなみの顔は真っ赤になっていた。また、動揺しているのか、口をパクパクと開け、何かしゃべろうとしているが、恥ずかしいのか何も言い出せていなかった。

 ちくしょう。可愛いじゃねぇか。

 俺達はお互いのリアクションに気を取られていた、その時だ。


「涼兄、ひな姉。何さっきから顔を赤くしているの……?」


 ひなみの言葉に照れていると、俺達の真ん中を歩く蜜柑ちゃんが突然口を開いた。

 蜜柑ちゃんには当たり前だけどストーカーのことを教えていない。だから俺達のやり取りがよく理解できず、つい好奇心から聞いてきたのだろう。


「い、いや! 全然大したことじゃないよ……! 本当に!」


 俺が何とか誤魔化そうとするのだが……。


「……。なーんか隠しているでしょ?」


 蜜柑ちゃんの言葉に、俺は思わず目を逸らしてしまった。

何でこういう時だけ小さい子の勘は働くのかな? それとも俺の誤魔化し方が下手だったか?

 どちらにしろ、蜜柑ちゃんにはバレないようにしないと。


「べ、別に何も隠していないぞ? な、ひなみ?」


「え⁉ う、うん! 本当に何もないよ、蜜柑? お姉ちゃん達は何も隠していないから!」


 俺とひなみが何とか誤魔化そうとするが、しかし蜜柑ちゃんは腕を組み『う~ん』と言いながら、何か考え始める。

 そして数秒後、何か閃いたのか、突然目をキラキラさせて大声でこんなことを言い出した。


「あっ! 分かった⁉ 今度一緒にお昼寝しようって話してたんでしょ!」


「「それは絶対に違う!」」


 うん、やっぱり蜜柑ちゃんの勘はまったく鋭くなかったみたいだ。お昼寝という言葉など一言も言っていないのに、何故そんな勘違いを……。


「蜜柑ちゃん、ちなみに何でそう思ったの?」


「えー。だって、若い男女が話すことって、お菓子とお昼寝ぐらいでしょ?」


「それ蜜柑ちゃんが興味あることだけ言ってない? 蜜柑ちゃんの興味があることと、俺達の興味があることは、一致しないと思うぞ? さすがにこの年でお菓子とか昼寝なんか考えないし」


「……うそ! 美味しいお菓子を食べたいと考えないの⁉ 園長先生と一緒にお昼寝したいって考えないの⁉」


「普通考えないよ、蜜柑ちゃん。高校に園長先生なんていないし」


 俺がそう言うと、蜜柑ちゃんは深刻そうな顔をしながらひなみのスカートを小さい手でギュッと握る。


「ひな姉……。涼兄は人生を損しているよ。可愛そうだから、今度保育園で一緒にお昼寝とお菓子パーティーしていい?」


「さすがにそれはダメだよ、蜜柑……。それに涼君は蜜柑よりもずっとお兄さんなんだから」


 何故俺は幼稚園児にここまで同情されないといけないのか……。

 やっぱり蜜柑ちゃんはちょっと不思議だ。

 ひなみは品行方正で完璧な美少女。一方蜜柑ちゃんは常識が通用しないというか、自分の世界で生きる唯一無二の幼女。

 何だ、この姉妹は……。


「ひな姉、今度涼兄とお菓子パーティーでもしよ? あんまんマンのグミと、仮面ライバーのポテチ買ってきて、一緒にやろう?」


「蜜柑ちゃん……。途中からお菓子パーティーに自分の欲を混ぜてないかい……?」


「うん! 混ぜてるよ! だって食べたいんだもん!」


「じゃあ、そこにひじきも追加しておくか。お菓子ばかりだと体に悪いし」


「あーっ! 涼兄の意地悪! ひじき嫌いだからって、わざと入れようとしてる! やだやだやだやだ!」


 ひじきという言葉を言った瞬間、蜜柑ちゃんは小さな手をギュッと握りしめながら、俺の太ももをパコパコと叩き始めた。

 全く痛くないのだが、まあなんだろう……。

 幼女が必死になって抵抗している姿は、何とも可愛らしい。


 ひなみにもこんな時期があったのかな? イヤイヤ期とか誰でもあるだろうし。

 と、俺がそんなことを考えていると、突然蜜柑ちゃんは太ももを叩く手を止める。

 そして俺の顔をじっと見ながら、何かおねだりするかの様に手を伸ばした。


「涼兄……。疲れた。おんぶ」


 テンションの浮き沈みが凄いなおい……。

 さっきまであんなに必死になってはしゃいでいたというか、沢山喋っていたのに、もう顔がお疲れモードになっているよ。


「こら、蜜柑。家まで我慢しなさい!」


 ひなみが少し厳しく言うが、それでも蜜柑ちゃんは止まらない。


「やーだ! 涼兄の背中で寝たい! もう疲れた!」


「あはは……。まあいいよ、ひなみ。蜜柑ちゃん眠たそうだし、俺は気にしないからさ」


 このまま何もしなかったら、今すぐにでも蜜柑ちゃんは寝てしまいそうだ。瞼が半分ぐらい落ちているし。

 やっぱり蜜柑ちゃんは不思議だ。蜜柑ちゃんの行動は本当に読めない……。


「で、でも……涼君」


「いいって。大丈夫。ほら蜜柑ちゃん。おんぶするから」


「うぃ」


 蜜柑ちゃんの返事の後、俺はグッと腰を落として背中を向ける。すると蜜柑ちゃんは全体重を俺の背中に乗せ、そのまま爆速で寝てしまった。首を後ろに向けると、気持ち良さそうに眠っている。

 夢の世界に入るのが速すぎる……。


「涼君、ごめんね。蜜柑がいつも面倒なことばっかりしちゃって」


「全然平気。しかし、あんなにもはしゃいでいたのに、急に眠たくなるなんてな。やっぱり蜜柑ちゃんは本当よく分からないな」


「うん……。姉である私もまだ蜜柑のことを完璧に理解できてないの。だってね、この前も遊ぼって私の部屋に来たと思ったら、やっぱり寝るって言って私のベッドに入っちゃたの」


「なるほど、蜜柑ちゃんはその時の気分とかで、やりたいことがコロコロ変わり続けるのかもしれない」


 思い返せば初めてひなみの家に来た時も、仮面ライバーの物真似をしたと思ったら、次は謎のインタビューを受けた。

 蜜柑ちゃんは常に欲望のままに生きているのか。可愛らしいけど、ひなみとタイプが真逆というか全然似ていないが。


「よし、ひなみ。このままの駅まで行くか」


「うん! 蜜柑のわがままに付き合ってくれてありがとうね」


 夕焼け色に染まった空が少しずつ暗くなり始めるこの時。

 俺は蜜柑ちゃんをおんぶしながら、ひなみと楽しく会話をしながら共に駅まで歩いたのだった。

 ひなみと会話中、俺は警戒を怠らず常に周囲を観察していたが、やはり怪しい人影を俺は見なかった。

 ストーカーは、姿を見せなかった。


――――

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